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本編
神竜王の悲恋の理由。
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「どうして!?」
私の叫びに、雪麗がびくっと震えた。怯えたのか、リーシュの後ろに隠れる。リーシュはそれを受け入れて、雪麗の真っ白な髪を撫でた。
「大丈夫だ、雪麗。あのおねーさんには、ちゃんと説明するから。魔力を使って疲れただろう、もう寝てろ」
「誰か。雪麗に水菓子を。――後は、人払いだ」
レンファンは、いつの間にか控えていた女性達にそう命じると、私を宥めようと近づいてきた。
「嫌!」
私の拒絶の言葉に、輝石が反応した。シュッと鋭い音がして、私とレンファンの間に、風が薄い竜巻のように舞い上がる。
「……アレクシア様。説明させて下さい」
「いきなり、あんなことしておいて!?」
「それは、説明なしで悪かった。ちゃんと話すから、聞け」
二人は、気が立っている私を落ち着かせようとしている。落ち着かなきゃ、話はできない。わかってるけど、抑えられない。
「あ、待て、泣くな。泣かれると俺がものすごい悪人みたいだろ」
「実際、今の彼女にとっては最愛の恋人を奪った鬼畜ですね」
涙が勝手に溢れて、止まらなくなった。
――何も言えなかったし、何も聞けなかった。顔を見ることすらできなかった。彼がどんな顔をして亜界に帰らされたのか、私は知らないままだ。
「おまえの親友とやらの指示だぞ。神竜王を亜界に戻せっていうのは」
――困ったように発せられたリーシュの言葉が、私は信じられなかった。エージュの、指示……?
「嘘よ」
だって、エージュは私の恋を応援してくれてた。今回のことも、何もかも私の為だと言ってくれたエージュが、私を騙すはずはない。
「本当だ。雪麗に真実視させてもいい。ヴェルスブルクの王女が、そう言った」
エージュが、私を裏切る?
――そんなこと、あり得ない。私を裏切って、恨ませて、「忘れられない」ことを喜ぶほど、エージュは病んでいない。
「……理由は?」
「おまえと神竜王の為だ」
私とローランの為?
怪訝な顔になった私の周囲から、少しずつ竜巻が弱まっていく。怒りが薄れ、代わりに疑問が膨らんだからだ。
「アレクシア様。あなたは忘れていませんか。雪麗――桜華公主は、人に降嫁する為に、人となった。まあ、なりそこねてましたが」
私の目が曇っていると、レンファンは指摘した。見えるべきものが見えていないから、理解できないのだと。
「神竜王姫ですら、人にならねば、人と結ばれなかった。神竜王と呼ばれる存在が、人と結ばれるはずはない。人と結ばれてはならない」
最強の神竜。半ば神ともいえる存在が、人と結ばれることはないと、レンファンは静かに言った。
かつて、神竜王と結ばれたミレジーヌは……女神だ。人ではない。
――だから、なの?
だから、ゲームでもローランには悲恋EDしかなかったの?
呆然とした私に、レンファンはゆっくり説明してくれた。エージュが、シルハーク王家の家系図と、ローゼンヴァルト宮の古書や禁書から導き出した答えを。
「桜華公主の先例があるので、完全に人にならなくてもいいことはわかっています。神竜王としての魔力、寿命、それらを保持したままでもいい。ただ、一度は「人化」の秘術を受けねばならない。そうでなくては、神竜王の強すぎる魔力は、人を侵すのです。神竜と人間が結ばれた例はありますが、それはどちらかが己を捨てている」
今はまだ大丈夫だけれど、長い時間を共に過ごしていたら、私という個が、ローランという個に侵食されてしまう。
だから、私が肉体を捨てて意識体だけになるか、ローランが神竜王であることを捨てるしかない。
そして、私が肉体を捨てることを良しとしないエージュは、ローランに捨てさせる方法を採った。
「……そんな、の」
できるわけないじゃない。
ローランは、あんな風だけど、神竜王であることをとても大切にしている。神竜王の威厳を保つ為なら、怖くてたまらない見知らぬ人間達の中で過ごすことも辞さないほどに。
そのローランに、神竜王であることを捨てろだなんて、私は言えない。
「そうだ。おまえは言えない。おまえが言わないから、あの神竜王も動けない。だから、ヴェルスブルクの王女は、強制した」
リーシュの言葉に、エージュの言葉が重なる。「例外は、神竜王陛下だけ」。――私を手に入れるかどうかの選択権は、ローランに与えられている。
「私には、何もできないの?」
「信じてやれ。おまえは、ずっとそうしてきたんだろう?」
そうよ。ローランを愛してきた。信じてきた。だけど――それは、彼から世界を奪う為じゃない。彼から、一族を奪う為じゃない。ただ、幸せになってほしかっただけなのに。
エージュは、あくまでも私の幸せを最優先する。そのことを、私はちゃんと理解していなかった。「アリーはわかっていないから、わたくしに笑うのよ」――そう言ったエージュの言葉の意味、もっと考えるべきだった。
ローラン。私を選ばないで。神竜の王であることを捨てないで。あなたの世界を失くさないで。
