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2.メルナーゼ
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「まあ、精々あたしのためにお勉強、頑張ってね?あたし、執務とか面倒なことキライだから、あんたが全部やるのよ」
王太子妃教育が終わると、執務室で仕事が待っている。メルナーゼの仕事ではない。王太子であるヤトラスの仕事だ。メルナーゼの仕事は、妃教育の休憩時間などの隙間時間で終わらせている。まだ婚約者という立場のため、振られる仕事は然程ない。だが、ヤトラスの仕事を振られていると思っていない周囲は、“大して仕事量もないのに妃教育後の時間をあんなに使わないと出来ないなんて、先が思いやられる”と呆れていた。それをメルナーゼは、唇を噛んでやり過ごす。自分が何を言っても誰にも信じてもらえないことは、嫌と言うほどわかっている。耐えるしかない。耐えるしか、ないのだ。
そんなメルナーゼに、毎日のようにムーシャルアは暴言を吐く。学園で取り巻きを引き連れ、事ある毎にメルナーゼを貶める。
「あんたみたいなのが正妃とか、笑わせないでよ。側妃にしてあげるから、あたしのサポート、しっかりしてちょうだいね」
今までの経験上から、メルナーゼに社交は難しいだろう。何を言っても何をしても、嫌悪される。それでは、とても正妃など務まらない。だから、ムーシャルアが正妃になることに否やはない。寧ろ大歓迎だ。
だからこそ思う。
何故自分が王太子の婚約者のままいられるのか。
悪評は両陛下の耳に入っていないはずがないし、重鎮たちも苦言を呈しているはずだ。メルナーゼが酷い扱いを受けていると知られれば両親に失望されると頑張っているが、酷い扱いとは真逆の悪評が両親の耳に入っていないとも思えない。大人たちは、“王太子妃に相応しくあれ”と言い、同年代たちからは、“おまえは王太子妃に相応しくない”と攻撃される。それなのに、誰からもメルナーゼを婚約者の役目から解放しろと声が上がらない。
「爵位しか取り柄のない地味女なんて、ヤトが可哀相でしょ?だから、あたしがヤトを支えてあげるの。おわかり?あんたでは無理だって」
嗤われ、貶められ、辱められ。それでも何故か、メルナーゼは王太子妃となるべく教育を受けさせられる。
ムーシャルアの言う通り、メルナーゼに妃教育を完了させ、面倒事をすべて押しつけ、社交はムーシャルアにさせるためだろうか。それでも、ある程度の妃教育をムーシャルアに受けさせないことには、無理が生じそうではあるが。
色々考えたところで、凡人の自分が理解出来ることなどないのだろう。
「あんたみたいな人間を側妃にしてあげるんだから、ヤトとあたしに感謝なさい」
たっぷりと嫌味を浴びせかけ満足したのか、取り巻きたちと去って行く。メルナーゼの脇を通る際、わざとぶつかってメルナーゼを転ばせることを忘れずに。
ムーシャルアたちの姿が見えなくなってから、ゆっくりと立ち上がり、制服の汚れを叩いて落とす。
今にも雨粒を落としそうな曇天の空は、メルナーゼの心を表しているようだった。
メルナーゼも、最初からこうだったわけではない。
幼い頃は、家族や使用人たちからの理不尽さに泣いて抗議もしていた。兄や妹と同じことをしても、メルナーゼだけが怒られる。
なぜ、どうして。
何度繰り返してきた言葉だろう。
大人の言うことを聞いて、言われた通りのことをしても、些細なことで咎められた。兄も妹も、メルナーゼより劣る出来でも、大層褒められているのに。
人と比べることは良くないとわかっていても、理不尽さに声を上げる。
お兄様よりもわたくしの方がきちんと出来ているではないですか。
そう言うと、男の子にそこまでのことは求めていない、と厳しく叱責された。
同じように妹と比べると、自分より幼い者と比べて恥ずかしくないのか、とやはり怒られる。妹の年齢の頃の自分と比べて言っているのだが、もちろん通じない。兄妹と比べるその性根が歪んでいると、酷いときは鞭で打たれた。
両親はメルナーゼと兄妹をいつも比べているのに。
使用人たちにも味方はいない。家族に倣ってメルナーゼを批判する。時には憂さ晴らしのように嘘の報告を両親に上げ、メルナーゼを叱責させて陰で嗤っていた。
