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11.退屈凌ぎ4
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助けたいのなら、早くゲームを終わらせましょう。
誰もが残酷な選択を強いられた。
「おまえは?地に頭を擦りつけないのかしら」
広げた扇を口元で覆いながら、ムーシャルアに微笑みかけるメルナーゼ。ヤトラスはもう口から泡を吹いて倒れている。それでも自分の首を絞める力は緩んでいない。猶予はない。全員がムーシャルアに叫ぶ。
おまえが頭を下げないと殿下は死んでしまう、おまえは殿下を殺す気か、王太子が死んでもいいのか、殿下が死んだらおまえのせいだ。
誰もがもう一つの命を見ないフリをする。絶望に顔を染めた女生徒から、目を背ける。
自身らの罪を誤魔化すように、口々に罵倒に近い形でムーシャルアを責め立てた。ムーシャルアは悔しそうに歯ぎしりすると、怒りに震えながら土下座をした。
全員が、王太子ヤトラスを選んだ。
「ふふふ。これしきのことでこれまでのことを赦す気などさらさらありませんもの。だからね?」
口元を隠していた扇を下げると、その唇は、楽しそうに弧を描いた。
「元々殺すつもりはなかったのよ?」
「おまええええぇぇぇぇっ!!」
激昂したムーシャルアが、メルナーゼに飛びかかろうとする。しかし、突風が彼女に襲いかかり、後ろに転がった。
「ああうるさいこと」
怒りに身を震わせて起き上がるムーシャルアの目の前に、黒い糸が通された針が浮かぶ。
「うるさいおクチは縫って差し上げましょう」
その光景に、女性陣は全員意識を失い、男性陣は青ざめた。ムーシャルアから聞こえていた絶叫は、今はくぐもったものになっている。口を押さえた手は血に塗れ、指の隙間からも血が流れている。
「ああ、そうそう。おまえにもう用はないわ」
球体の女生徒は泣き叫んでいるようだ。しかし、その声は届かない。球体が小さくなっていく。女生徒は身動きが取れなくなっていき、やがて球体は消えた。
そうしてメルナーゼは、欠伸を零した。
その姿に、全員の体がガタガタと震えて止まらない。
「そこのおまえ」
男子生徒の一人を扇で指す。指された子息は、それだけで土下座をし、赦しを乞う。当然メルナーゼはそんな行動を気に止めることもなく、自分の要求だけを突きつける。
「あそこで暢気に寝ている男を起こしてくださいな。大切なお話をしたいのです」
のびているヤトラスに、子息は震えながら近付いていった。
化粧も剥げ落ち、顔から出る様々な液体で汚れて意識を失うムーシャルアの凄惨な姿に、ヤトラスは口を開けなかった。
授業は疾うに始まっているが、それどころではない。教師たちすら、動けずに成り行きを見つめているばかりだ。
用意させた椅子にゆったりと座り、艶然と微笑むメルナーゼの姿は、誰もが見惚れる美しさだ。その後ろに控える壮年の男も、身なりは執事のようだが、纏う空気が王に匹敵する。不敬を承知で言ってしまえば、ヤトラスや他の王子王女たちよりも王族らしい。
メルナーゼは、広げた扇を口元にあてながら話し始めた。
「わたくしの一番キライなこと、教えましょうね」
正座をさせられているヤトラスは、もう屈辱よりも、恐怖の方が上回っていた。話し始めたメルナーゼの声に、ビクリと肩を揺らす。気絶する前の勢いなどどこにもない。気絶のさせられ方ももちろん、ムーシャルアの惨状に、完全に折れた。
「わたくしを下に見ることです」
目が笑みの形に弧を描くが、目の奥が笑っていない。
「ああ、でもわたくし、権力なんて興味がありませんわよ。面倒くさい」
目を閉じて眉を寄せ、心底ウンザリしたように息を吐く。
「権力ある者を顎で使うくらいが、楽でよろしいですわ」
ねえ?とヤトラスに対して首を傾げる。ヤトラスは震えながら、恐怖に引き攣る顔で、無理矢理笑う。それを見て、よろしい、と言うようにメルナーゼは頷く。
「わたくし、頭がよろしくないので」
後ろに控えていた執事がいつの間にか横に立ち、手を差し出していた。その手を取り立ち上がると、メルナーゼはゆっくりと歩き出す。