亜界にいるローランに、私の声は届かない。そうわかっていても、祈らずにはいられなかった。
私の叫びに、雪麗がびくっと震えた。怯えたのか、リーシュの後ろに隠れる。リーシュはそれを受け入れて、雪麗の真っ白な髪を撫でた。
「大丈夫だ、雪麗。あのおねーさんには、ちゃんと説明するから。魔力を使って疲れただろう、もう寝てろ」
「誰か。雪麗に水菓子を。――後は、人払いだ」
レンファンは、いつの間にか控えていた女性達にそう命じると、私を宥めようと近づいてきた。
「嫌!」
私の拒絶の言葉に、輝石が反応した。シュッと鋭い音がして、私とレンファンの間に、風が薄い竜巻のように舞い上がる。
「……アレクシア様。説明させて下さい」
「いきなり、あんなことしておいて!?」
「それは、説明なしで悪かった。ちゃんと話すから、聞け」
二人は、気が立っている私を落ち着かせようとしている。落ち着かなきゃ、話はできない。わかってるけど、抑えられない。
「あ、待て、泣くな。泣かれると俺がものすごい悪人みたいだろ」
「実際、今の彼女にとっては最愛の恋人を奪った鬼畜ですね」
涙が勝手に溢れて、止まらなくなった。
――何も言えなかったし、何も聞けなかった。顔を見ることすらできなかった。彼がどんな顔をして亜界に帰らされたのか、私は知らないままだ。
「おまえの親友とやらの指示だぞ。神竜王を亜界に戻せっていうのは」
――困ったように発せられたリーシュの言葉が、私は信じられなかった。エージュの、指示……?
「嘘よ」
だって、エージュは私の恋を応援してくれてた。今回のことも、何もかも私の為だと言ってくれたエージュが、私を騙すはずはない。
「本当だ。雪麗に真実視させてもいい。ヴェルスブルクの王女が、そう言った」
エージュが、私を裏切る?
――そんなこと、あり得ない。私を裏切って、恨ませて、「忘れられない」ことを喜ぶほど、エージュは病んでいない。
「……理由は?」
「おまえと神竜王の為だ」
私とローランの為?
怪訝な顔になった私の周囲から、少しずつ竜巻が弱まっていく。怒りが薄れ、代わりに疑問が膨らんだからだ。
「アレクシア様。あなたは忘れていませんか。雪麗――桜華公主は、人に降嫁する為に、人となった。まあ、なりそこねてましたが」
私の目が曇っていると、レンファンは指摘した。見えるべきものが見えていないから、理解できないのだと。
「神竜王姫ですら、人にならねば、人と結ばれなかった。神竜王と呼ばれる存在が、人と結ばれるはずはない。人と結ばれてはならない」
最強の神竜。半ば神ともいえる存在が、人と結ばれることはないと、レンファンは静かに言った。
かつて、神竜王と結ばれたミレジーヌは……女神だ。人ではない。
――だから、なの?
だから、ゲームでもローランには悲恋EDしかなかったの?
呆然とした私に、レンファンはゆっくり説明してくれた。エージュが、シルハーク王家の家系図と、ローゼンヴァルト宮の古書や禁書から導き出した答えを。
「桜華公主の先例があるので、完全に人にならなくてもいいことはわかっています。神竜王としての魔力、寿命、それらを保持したままでもいい。ただ、一度は「人化」の秘術を受けねばならない。そうでなくては、神竜王の強すぎる魔力は、人を侵すのです。神竜と人間が結ばれた例はありますが、それはどちらかが己を捨てている」
今はまだ大丈夫だけれど、長い時間を共に過ごしていたら、私という個が、ローランという個に侵食されてしまう。
だから、私が肉体を捨てて意識体だけになるか、ローランが神竜王であることを捨てるしかない。
そして、私が肉体を捨てることを良しとしないエージュは、ローランに捨てさせる方法を採った。
「……そんな、の」
できるわけないじゃない。
ローランは、あんな風だけど、神竜王であることをとても大切にしている。神竜王の威厳を保つ為なら、怖くてたまらない見知らぬ人間達の中で過ごすことも辞さないほどに。
そのローランに、神竜王であることを捨てろだなんて、私は言えない。
「そうだ。おまえは言えない。おまえが言わないから、あの神竜王も動けない。だから、ヴェルスブルクの王女は、強制した」
リーシュの言葉に、エージュの言葉が重なる。「例外は、神竜王陛下だけ」。――私を手に入れるかどうかの選択権は、ローランに与えられている。
「私には、何もできないの?」
「信じてやれ。おまえは、ずっとそうしてきたんだろう?」
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エージュは、あくまでも私の幸せを最優先する。そのことを、私はちゃんと理解していなかった。「アリーはわかっていないから、わたくしに笑うのよ」――そう言ったエージュの言葉の意味、もっと考えるべきだった。
ローラン。私を選ばないで。神竜の王であることを捨てないで。あなたの世界を失くさないで。
亜界にいるローランに、私の声は届かない。そうわかっていても、祈らずにはいられなかった。
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