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第三章 ‐ 戦争の影
192話 王族の仮面と、素顔の告白
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「おぬしら、本当に仲がよいなぁ! いやぁ、わたしも若いころはな、よく城を抜け出しては……」
と、自分語りが始まってしまった。レイニーとフィオナは顔を見合わせ、ぽかんとする。
「……ゆ、許してくれるんですか?」
「何をだ? むしろ歓迎じゃ。こうして共に朝を迎える仲、まさに“許嫁”としては上出来よ!」
「そ、そんなこと言われても……!」
レイニーは頭を抱え、フィオナは真っ赤になってうつむく。
「ま、安心せい。誰にも咎めはせん。ただ――」
「た、ただ?」
「……次におぬしらが一緒に寝るときは、もう少ししっかりした覚悟を持ってからにしてくれよ?」
「な、なななっ!!???」
「ふ、ふぃーーーーーーっ!」
爆発するような叫びと共に、レイニーとフィオナはそろって顔を真っ赤に染め、あわあわと混乱するのだった。
その日、王宮の朝食会では、やけに上機嫌な国王と、それをたしなめつつ微笑む王妃、そして顔を赤くしたままろくに食事が喉を通らないふたりの姿があったという。
噂はすぐに城内に広まり、「フィオナ王女はレイニー殿がいないと眠れない」説が城の侍女たちの間で定着した――。
その日の午後――王都ルナリオンの中心街。今日は王女フィオナが、久々に城を出て簡易な視察に赴いた日だった。
侍女たちに囲まれ、淡いクリーム色のドレスに身を包んだフィオナは、まるで氷の彫刻のような気品と威厳をまとっていた。透き通ったブルーの瞳には、一切の迷いがない。冷静で、凛とした空気を纏い、誰もその内側をうかがい知ることはできない。
「ごきげんよう、フィオナ様! 本日はどのようなご用で……」
街の商人が丁寧に頭を下げると、フィオナはほんのわずかに頷き、冷たい声で答えた。
「あなたのところの商品、品質にばらつきがあるわ。次に納めるときまでには改善しておいて。以上よ。」
「は、はいっ……!」
その言葉に余計な感情はなく、ただ淡々と事実を伝えるだけ。だが、その冷徹なまでの振る舞いに、周囲の空気はすっと張り詰める。近くにいた子どもが「こわい……」と小さくつぶやいたのを、侍女の一人がぴしゃりと制止した。
だが、フィオナはそれに動じる様子もなく、淡々と次の店へと足を進めていく。まるで、そうすることが当然であるかのように。
「……王女様、やっぱり近寄りがたいよな……」
「でも、あれが“王族”ってことか……」
そんな声が、後ろでささやかれる。だが、彼女は気にすることなく歩みを止めない。
王女としての振る舞い。完璧な立ち居振る舞い――それが、フィオナ・ルナリオンにとっては当然のことだった。
遠くから馬を駆る音が響く。その音に侍女たちがざわめく中、軽快な声が風を切って届いた。
「おーい、フィーっ!」
レイニーだった。
ルナリオン王国の護衛に囲まれ、堂々たる王族の装いながらも、どこかレイニーらしい可愛らしさが漂う姿。風になびくマントをひるがえしながら、彼は馬から軽やかに飛び降りると、まっすぐフィオナの隣へと駆け寄った。
「おつかれさまぁ、城下の視察だって聞いて心配でさっ」
その声には親しみと軽やかさがあり、護衛たちが整然と並ぶ厳粛な空気の中でも、ひときわ異質な温かさを持っていた。
フィオナは驚いたようにレイニーを見つめる。一瞬、その冷たい表情が揺らぎ、柔らかな色が差し込む。
「レ、レイニーくん……!」
その瞬間、フィオナの表情が一変した。
ほんの少し眉が下がり、口元が緩む。涼しげな瞳には、わずかに光が差し込むような柔らかさが宿った。普段の冷淡な雰囲気とは違い、ほんの一瞬だけ幼い姿が垣間見えた。
「……べ、別に、心配なんていらなかったわ。わたしは平気よ?」
そう言いながらも、彼の登場によって場の空気がわずかに緩んだことは明らかだった。
「そっかぁ……でも、ちょっとだけ緊張してる顔に見えたよ。」
「なっ……!? き、気のせいよ!」
慌ててぷいっと横を向くその姿は、さっきまで商人たちを冷たくあしらっていた王女とはまるで別人のようだった。
そして、そのやり取りを目の当たりにした町の人々の間に、静かなささやきが広がる。
「え、今笑った……?」
「あんな優しい顔、初めて見たんだけど……」
「レイニー殿には、ああいう顔するんだ……」
「むしろ、なんか……かわいい……?」
フィオナはその声の気配を察知したのか、すっと顔を引き締めると、くるりと踵を返す。
「……レイニーくん、私もう城に戻るわ。用は済んだから。」
「あ、ちょっと待ってフィー!」
「……あと、街の者たちが私のことを“こわい”と噂していること、後で記録に残しておいて。改善の余地があるわ。」
「えっ、それ気にしてたの?」
「べ、別に。気にしてないけど? ただ、情報収集の一環よ!」
赤くなりながら早足で馬車に戻るフィオナ。その後ろ姿を見て、レイニーは苦笑しながら、馬に飛び乗った。
