乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

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番外編~箱庭の姫君と闇の公主と光の王~

女優。

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 金髪の一団は、やや緊張した所作ではあったが、招待の礼をいい、主賓二人に帰国の祝いを告げた。その間も、列席の貴族達は、呆けたように見守っている。

「アリー。こちらは、近衛軍の隊長殿のご令室よ」
「アレクシア・クリスティンです。先の戦の折は、近衛の方にもよくしていただきました。ありがとうございます」

 銀髪の王女と、淡い金髪の公爵令嬢が微笑む先には、近衛軍の隊長の妻と娘がいた。近衛はほぼ貴族の子弟で構成されるとはいえ、軍に入る者は下位貴族の出身だ。その妻は、同じ程度の爵位しか持たない家から迎えられるものだ。
 それが、何故――妻も娘も、こうも見事な「金髪」なのか。

「スクラーシュ子爵夫人。そちらがご令嬢か?」

 闇華が問いかけると、近衛軍隊長、カスパール・リンネ・ルア・スクラーシュの妻、マグダレーナはぎこちなく頷き、十二、三歳かと思われる娘に礼をさせた。

「愛らしいの。名は?」
「イェシカと申します、公主様」

 金髪に濃い茶色の瞳の少女は、闇華に問われ、ぎこちなく答えた。異国の公主に緊張しているように見えるが、そうではない。これは演技だ。なかなかに巧みなものよ、と闇華は微笑んだ。

「母御もそなたも、見事な金髪じゃの。光のようじゃ」
「ありがとうございます」
「妾の許嫁たる御方は、光という名を戴いておられる。そなたも、その輝かしい髪を誇るなら、光たる御方に忠義を尽くしておくれ」
「はい。精一杯努めます」

 この間、居並ぶ貴族達は我に返りつつある。まだデビュタントの年齢に達していないスクラーシュ子爵令嬢は、こういった非公式の茶会やガーデン・パーティーで、ごく親しい者としか接する機会はないが――夫人の方は、夫に伴われて、何度となく夜会に出席している。その時の彼女の髪の色は、栗色だったはずだ。
 それが、何故、あれほどに美しい金髪に変じているのか。あそこまで明るい金は、侯爵家ですら尊ばれるのに。

「王太子殿下、いずれは国王陛下たる御方への忠義の証にと、神竜王陛下から賜った金の髪でございますれば」

 機を測って、イェシカは微かに震えた声で――それでいてよく通る声で、闇華の前で更に深く頭を下げながら誓った。貴族達は、その言葉の意味を理解するまでに数瞬を要し――息を呑んだ。

「当代様は、そのようなことも可能であられるか」
「金の髪が尊ばれるというなら、私が寿いだ新しき王に忠節を尽くす者に、それを与えてやればよいかと思ってな。――近衛の長の娘、いずれそなたが社交界に出た時には、瞳の色も変えてやろう」

 貴族達は、呑んだ息を今度は吐き出し――絶句した。
 今、なんと言った、神竜王は。
 瞳の色を、変える?
 髪は、まだいい。染め粉がある。といっても、近衛軍の妻女達の髪の色は、染め粉で出せる色ではない。そもそも、「濃い色から薄い色に染める」ことはできない。
 栗色の髪を金にした上、その娘には、いずれ瞳の色も変えてやろうと――そんな恩恵を与えてやろうと言う、その真意はどこにあるのか。

「勿体ない仰せにございます。イェシカは、この髪を頂けただけで十分にございます」
「私は、リヒト・カール・ルア・カイザーリングを新しき王として寿いだ。だが、それを足りぬという者がいたらしい。ならば、私は私の言葉を真実にしなくてはならない。ゆえに、リヒトに忠節を尽くしてくれる者には祝福を与える。近衛の長の娘。そなたが望まずとも、そなたの瞳は主と同じ翡翠に変わる」
「イェシカ様、どうか受け入れて下さい。ローランは神竜の王。
「アレクシア様……」
「わたくしからもお願いするわ、イェシカ様」

 王女にまで「ね? お願い」と言われては、イェシカは受けるしかない。ヴェルスブルクの貴族なら誰でも願ってやまない「淡い色の瞳」となることを!

「しかしの、当代様。イェシカの瞳がリヒト様と同じというのは、ちと困るな。イェシカが嫁ぐ際には、夫と同じ色に変じてやっては下さらぬか」
「それはそうですわね。瞳の色を兄上様と同じにするなんて、イェシカ様が兄上様をお慕いしていると誤解されてしまいますわ、神竜王陛下」
「人はいろいろと難しいな。わかった。近衛の長の娘。そなたの瞳は、いずれ翡翠に変わるが――この先、嫁ぐ相手が定まったら、その者の色になる」

 ローランがぱちんと指を鳴らすと、イェシカの瞳が、翡翠色に変わった。礼を尽くして振り返ったイェシカの茶色い瞳が、翡翠に変じたことを認めた途端、最前列にいた中年貴族が叫んだ。

「わ、我がゼフィレラ侯爵家も、王太子殿下に絶対の忠誠を誓いまする!」
「よかろう。ならば髪の色を変える秘薬を与える。近衛の者には先に渡してある。使い方は彼らに訊け」
「ま、魔法ではございませぬのか」
「私の魔力を直接受けると、人間ヒトは寿命が縮むぞ。それに耐えられるのはアレクシアだけだ」
「ゆえに、魔力を使った薬剤をご用意下さいましたの。お優しい神竜王陛下が、特別に」

 嘘ではない。ローランの異界移の異能で手に入れたのは事実だ。

「そ、それを使わせていただければ、私も金の髪に……?」
「程度の差はあるが。聖剣将軍も、金の髪になっている」

 庭園が揺れたかのようなうねりが起きた。茶褐色の髪だったカイン・シュラウス。それは当然だ、彼は平民だ。その彼すら金髪になったというのか。

「銀の髪は授けない。銀は、特別な色だ。――だが」

 ローランは、ちらりと闇華を見た。

「シルハークの公主のような、銀の瞳は……その者次第かもしれない」
「皆様方。兄上様に忠誠をお誓いになりたいとおっしゃるなら、こちらにお呼びしましょうか?」

 エルウィージュの提案は、一も二もなく受け入れられた。
 イェシカの演技力のおかげで、予想以上に上手くいったと脚本担当の王女は微笑み、神竜王に「傲岸不遜」な演技指導をした公主は満足し、神竜王は「もう終わった? もういい?」と、召喚者である少女に目で問いかけていた。
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