願いの代償

らがまふぃん

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7.知る者

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 姿形が変わっているにもかかわらず、をわかってくれた。
 彼女の前で無様な姿など絶対に晒すことはしたくなかったというのに、と呼ばれた執事はあまりの悦びから大泣きしてしまった。
 暫くしてようやく落ち着いた執事は失態を平謝りする。しかし、メルナーゼは興味がなさそうに扇を広げた。では、宰相という立場にありながら、彼女の一番近くにいた今世執事は、それだけで彼女の心内を見抜く。
 「そこのメイド。姫様は少々お疲れだ。あとは私がやる。おまえは呼ばれるまで控えておけ」
 執事はメルナーゼの足下に平伏しながらも、顔だけをメイドに向け、眼光鋭く命令を下す。
 通常、未婚の、それも婚約者のいる令嬢を、男性使用人と二人きりになどさせられるはずもないが、メイドは逆らう術を持たなかった。
 そして執事は、やはりメルナーゼの足下に平伏しながら、うっとりとした表情で、声で、こいねがう。
 「姫様、その尊い御身に触れる無礼をお許し下さい」
 今の状態のメルナーゼは声すら出さないだろうと、メルナーゼの返事をために顔を上げた。メルナーゼの視線ひとつで許可が下りたことを理解し、壊れ物を扱うようにそっとその体を抱き上げる。
 あまりに自然に、当然のようなそのやり取りに、メイドはもう許容範囲を超えたようで、ただ呆然と一礼をして部屋を出ることしか出来なかった。





 執事さえも戻らないことに業を煮やした公爵は、足音荒くメルナーゼの部屋に向かう。苛立つ公爵だったが、進む内に少しの違和感を持つ。使用人たちの様子がおかしい気がするのだ。そして、メルナーゼの部屋の近くに、何かが転がっていることで違和感が決定的になった。
 「これは、何があった」
 扉の側に控えるメイドに声をかけると、メイドは顔を青ざめさせながら首を横に振る。当主への態度としては懲罰ものだが、公爵はそれどころではない。壁が壊れ、人が倒れ、それが自分の従者であり、普段控えることのない扉の前に控えるメイド。すべてがおかしいのだ。
 公爵はメイドを押しのけ扉を開く。そしてそこにあるものを見て、公爵は怒りを露わにした。
 「おい!貴様はそこで何をしている!私はソレを連れて来いと言ったはずだ!」
 ベッド側に膝をついて控えていた執事は、ベッドのカーテンが下りた内側を気にする素振りを見せた後、とても仕える者へ向ける目ではない目を向けた。
 「静かにしろ。姫様の邪魔をするな、下郎が」
 公爵へと早足で近付きながらそう言った執事に、公爵の目が限界まで開かれた。
 何が起こったのか、公爵の執務室を出る前の執事と、まったくの別人に見える。
 戸惑う公爵の目の前に来た執事は、躊躇いなく顔面を片手で掴む。くぐもった声を漏らす公爵に構うことなく、そのまま公爵を引きずって部屋から追い出そうとする。が、そこで、誰かから何かを聞きつけたのか、夫人までやって来た。執事の行動に驚愕しつつも、叱責する金切り声を上げた。執事ははっきりと舌打ちをし、夫人の口も押さえながら追い出そうとしたところで。

 「本当に不快ね」

 崇拝する主の不機嫌な声がした。
 執事は二人を放り投げ、急ぎメルナーゼの元へ膝をつく。
 「姫様、大変申し訳ございませんっ。すぐにあの者たちを処分して参りますっ」
 そう言うと、また直ぐさま有言実行に移すべく動きかけ。
 「ああ、いいわ。く、連れてらっしゃい」
 「かしこまりました」
 執事はメルナーゼが絶対。メルナーゼが白と言えば、黒いモノも白と言う。

 すべて、メルナーゼの望みのままに。

 執事は公爵夫妻の襟首を掴んでメルナーゼの前に跪かせた。どこから出したのか、ロープで両手を後ろ手に縛り、足を正座の形にして縛り付ける。
 「貴様っ、どういうつもりだ!」
 怒鳴りつける公爵を無視して、執事は公爵が部屋に入ってきたときと同じようにベッド側に控えた。
 「おい、聞いているのか!」
 「うるさいこと。少しは静かに出来ないものかしら」
 その言葉に、執事が素早く動く。
 公爵の悲鳴が響いた。



*つづく*
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