「何か事をなそうとするとき、すべて、力技になってしまいますけれど、ご容赦くださいましね」
*つづく*
誰もが残酷な選択を強いられた。
「おまえは?地に頭を擦りつけないのかしら」
広げた扇を口元で覆いながら、ムーシャルアに微笑みかけるメルナーゼ。ヤトラスはもう口から泡を吹いて倒れている。それでも自分の首を絞める力は緩んでいない。猶予はない。全員がムーシャルアに叫ぶ。
おまえが頭を下げないと殿下は死んでしまう、おまえは殿下を殺す気か、王太子が死んでもいいのか、殿下が死んだらおまえのせいだ。
誰もがもう一つの命を見ないフリをする。絶望に顔を染めた女生徒から、目を背ける。
自身らの罪を誤魔化すように、口々に罵倒に近い形でムーシャルアを責め立てた。ムーシャルアは悔しそうに歯ぎしりすると、怒りに震えながら土下座をした。
全員が、王太子ヤトラスを選んだ。
「ふふふ。これしきのことでこれまでのことを赦す気などさらさらありませんもの。だからね?」
口元を隠していた扇を下げると、その唇は、楽しそうに弧を描いた。
「元々殺すつもりはなかったのよ?」
「おまええええぇぇぇぇっ!!」
激昂したムーシャルアが、メルナーゼに飛びかかろうとする。しかし、突風が彼女に襲いかかり、後ろに転がった。
「ああうるさいこと」
怒りに身を震わせて起き上がるムーシャルアの目の前に、黒い糸が通された針が浮かぶ。
「うるさいおクチは縫って差し上げましょう」
その光景に、女性陣は全員意識を失い、男性陣は青ざめた。ムーシャルアから聞こえていた絶叫は、今はくぐもったものになっている。口を押さえた手は血に塗れ、指の隙間からも血が流れている。
「ああ、そうそう。おまえにもう用はないわ」
球体の女生徒は泣き叫んでいるようだ。しかし、その声は届かない。球体が小さくなっていく。女生徒は身動きが取れなくなっていき、やがて球体は消えた。
そうしてメルナーゼは、欠伸を零した。
その姿に、全員の体がガタガタと震えて止まらない。
「そこのおまえ」
男子生徒の一人を扇で指す。指された子息は、それだけで土下座をし、赦しを乞う。当然メルナーゼはそんな行動を気に止めることもなく、自分の要求だけを突きつける。
「あそこで暢気に寝ている男を起こしてくださいな。大切なお話をしたいのです」
のびているヤトラスに、子息は震えながら近付いていった。
化粧も剥げ落ち、顔から出る様々な液体で汚れて意識を失うムーシャルアの凄惨な姿に、ヤトラスは口を開けなかった。
授業は疾うに始まっているが、それどころではない。教師たちすら、動けずに成り行きを見つめているばかりだ。
用意させた椅子にゆったりと座り、艶然と微笑むメルナーゼの姿は、誰もが見惚れる美しさだ。その後ろに控える壮年の男も、身なりは執事のようだが、纏う空気が王に匹敵する。不敬を承知で言ってしまえば、ヤトラスや他の王子王女たちよりも王族らしい。
メルナーゼは、広げた扇を口元にあてながら話し始めた。
「わたくしの一番キライなこと、教えましょうね」
正座をさせられているヤトラスは、もう屈辱よりも、恐怖の方が上回っていた。話し始めたメルナーゼの声に、ビクリと肩を揺らす。気絶する前の勢いなどどこにもない。気絶のさせられ方ももちろん、ムーシャルアの惨状に、完全に折れた。
「わたくしを下に見ることです」
目が笑みの形に弧を描くが、目の奥が笑っていない。
「ああ、でもわたくし、権力なんて興味がありませんわよ。面倒くさい」
目を閉じて眉を寄せ、心底ウンザリしたように息を吐く。
「権力ある者を顎で使うくらいが、楽でよろしいですわ」
ねえ?とヤトラスに対して首を傾げる。ヤトラスは震えながら、恐怖に引き攣る顔で、無理矢理笑う。それを見て、よろしい、と言うようにメルナーゼは頷く。
「わたくし、頭がよろしくないので」
後ろに控えていた執事がいつの間にか横に立ち、手を差し出していた。その手を取り立ち上がると、メルナーゼはゆっくりと歩き出す。
「何か事をなそうとするとき、すべて、力技になってしまいますけれど、ご容赦くださいましね」
*つづく*
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