いつしかメルナーゼは、何も言わなくなった。
*つづく*
王太子妃教育が終わると、執務室で仕事が待っている。メルナーゼの仕事ではない。王太子であるヤトラスの仕事だ。メルナーゼの仕事は、妃教育の休憩時間などの隙間時間で終わらせている。まだ婚約者という立場のため、振られる仕事は然程ない。だが、ヤトラスの仕事を振られていると思っていない周囲は、“大して仕事量もないのに妃教育後の時間をあんなに使わないと出来ないなんて、先が思いやられる”と呆れていた。それをメルナーゼは、唇を噛んでやり過ごす。自分が何を言っても誰にも信じてもらえないことは、嫌と言うほどわかっている。耐えるしかない。耐えるしか、ないのだ。
そんなメルナーゼに、毎日のようにムーシャルアは暴言を吐く。学園で取り巻きを引き連れ、事ある毎にメルナーゼを貶める。
「あんたみたいなのが正妃とか、笑わせないでよ。側妃にしてあげるから、あたしのサポート、しっかりしてちょうだいね」
今までの経験上から、メルナーゼに社交は難しいだろう。何を言っても何をしても、嫌悪される。それでは、とても正妃など務まらない。だから、ムーシャルアが正妃になることに否やはない。寧ろ大歓迎だ。
だからこそ思う。
何故自分が王太子の婚約者のままいられるのか。
悪評は両陛下の耳に入っていないはずがないし、重鎮たちも苦言を呈しているはずだ。メルナーゼが酷い扱いを受けていると知られれば両親に失望されると頑張っているが、酷い扱いとは真逆の悪評が両親の耳に入っていないとも思えない。大人たちは、“王太子妃に相応しくあれ”と言い、同年代たちからは、“おまえは王太子妃に相応しくない”と攻撃される。それなのに、誰からもメルナーゼを婚約者の役目から解放しろと声が上がらない。
「爵位しか取り柄のない地味女なんて、ヤトが可哀相でしょ?だから、あたしがヤトを支えてあげるの。おわかり?あんたでは無理だって」
嗤われ、貶められ、辱められ。それでも何故か、メルナーゼは王太子妃となるべく教育を受けさせられる。
ムーシャルアの言う通り、メルナーゼに妃教育を完了させ、面倒事をすべて押しつけ、社交はムーシャルアにさせるためだろうか。それでも、ある程度の妃教育をムーシャルアに受けさせないことには、無理が生じそうではあるが。
色々考えたところで、凡人の自分が理解出来ることなどないのだろう。
「あんたみたいな人間を側妃にしてあげるんだから、ヤトとあたしに感謝なさい」
たっぷりと嫌味を浴びせかけ満足したのか、取り巻きたちと去って行く。メルナーゼの脇を通る際、わざとぶつかってメルナーゼを転ばせることを忘れずに。
ムーシャルアたちの姿が見えなくなってから、ゆっくりと立ち上がり、制服の汚れを叩いて落とす。
今にも雨粒を落としそうな曇天の空は、メルナーゼの心を表しているようだった。
メルナーゼも、最初からこうだったわけではない。
幼い頃は、家族や使用人たちからの理不尽さに泣いて抗議もしていた。兄や妹と同じことをしても、メルナーゼだけが怒られる。
なぜ、どうして。
何度繰り返してきた言葉だろう。
大人の言うことを聞いて、言われた通りのことをしても、些細なことで咎められた。兄も妹も、メルナーゼより劣る出来でも、大層褒められているのに。
人と比べることは良くないとわかっていても、理不尽さに声を上げる。
お兄様よりもわたくしの方がきちんと出来ているではないですか。
そう言うと、男の子にそこまでのことは求めていない、と厳しく叱責された。
同じように妹と比べると、自分より幼い者と比べて恥ずかしくないのか、とやはり怒られる。妹の年齢の頃の自分と比べて言っているのだが、もちろん通じない。兄妹と比べるその性根が歪んでいると、酷いときは鞭で打たれた。
両親はメルナーゼと兄妹をいつも比べているのに。
使用人たちにも味方はいない。家族に倣ってメルナーゼを批判する。時には憂さ晴らしのように嘘の報告を両親に上げ、メルナーゼを叱責させて陰で嗤っていた。
いつしかメルナーゼは、何も言わなくなった。
*つづく*
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