願いの代償

らがまふぃん

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6.旧知

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 湯浴みを終えて自室で寛いでいると、扉が許可もなく開かれた。
 「お嬢様、ご当主様がお呼びですよ。急いでください」
 メルナーゼの父親付きの従者だ。
 メルナーゼはティーカップをソーサーに戻し、側に控えているメイドに言った。
 「ねえ。わたくし、今日は焼き菓子ではなくチョコレートの気分よ」
 「も、申し訳ございませんっ。すぐにご用意して参りますっ」
 従者の横をすり抜け、メイドが急ぎメルナーゼの要求を叶えに走る。その様子に、従者が間抜けな顔を晒す。パクパクと口を開閉させる従者に、メルナーゼは冷たく笑った。
 「おまえ。わたくしの部屋に勝手に入るとは。無礼にもほどがあるわよ」
 途端、従者の体が何かに押さえつけられるように床に伏した。全身が床に縫い付けられているように動かず、重石を乗せられているような圧迫感で呼吸もままならないのだろう。涎と鼻水を垂らしながら、今にも意識が飛びそうな従者に言った。
 「やり直し。誠心誠意仕えるのよ」
 従者の体が部屋の外に吹き飛び、壁にめり込む。声にならない声を上げ、従者は意識を飛ばして廊下に落ちた。メルナーゼが蔑むようにフン、と鼻を鳴らすと、不快な男の姿を遮るように部屋の扉が閉まった。
 一方、従者にメルナーゼを呼びに行かせたメルナーゼの父である公爵は、王宮から至急届けられた文書に、渋面を作っていた。
 本日の交流会でのことを説明に至急王宮に来るように、という内容だったからだ。
 何かあったことは明らかだが、メルナーゼからは何の報告もない。そもそも、今日が王太子との交流会であるなら、その時間が終わったばかりの時間帯だ。まだ王宮にいるはずなのだから、メルナーゼがこの邸に戻ってきていること自体おかしなことだ。自室にいるようなら、すぐに説明をさせなくては。そう思っていたが、なかなか従者が戻ってこない。メルナーゼは自室にいないのだろうか。そもそも帰ってきているのだろうか。側にあるベルを鳴らすと、すぐに執事がやって来た。
 「はもう帰ってきているのか?殿下との交流会のはずだぞ」
 言われて執事は、馬車から降りて玄関に入るメルナーゼの姿を見かけたことを思い出す。
 「はい。だいぶ前にお帰りになられております。交流会、でしたか。それは変ですね」
 やはりいるらしい。交流会なら、今王宮を出るか出ないかという時間のはずなのだ。気付いた執事も首を傾げる。
 「だいぶ前か。とにかく呼んで来るように」
 執事が一礼して部屋を出た。





 先程とは雲泥の差で、丁寧に扉が叩かれた。執事が名乗ると、メルナーゼはメイドを見た。メイドは慌てて頭を下げ、扉を開く。恭しく頭を下げる執事に、メルナーゼは声をかける。
 「何用かしら」
 用件を聞くに値する態度だったのだろう、メルナーゼがそう口にした。
 「ご挨拶をいたしたく、馳せ参じました。この矮小なる身に、姫様のお側に跪く栄誉をお与え願えませんでしょうか」
 いつもと様子の違う執事に、メイドはギョッとする。頭を下げたまま微動だにせず、メルナーゼの許可を待つその姿は、どう見てもメルナーゼをあるじとした下僕だった。
 目を白黒させるメイドなど視界にすら入らず、メルナーゼは既視感を覚えて首を傾げた。
 「おまえ、わたくしをようね」
 その言葉に、執事は震えた。

 ああ、ああ、ああ!なんと、何という僥倖!

 あまりの歓喜に涙が溢れる。それでも頭は下げたまま。彼女の許可がないのに、そんな無礼、出来ようはずもない。
 「挨拶を許可してよ」
 彼女の前で無様な姿を晒すなど、絶対にしたくない。嬉しくて飛び出してしまいたい衝動を堪え、優雅に、気品溢れる姿勢でメルナーゼの前に辿り着くと、躊躇いもなく膝をつき、さらにはその靴に口づけた。
 その行動から、メルナーゼは既視感の正体に辿り着く。

 「ふふ。おまえは変わらないのね、



*つづく*
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