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5.メルナーゼだった者2
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創造主の言葉を遮り、女性は呆れたように言う。
「おまえは上に立つには優しすぎるの。幾億の、幾兆の命をおまえは生みだしたのかしら。それらすべてに気をやるなど、土台無理な話。目に入ってしまったから、なんて、それこそ不平等ではなくて?」
『え?』
「おまえの目に入らず、理不尽に命を散らした者だっていたはずですわ。知らなかったからいい、という話ですの?」
『キミの、話は、間違ってないよ。それでも、目に入ってしまったんだ。だから、助けたいと思ったんだよ』
「まあ、創造主ですものね。そのくらい傲慢でも当然ですわね」
“命を救いたい”との願いを、“不平等なのは仕方がない”、と捉えて傲慢だという女性の心理を、その通りだと創造主は受け入れる。
「おまえが助けないということは、おまえは命を生みだし見守ることしか出来ない、ということですわね」
『その通りだ』
女性は少し考える。
「わたくしが頷いたら、その娘を助けるためにわたくしが動かなくてはならないの?」
『いや、メルナーゼの魂は、今までのつらい思いを浄化させ、新しい生へと生まれ変わらせる。キミは、彼女の体と記憶を引き継いで生きて欲しい』
女性はまた少し考えた。
「いいでしょう。魔法とやらがどのようなものか。楽しんできましょう」
『引き受けてくれるか!ありがとう!』
「その結果、世界が壊れたとしても、わたくしのせいではなくてよ」
『う、お、おぅ?』
「一人を救うために、世界が壊れる。カタルシスですわ」
『カ、カタルシス、なんだ』
こうして女性は、理不尽に生を終えるはずの少女の記憶と体を引き継いだ。
………
……
…
新たな人生を歩む女性がゆっくり目を開けると。
「まあ。こんなところからですの?」
目の前には、仲睦まじい男女の姿。
メルナーゼの体と記憶を継承した女性は、呆れたように言葉を吐く。その記憶から、当然交流会なんて出る気などなかったのというのに。
女性は溜め息を吐いた。
神様。
もし本当に神様がいらっしゃるなら。
もう、このまま、目を開かせないでくださいませ。
創造主たる神は、メルナーゼの願いを聞き入れた。
メルナーゼは、もういない。
あれは、もう、メルナーゼではない。
見たことのないメルナーゼを呆然と見送って、どれだけ時間が経っただろう。
「な、に、あれ」
絞り出された、呟くようなムーシャルアの声に、全員が我に返ったように動き出す。
蹲る護衛とこめかみから血を流して意識を失う女官は、ようやく医務室へ運ばれた。
女官は三針縫うこととなり、頭の骨にもヒビが入っていた。護衛の肋は四本骨折、三本ヒビが入っており、折れた骨が肺を傷つけていたという。
公爵邸に戻ると、使用人誰もがメルナーゼに関心を向けることなく各々仕事をしている。その様子に、メルナーゼは目を細める。そして扇で壁を勢いよく叩くと、周囲にいた使用人たちは一斉に驚いた表情で音のする方を向く。微笑んで佇むメルナーゼの行為であると気付くと、一番近くにいたメイドが、メルナーゼを叱責した。
「お嬢様!私たちは忙しいのですよ!ふざけて邪魔をするなんて」
そこでメイドの言葉は途切れた。メルナーゼが、持っていた扇をメイドに向かって投げつけたのだ。その扇は、狂いなくメイドの口に突っ込まれ、メイドは卒倒した。
「使用人の分際で、誰に口を利いているのかしら」
誰もが信じられないものを見るように、メルナーゼを凝視している。
「誰でもいいわ。すぐに湯浴みの準備をなさい」
「す、すぐ、ですか?今は」
震えながら答えたメイドが、ヒッ、と息をのむ。メルナーゼがあまりにも冷たい目をしていたからだ。
「返事は、はい、よ」
「は、はい、かしこ、まり、ました」
「急ぎなさいな」
頭を下げ、メイドたちは急ぎ湯浴みの準備に取りかかる。
「ああ、それと」
メルナーゼの声に、ビクリと肩を揺らし、青い顔のメイドたちが恐る恐るメルナーゼを伺う。
「新しい扇を用意なさい」
その言葉に、メイドたちは卒倒しているメイドを見、慌てて頭を下げた。
「言われなくとももちろん、わかっていたでしょうけど、ね」
笑うメルナーゼに、さらに深く頭を下げた。
誰だ、これは。