「はいはい、フィーが気にしてないことにしとくよー。」
その軽い調子に、フィオナはさらに赤くなりながら馬車へと消えていった。
と、自分語りが始まってしまった。レイニーとフィオナは顔を見合わせ、ぽかんとする。
「……ゆ、許してくれるんですか?」
「何をだ? むしろ歓迎じゃ。こうして共に朝を迎える仲、まさに“許嫁”としては上出来よ!」
「そ、そんなこと言われても……!」
レイニーは頭を抱え、フィオナは真っ赤になってうつむく。
「ま、安心せい。誰にも咎めはせん。ただ――」
「た、ただ?」
「……次におぬしらが一緒に寝るときは、もう少ししっかりした覚悟を持ってからにしてくれよ?」
「な、なななっ!!???」
「ふ、ふぃーーーーーーっ!」
爆発するような叫びと共に、レイニーとフィオナはそろって顔を真っ赤に染め、あわあわと混乱するのだった。
その日、王宮の朝食会では、やけに上機嫌な国王と、それをたしなめつつ微笑む王妃、そして顔を赤くしたままろくに食事が喉を通らないふたりの姿があったという。
噂はすぐに城内に広まり、「フィオナ王女はレイニー殿がいないと眠れない」説が城の侍女たちの間で定着した――。
その日の午後――王都ルナリオンの中心街。今日は王女フィオナが、久々に城を出て簡易な視察に赴いた日だった。
侍女たちに囲まれ、淡いクリーム色のドレスに身を包んだフィオナは、まるで氷の彫刻のような気品と威厳をまとっていた。透き通ったブルーの瞳には、一切の迷いがない。冷静で、凛とした空気を纏い、誰もその内側をうかがい知ることはできない。
「ごきげんよう、フィオナ様! 本日はどのようなご用で……」
街の商人が丁寧に頭を下げると、フィオナはほんのわずかに頷き、冷たい声で答えた。
「あなたのところの商品、品質にばらつきがあるわ。次に納めるときまでには改善しておいて。以上よ。」
「は、はいっ……!」
その言葉に余計な感情はなく、ただ淡々と事実を伝えるだけ。だが、その冷徹なまでの振る舞いに、周囲の空気はすっと張り詰める。近くにいた子どもが「こわい……」と小さくつぶやいたのを、侍女の一人がぴしゃりと制止した。
だが、フィオナはそれに動じる様子もなく、淡々と次の店へと足を進めていく。まるで、そうすることが当然であるかのように。
「……王女様、やっぱり近寄りがたいよな……」
「でも、あれが“王族”ってことか……」
そんな声が、後ろでささやかれる。だが、彼女は気にすることなく歩みを止めない。
王女としての振る舞い。完璧な立ち居振る舞い――それが、フィオナ・ルナリオンにとっては当然のことだった。
遠くから馬を駆る音が響く。その音に侍女たちがざわめく中、軽快な声が風を切って届いた。
「おーい、フィーっ!」
レイニーだった。
ルナリオン王国の護衛に囲まれ、堂々たる王族の装いながらも、どこかレイニーらしい可愛らしさが漂う姿。風になびくマントをひるがえしながら、彼は馬から軽やかに飛び降りると、まっすぐフィオナの隣へと駆け寄った。
「おつかれさまぁ、城下の視察だって聞いて心配でさっ」
その声には親しみと軽やかさがあり、護衛たちが整然と並ぶ厳粛な空気の中でも、ひときわ異質な温かさを持っていた。
フィオナは驚いたようにレイニーを見つめる。一瞬、その冷たい表情が揺らぎ、柔らかな色が差し込む。
「レ、レイニーくん……!」
その瞬間、フィオナの表情が一変した。
ほんの少し眉が下がり、口元が緩む。涼しげな瞳には、わずかに光が差し込むような柔らかさが宿った。普段の冷淡な雰囲気とは違い、ほんの一瞬だけ幼い姿が垣間見えた。
「……べ、別に、心配なんていらなかったわ。わたしは平気よ?」
そう言いながらも、彼の登場によって場の空気がわずかに緩んだことは明らかだった。
「そっかぁ……でも、ちょっとだけ緊張してる顔に見えたよ。」
「なっ……!? き、気のせいよ!」
慌ててぷいっと横を向くその姿は、さっきまで商人たちを冷たくあしらっていた王女とはまるで別人のようだった。
そして、そのやり取りを目の当たりにした町の人々の間に、静かなささやきが広がる。
「え、今笑った……?」
「あんな優しい顔、初めて見たんだけど……」
「レイニー殿には、ああいう顔するんだ……」
「むしろ、なんか……かわいい……?」
フィオナはその声の気配を察知したのか、すっと顔を引き締めると、くるりと踵を返す。
「……レイニーくん、私もう城に戻るわ。用は済んだから。」
「あ、ちょっと待ってフィー!」
「……あと、街の者たちが私のことを“こわい”と噂していること、後で記録に残しておいて。改善の余地があるわ。」
「えっ、それ気にしてたの?」
「べ、別に。気にしてないけど? ただ、情報収集の一環よ!」
赤くなりながら早足で馬車に戻るフィオナ。その後ろ姿を見て、レイニーは苦笑しながら、馬に飛び乗った。
「はいはい、フィーが気にしてないことにしとくよー。」
その軽い調子に、フィオナはさらに赤くなりながら馬車へと消えていった。
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