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本編
神竜と人。
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私がシルハークの馬鹿王からの申し入れを承諾した後は、早かった。準備万端整えていたわけだから、早くて当然ではある。
シルハークまで私を送ってくれるのは、カイン。志願だったらしいけど、別れを惜しんでいるというのでもないだろう。私に話でもあるのかな。
出立の前に、私とローランはリヒト殿下に呼ばれた。
「神竜王陛下。アレクシアは、あなたのものだ」
唐突にそう言われ、ローランはきょとんとしている。いえ、リヒト殿下に言われなくてもそのつもりなんですけど。
「……王太子?」
「私は、たぶんアレクシアを愛している。だから、アレクシアには笑っていてほしい。誰よりも、幸せでいてほしい。その為には、あなたが必要だ」
リヒト殿下の声は、とても明るかった。
「愛しているから、傍にいてほしいと思った。私を愛してほしいとも思った。けれど、駄目だ。私は、あなたを愛しているアレクシアに惹かれたのだから」
「王太子……?」
「だから。シルハークで何があろうと――あなたが、アレクシアをお守りなさるように」
リヒト殿下は、何があるのか知っているらしい。正確には、何が起こるのか。それを訊きたい。エージュも教えてはくれなかったし。
「殿下。殿下は、何を御存知なのですか?」
「……エージュから聞いていないのか?」
「出立の時間だな。急ぎなさい、アレクシア。リヒトも、あまり引き留めてはいけない。未練が募っていると思われるぞ」
お互いが疑問形の私達の会話は、シルヴィスが強引に断ち切った。ちょっと待って、リヒト殿下からなら聞き出せそうなんだけど!
「そうだな……正直、未練はあるが。アレクシア、どうか幸せに。神竜王陛下。私の妹からの伝言です。いつか、奪いに行くと」
「……王の姫の激励は、冗談に聞こえない」
「十割、本気だと思います」
シルヴィスはあっさり肯定し、私達を急きたてようとした。リヒト殿下が余計なことを言わないようにガードしている。ということは、シルヴィスもシルハークでの「何か」を知っているってことよね。
「シルヴィス」
「私は何も言わない。何せ私はヤンデレとやらで、リヒトにしかデレないらしいので」
それ、ドヤ顔で言うことじゃないから。そしてエージュ。どこまでバラしたの……。
「たまには、顔を見せに来てほしい」
「……リヒト。王妃となれば、里帰りはできない」
「? だってアレクシアは王妃にはならな」
「早く行きなさい、アレクシア。待っていても、これ以上口を割らせたら、私がエルウィージュに処分される」
かなり真剣な目で、シルヴィスはそう言った。
護衛の任を受けたカインに、挨拶に行くと――私を認めた途端、彼は膝をついた。
「立って下さい、カイン。私はあなたに跪かれる覚えはないわ」
「……神竜王陛下に……」
「敵意の謝罪ならいらない。そなたが私を敵視していたことは知っているし、理由も大凡の推測はつく」
ローランは素っ気なく言った。この口調は、まだカインが怖いということだ。
「敵視?」
私の言葉に、カインは視線を彷徨わせた後、頷いた。ローランを敵視って、どうして? 彼はエージュを巡る恋敵にはならないのに。
「……神竜の王。人ではない、人には持ち得ない力に溢れた存在。それが、ひどく……妬ましかったのです。どんなに武芸を磨いても、竜型どころか人型の神竜にも敵わない」
「そうなの?」
全くわかっていない私の問いに、カインは苦笑した。一から説明しないと駄目かーという心の声が漏れ聞こえそうな笑い方だった。
「まず、速さが違います。神竜の速さに人は反応できない。そして膂力が違う。十人がかりでも、神竜一人の力に対抗できない」
「仕方ない。人は神竜より弱く作られている。それを強者の傲慢と思うなら、思っていればいい」
カインの説明を、ローランが遮った。
「私が神竜であること、神竜が人より強いこと。そのことを恨まれても、私にはどうしようもない」
「……わかっていても。神竜王陛下。神竜と人は違う、そんなことはわかっていても。眼前に、圧倒的な力を見せつけられれば――惹かれる者、憧れる者だけでなく、羨む者もおります」
特に、力だけで生きてきた傭兵達にとっては――力を具現化したような神竜は、憧れと妬ましさの対象なのかもしれない。
「何故、自分はあの力を持てないのか。あの速さが見えないのか。……そう、鬱々としていました」
「人の負の感情は、よく響く。だから私は、戦場が嫌いだ」
「ローラン」
「竜型になれば畏怖の目で見る。人型であれば異端の目で見る。それが人というものだ。……アレクシアは違っていたけれど」
そう言った後、ローランはカインに向けて言った。
「神竜と人は違うのだから、同じ物差しで測っても意味がない」
「そうですね。そのことを受け入れるのに……随分とかかりました。御気分を害したでしょうこと、謝罪致します」
「気分がよくはなかったが、謝罪されるほどのことではない。私とて、そなたを厭っていた。――この先、シルハークまで護衛してくれるなら、それでいい。私とそなたの繋がりは、そこで終わる」
だからもういいと言ったローランに、カインは深く頭を下げた。そして背を向け、護衛の一団に出立の指示を与えに行ってしまった。
「……そっか。カインはローランの力が羨ましくて、ローランはそれが嫌だったのね」
「私が神竜であることは変わらない。あの者が人であることも変わらない。――そう在りたいと悩むのは、神竜も人も同じなのに」
ままならないと呟いて、ローランは空を見上げた。
――あなたは、人になりたいと思ったことがあるの……?
