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ばんがいへん
護衛という名の影たちの苦悩
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我が主は、非常に奥方様を愛しておられる。
奥方様の護衛として選出されたのは五人。内四人は男だ。何が言いたいかおわかりだろうか。
主の視線が痛い。
奥方様に、四六時中男が張り付いていることが赦せないようだ。
我々影になる者たちは、ディレイガルド家の系譜の者たち。代々の当主に共通して言えることは、奥方様への執着が凄い。中でも現当主エリアスト様は、歴代一位を飾れるのではないかと言うほど。
いや、わかっている。わかっているんだ、主とて。
選出された五人は、影の中での上位五人。奥方様の身の安全が一番。血を吐く思いで、断腸の思いで、我々を奥方様の護衛にしたのだ。本当だったら、護衛をすべて女性で固めたい。いや、本当の本当は、主自らが奥方様の側にいたいのだ。自分が側にいられない代わりを任せることすら、主には耐え難いようだ。それでも奥方様に笑っていて欲しいから、邸に閉じ込めたりせず、自由を与えている。それを奥方様もわかっているようで、不要な外出はしない。主の心に常に配慮している、素晴らしい方なのだ。
そして時々我々護衛に差し入れもしてくださる。もちろん主の許可を得た上でのものだ。さらに当然のことながら、奥方様チョイスの差し入れではない。なんと驚くべきことに、主自ら選んだものをくださる。何と言うか、例えそれが道端の花一つだとしても、もの凄く凄い物をいただいているような気になる。いや、それはそれで何か本当に凄いな。主が道端で花を摘むって。
話が逸れた。
そう、主の無茶振りが酷いことも、我々の悩みの種だ。
護衛対象である奥方様の声を聞くことも許し難いと言うので、声の届かないギリギリに位置取る。けれど、何かあったらその身を盾にしろと言う。一瞬で奥方様の壁となれるよう、脚力を上げねば。奥方様は穏やかに話をされる方なので、然程離れずに済んでいることはありがたい。きっと奥方様は、そうして我々に配慮してくださっているのだ。ただ、茶会においてのみ、唯一の女護衛が側にいることを許可している。ただし、口論程度では我々が動くことを奥方様が許可をしない。危害へと発展しそうな場合のみ、我々が介入することを許されている。その裁量は我々に任せてくださっているので、僅かでもその気配を感じると、すかさず介入する。奥方様が、我々の判断の早さに苦笑している気配を感じるが、何かあってからでは遅すぎるのだ。我々の首が(物理的に)飛ぶのは構わない。奥方様は本当に素晴らしい方なので、ただただ穏やかに過ごして欲しい、それだけだ。
声を聞くことすらダメだと言うのだから、当然触れるなんて以ての外。そのため、小石に躓いて転倒してしまうことさえ防ぐために、我々はフル稼働だ。
それから、我々ディレイガルドの護衛は、護衛対象より大切なものがあってはならない。万が一にも迷うことがあってはならないからだ。そのことから、当然奥方様が一番となるわけなのだが。
「貴様らに等しく価値はない。エルシィのためだけに生き、エルシィのためだけに死ね」
主のその言葉に我々が命を捧げる礼をとると、主の顔が不機嫌になった。
「貴様ら如きがエルシィのことを考えることすら烏滸がましいと思わないか」
もうどうしたいの、主。どうしたらいいの。
一番困ることは、奥方様を見るなと言う命令だ。護衛対象を見るなって、主。もう我々の視界は、奥方様にエフェクトをかけるしかない。
正に、万難を排して警護にあたっているわけである。
でも主。見るな、という命令だけは、何とかなりませんか。
*おしまい*
次でばんがいへん最後になります。
全五話、婚約初期の頃のようなエル様が出てくる、架空のお話しです。
奥方様の護衛として選出されたのは五人。内四人は男だ。何が言いたいかおわかりだろうか。
主の視線が痛い。
奥方様に、四六時中男が張り付いていることが赦せないようだ。
我々影になる者たちは、ディレイガルド家の系譜の者たち。代々の当主に共通して言えることは、奥方様への執着が凄い。中でも現当主エリアスト様は、歴代一位を飾れるのではないかと言うほど。
いや、わかっている。わかっているんだ、主とて。
選出された五人は、影の中での上位五人。奥方様の身の安全が一番。血を吐く思いで、断腸の思いで、我々を奥方様の護衛にしたのだ。本当だったら、護衛をすべて女性で固めたい。いや、本当の本当は、主自らが奥方様の側にいたいのだ。自分が側にいられない代わりを任せることすら、主には耐え難いようだ。それでも奥方様に笑っていて欲しいから、邸に閉じ込めたりせず、自由を与えている。それを奥方様もわかっているようで、不要な外出はしない。主の心に常に配慮している、素晴らしい方なのだ。
そして時々我々護衛に差し入れもしてくださる。もちろん主の許可を得た上でのものだ。さらに当然のことながら、奥方様チョイスの差し入れではない。なんと驚くべきことに、主自ら選んだものをくださる。何と言うか、例えそれが道端の花一つだとしても、もの凄く凄い物をいただいているような気になる。いや、それはそれで何か本当に凄いな。主が道端で花を摘むって。
話が逸れた。
そう、主の無茶振りが酷いことも、我々の悩みの種だ。
護衛対象である奥方様の声を聞くことも許し難いと言うので、声の届かないギリギリに位置取る。けれど、何かあったらその身を盾にしろと言う。一瞬で奥方様の壁となれるよう、脚力を上げねば。奥方様は穏やかに話をされる方なので、然程離れずに済んでいることはありがたい。きっと奥方様は、そうして我々に配慮してくださっているのだ。ただ、茶会においてのみ、唯一の女護衛が側にいることを許可している。ただし、口論程度では我々が動くことを奥方様が許可をしない。危害へと発展しそうな場合のみ、我々が介入することを許されている。その裁量は我々に任せてくださっているので、僅かでもその気配を感じると、すかさず介入する。奥方様が、我々の判断の早さに苦笑している気配を感じるが、何かあってからでは遅すぎるのだ。我々の首が(物理的に)飛ぶのは構わない。奥方様は本当に素晴らしい方なので、ただただ穏やかに過ごして欲しい、それだけだ。
声を聞くことすらダメだと言うのだから、当然触れるなんて以ての外。そのため、小石に躓いて転倒してしまうことさえ防ぐために、我々はフル稼働だ。
それから、我々ディレイガルドの護衛は、護衛対象より大切なものがあってはならない。万が一にも迷うことがあってはならないからだ。そのことから、当然奥方様が一番となるわけなのだが。
「貴様らに等しく価値はない。エルシィのためだけに生き、エルシィのためだけに死ね」
主のその言葉に我々が命を捧げる礼をとると、主の顔が不機嫌になった。
「貴様ら如きがエルシィのことを考えることすら烏滸がましいと思わないか」
もうどうしたいの、主。どうしたらいいの。
一番困ることは、奥方様を見るなと言う命令だ。護衛対象を見るなって、主。もう我々の視界は、奥方様にエフェクトをかけるしかない。
正に、万難を排して警護にあたっているわけである。
でも主。見るな、という命令だけは、何とかなりませんか。
*おしまい*
次でばんがいへん最後になります。
全五話、婚約初期の頃のようなエル様が出てくる、架空のお話しです。
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