そこにいた全員が、逆らうことの許されない圧倒的な雰囲気にのまれていた。
*つづく*
「おまえは上に立つには優しすぎるの。幾億の、幾兆の命をおまえは生みだしたのかしら。それらすべてに気をやるなど、土台無理な話。目に入ってしまったから、なんて、それこそ不平等ではなくて?」
『え?』
「おまえの目に入らず、理不尽に命を散らした者だっていたはずですわ。知らなかったからいい、という話ですの?」
『キミの、話は、間違ってないよ。それでも、目に入ってしまったんだ。だから、助けたいと思ったんだよ』
「まあ、創造主ですものね。そのくらい傲慢でも当然ですわね」
“命を救いたい”との願いを、“不平等なのは仕方がない”、と捉えて傲慢だという女性の心理を、その通りだと創造主は受け入れる。
「おまえが助けないということは、おまえは命を生みだし見守ることしか出来ない、ということですわね」
『その通りだ』
女性は少し考える。
「わたくしが頷いたら、その娘を助けるためにわたくしが動かなくてはならないの?」
『いや、メルナーゼの魂は、今までのつらい思いを浄化させ、新しい生へと生まれ変わらせる。キミは、彼女の体と記憶を引き継いで生きて欲しい』
女性はまた少し考えた。
「いいでしょう。魔法とやらがどのようなものか。楽しんできましょう」
『引き受けてくれるか!ありがとう!』
「その結果、世界が壊れたとしても、わたくしのせいではなくてよ」
『う、お、おぅ?』
「一人を救うために、世界が壊れる。カタルシスですわ」
『カ、カタルシス、なんだ』
こうして女性は、理不尽に生を終えるはずの少女の記憶と体を引き継いだ。
………
……
…
新たな人生を歩む女性がゆっくり目を開けると。
「まあ。こんなところからですの?」
目の前には、仲睦まじい男女の姿。
メルナーゼの体と記憶を継承した女性は、呆れたように言葉を吐く。その記憶から、当然交流会なんて出る気などなかったのというのに。
女性は溜め息を吐いた。
神様。
もし本当に神様がいらっしゃるなら。
もう、このまま、目を開かせないでくださいませ。
創造主たる神は、メルナーゼの願いを聞き入れた。
メルナーゼは、もういない。
あれは、もう、メルナーゼではない。
見たことのないメルナーゼを呆然と見送って、どれだけ時間が経っただろう。
「な、に、あれ」
絞り出された、呟くようなムーシャルアの声に、全員が我に返ったように動き出す。
蹲る護衛とこめかみから血を流して意識を失う女官は、ようやく医務室へ運ばれた。
女官は三針縫うこととなり、頭の骨にもヒビが入っていた。護衛の肋は四本骨折、三本ヒビが入っており、折れた骨が肺を傷つけていたという。
公爵邸に戻ると、使用人誰もがメルナーゼに関心を向けることなく各々仕事をしている。その様子に、メルナーゼは目を細める。そして扇で壁を勢いよく叩くと、周囲にいた使用人たちは一斉に驚いた表情で音のする方を向く。微笑んで佇むメルナーゼの行為であると気付くと、一番近くにいたメイドが、メルナーゼを叱責した。
「お嬢様!私たちは忙しいのですよ!ふざけて邪魔をするなんて」
そこでメイドの言葉は途切れた。メルナーゼが、持っていた扇をメイドに向かって投げつけたのだ。その扇は、狂いなくメイドの口に突っ込まれ、メイドは卒倒した。
「使用人の分際で、誰に口を利いているのかしら」
誰もが信じられないものを見るように、メルナーゼを凝視している。
「誰でもいいわ。すぐに湯浴みの準備をなさい」
「す、すぐ、ですか?今は」
震えながら答えたメイドが、ヒッ、と息をのむ。メルナーゼがあまりにも冷たい目をしていたからだ。
「返事は、はい、よ」
「は、はい、かしこ、まり、ました」
「急ぎなさいな」
頭を下げ、メイドたちは急ぎ湯浴みの準備に取りかかる。
「ああ、それと」
メルナーゼの声に、ビクリと肩を揺らし、青い顔のメイドたちが恐る恐るメルナーゼを伺う。
「新しい扇を用意なさい」
その言葉に、メイドたちは卒倒しているメイドを見、慌てて頭を下げた。
「言われなくとももちろん、わかっていたでしょうけど、ね」
笑うメルナーゼに、さらに深く頭を下げた。
誰だ、これは。
そこにいた全員が、逆らうことの許されない圧倒的な雰囲気にのまれていた。
*つづく*
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