シルハークまで私を送ってくれるのは、カイン。志願だったらしいけど、別れを惜しんでいるというのでもないだろう。私に話でもあるのかな。
出立の前に、私とローランはリヒト殿下に呼ばれた。
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唐突にそう言われ、ローランはきょとんとしている。いえ、リヒト殿下に言われなくてもそのつもりなんですけど。
「……王太子?」
「私は、たぶんアレクシアを愛している。だから、アレクシアには笑っていてほしい。誰よりも、幸せでいてほしい。その為には、あなたが必要だ」
リヒト殿下の声は、とても明るかった。
「愛しているから、傍にいてほしいと思った。私を愛してほしいとも思った。けれど、駄目だ。私は、あなたを愛しているアレクシアに惹かれたのだから」
「王太子……?」
「だから。シルハークで何があろうと――あなたが、アレクシアをお守りなさるように」
リヒト殿下は、何があるのか知っているらしい。正確には、何が起こるのか。それを訊きたい。エージュも教えてはくれなかったし。
「殿下。殿下は、何を御存知なのですか?」
「……エージュから聞いていないのか?」
「出立の時間だな。急ぎなさい、アレクシア。リヒトも、あまり引き留めてはいけない。未練が募っていると思われるぞ」
お互いが疑問形の私達の会話は、シルヴィスが強引に断ち切った。ちょっと待って、リヒト殿下からなら聞き出せそうなんだけど!
「そうだな……正直、未練はあるが。アレクシア、どうか幸せに。神竜王陛下。私の妹からの伝言です。いつか、奪いに行くと」
「……王の姫の激励は、冗談に聞こえない」
「十割、本気だと思います」
シルヴィスはあっさり肯定し、私達を急きたてようとした。リヒト殿下が余計なことを言わないようにガードしている。ということは、シルヴィスもシルハークでの「何か」を知っているってことよね。
「シルヴィス」
「私は何も言わない。何せ私はヤンデレとやらで、リヒトにしかデレないらしいので」
それ、ドヤ顔で言うことじゃないから。そしてエージュ。どこまでバラしたの……。
「たまには、顔を見せに来てほしい」
「……リヒト。王妃となれば、里帰りはできない」
「? だってアレクシアは王妃にはならな」
「早く行きなさい、アレクシア。待っていても、これ以上口を割らせたら、私がエルウィージュに処分される」
かなり真剣な目で、シルヴィスはそう言った。
護衛の任を受けたカインに、挨拶に行くと――私を認めた途端、彼は膝をついた。
「立って下さい、カイン。私はあなたに跪かれる覚えはないわ」
「……神竜王陛下に……」
「敵意の謝罪ならいらない。そなたが私を敵視していたことは知っているし、理由も大凡の推測はつく」
ローランは素っ気なく言った。この口調は、まだカインが怖いということだ。
「敵視?」
私の言葉に、カインは視線を彷徨わせた後、頷いた。ローランを敵視って、どうして? 彼はエージュを巡る恋敵にはならないのに。
「……神竜の王。人ではない、人には持ち得ない力に溢れた存在。それが、ひどく……妬ましかったのです。どんなに武芸を磨いても、竜型どころか人型の神竜にも敵わない」
「そうなの?」
全くわかっていない私の問いに、カインは苦笑した。一から説明しないと駄目かーという心の声が漏れ聞こえそうな笑い方だった。
「まず、速さが違います。神竜の速さに人は反応できない。そして膂力が違う。十人がかりでも、神竜一人の力に対抗できない」
「仕方ない。人は神竜より弱く作られている。それを強者の傲慢と思うなら、思っていればいい」
カインの説明を、ローランが遮った。
「私が神竜であること、神竜が人より強いこと。そのことを恨まれても、私にはどうしようもない」
「……わかっていても。神竜王陛下。神竜と人は違う、そんなことはわかっていても。眼前に、圧倒的な力を見せつけられれば――惹かれる者、憧れる者だけでなく、羨む者もおります」
特に、力だけで生きてきた傭兵達にとっては――力を具現化したような神竜は、憧れと妬ましさの対象なのかもしれない。
「何故、自分はあの力を持てないのか。あの速さが見えないのか。……そう、鬱々としていました」
「人の負の感情は、よく響く。だから私は、戦場が嫌いだ」
「ローラン」
「竜型になれば畏怖の目で見る。人型であれば異端の目で見る。それが人というものだ。……アレクシアは違っていたけれど」
そう言った後、ローランはカインに向けて言った。
「神竜と人は違うのだから、同じ物差しで測っても意味がない」
「そうですね。そのことを受け入れるのに……随分とかかりました。御気分を害したでしょうこと、謝罪致します」
「気分がよくはなかったが、謝罪されるほどのことではない。私とて、そなたを厭っていた。――この先、シルハークまで護衛してくれるなら、それでいい。私とそなたの繋がりは、そこで終わる」
だからもういいと言ったローランに、カインは深く頭を下げた。そして背を向け、護衛の一団に出立の指示を与えに行ってしまった。
「……そっか。カインはローランの力が羨ましくて、ローランはそれが嫌だったのね」
「私が神竜であることは変わらない。あの者が人であることも変わらない。――そう在りたいと悩むのは、神竜も人も同じなのに」
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