乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

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本編

不器用なんです。

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「ローラン」

 自室に入って、呼びかける。それだけで、私と彼の間にある壁は無効化されて、拗ねている神竜の王が姿を見せた。
 エージュは、怒っていると言ってたけど……ああ、やっぱり。瞳はくるくると色を変えていて、緋色じゃない。怒っているのではなく、拗ねた状態だ。

「ローラン」
「私を愛していると言ったのに」

 いきなり、抗議された。私はまだ何も言ってないのに。

「あのね、エージュが」
「嫌だ。アレクシアが他の男に愛を誓うのは嫌だ」

 誓いませんよ。リーシュだって望んでないし。

「リーシュとは結婚しないわ。だから誓いの言葉なんて交わさない」
「……それでも、嫌だ」

 ぷいっと私から顔を背けて、ローランは口を尖らせた。

「シルハークの王は、私と血がちかい。だから、きっとアレクシアに惹かれる。今はまだわかっていなくても」
「そんなこと言ったら、桜華公主だって私のこと好きじゃないとおかしいでしょ」
「……男と女では違う」

 分が悪くなったと判じたのか、ローランの声が小さくなった。よし、ここで畳みかけよう。

「リーシュは、子供には手を出さないって言ったし」
「アレクシアは子供か? 十七はもう大人だと言って、先日、酒を飲んでいた」

 ……畳みかけ失敗。作戦変更。

「それに、人は変わる。人の気持ちも変わる」

 私の髪を指に絡めて、ローランはぽつりと告げた。哀しげな声だった。

「……王の姫の気持ちも変わる。彼女はずっと、アレクシアを愛し続ける。けれど、大公のこともきっと愛する」

 同志を失うと言いたげな口調に、私はちょっと困ってしまった。エージュが私以外の人からの愛情を受け入れてくれることは、嬉しい変化なのに。

「ローラン。変わることは悪いこと?」
「……わからない。だって、アレクシアは変わらない」

 アレキサンドライトの瞳が、蒼く煌めいた。綺麗に澄んだ、優しい蒼に、私の姿が映る。

「ずっと。私を召喚した時からずっと、アレクシアは変わらない。ずっと愛してくれた。傍にいてくれた」

 じっと私を見つめ、ローランは自分の気持ちを表す言葉を探しながら、ゆっくりと言葉を継ぐ。

「ただ、愛してくれた。信じてくれた。真名を知っているのに、敬意さえくれた。私は、アレクシアから与えられてばかりだ。だから、私もアレクシアに与えたいと思ったのに、口にしたのは、恋を与えてほしいと強請る言葉だ」

 私は、ただローランが好きなだけで、そんなに特別なことはしてない。好きだから、信じた。好きだから、傍にいた。それだけだ。

「……アレクシアが好いている、げーむの中の私に嫉妬するくらいには、私はアレクシアが好きだ」

 自分自身に嫉妬している複雑さに首を傾げながら、ローランは吐露した。……難しく考えるのは、彼が神竜だからだろうか。

「ゲームの中のローランは大好きよ。だけど、私はあなたの方が好き」
「アレクシア?」
「どちらも、私にとっては事実だわ。ゲームのローランは……私では、幸せにできないの。彼を幸せにしてあげられる人はいないの」

 ミレイでさえ無理だった。メタなことを言えば、ファンディスク辺りで幸せになれるとしても、それはプロデューサーやディレクターさんの判断であり、書くのはシナリオライターさんだ。

 ――そういう、作られたローランも好きだけれど。

 私の目の前で、私を好きだと言ってくれる彼がどれだけ愛しいか――どうすれば伝わるのかな。
 エージュの言っていたこと、少しわかる。ローランは、私の気持ちがわかってないから、拗ねたり嫉妬したりする余裕があるのよ。私の想いが全部伝わっていれば、そんな隙間はないとわかるのに。

「大好きよ、ローラン。それでは足りない?」
「……足りなくない」
「私、あなたに恋してるわ。別の世界のあなたに恋したから、この世界に来たことを受け入れられたけど……今は、あなた自身が」

 最後まで言わせずに、ローランは私に口唇を重ねた。不意打ちのくせに、私の機嫌を窺うような、怯えたキス。その不器用さが、とても愛おしい。

「……わかった。アレクシアを信じる。アレクシアが、私を信じてくれたように」

 ゆっくり離れて、ローランは私に微笑みかけ、もう一度啄むようなキスをした。
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