193 / 223
第三章 ‐ 戦争の影
193話 王女の嫉妬と、公言された絆
しおりを挟む
ルナリオン城の晩餐会。豪華なシャンデリアが煌めく広間には、各地の貴族たちが集い、音楽と笑い声が華やかに響いていた。
その中央――レイニーは、グリュース辺境伯の娘、セレナ・グリュース嬢と談笑していた。
明るく笑う栗毛の少女が、レイニーの袖をつまんで話すたび、彼の周囲にほんのり甘い空気が漂っていた。
「レイニー様、本当にお強いのですね! 私、お話を伺っているだけでうっとりしてしまいますわ。」
「いや、そんなに強いわけじゃ……あはは、ちょっとは鍛えてるけどね。」
レイニーが困ったように頭をかくその姿を、部屋の隅からじっと見つめる視線がひとつ。
――フィオナだった。
背筋をぴんと伸ばし、淡い青のドレスで静かに佇むその姿は、まさに「氷の姫君」。
だが、その表情には明らかに不機嫌な気配がにじんでいた。
「……何をしているの、あの馬鹿。」
侍女がそっと隣に寄るが、フィオナは手で制し、ひとりすっとレイニーの方へ歩き出す。
やがて、彼の背後に立ったフィオナは、凛とした声で言い放った。
「レイニーくん、少しよろしいかしら?」
「ん? フィー。どうしたの?」
「ああっ、フィオナ様。ご機嫌よう。レイニー様と少しお話を……」
「――あいにく、彼は私の許嫁よ。話は後にしてもらえる?」
一瞬の沈黙。セレナが軽く目を見開き、顔を赤らめて後退る。
「わ、わたくし、失礼いたしましたわ!」
ぱたぱたと逃げるように去っていくセレナを見送ると、フィオナはくるりとレイニーに向き直った。
「……なにしてたの?」
「え、いや、ただ話してただけだよ? 魔獣の件で興味があるっていうから……」
「ふぅん……そう。」
「……もしかして、フィー、怒ってる?」
「べ、別に怒ってないけど?」
「ほんとに? さっきからめっちゃ眉間にしわ寄ってるぅ……」
「寄ってない!!」
不機嫌そうにそっぽを向くフィオナ。
でもその耳が、ほんのり赤く染まっているのを、レイニーは見逃さなかった。
レイニーはくすっと笑って、そっと彼女の手を取る。
「……嫉妬してくれたの? ちょっと嬉しいかも。」
「ちがっ、わたしは……王族として、場の品位を守っただけで……っ!」
「あはは、うんうん、そっかそっかぁ。ありがとね、“姫様”。」
「うぅ……っ! レイニーくん、もう知らないっ!」
拗ねたようにふくれっ面で足を踏み鳴らすフィオナ。
その様子を見ていた城の貴族たちは思わず顔を見合わせた。
「あのフィオナ様が……拗ねてる……?」
「ていうか、表情に出すようになったんだ……」
「これは、完全に恋する乙女じゃないか……!」
噂はまた、王都のあちこちに広がっていく――けれど、本人たちはそんなことお構いなしだった。
晩餐会が終わりホッと一息つき、王城の庭にあるテーブルに腰掛け休んでいると無秩序の森に侵入者の反応に気づいたが、いつものことなので気にもしなかった。
王城の夜は、昼の喧騒が嘘のように静まり返っていた。月光が高窓から差し込み、冷たい銀色の光が廊下に淡く揺れている。
レイニーの部屋もまた静かで、蝋燭の火がほのかに揺れるだけの穏やかな空間だった。レイニーはベッドの上で本を閉じ、ふうと一息ついて目を閉じようとした――その時だった。
『……コン、コン』
控えめなノックの音が、扉越しに響いた。
「……こんな時間に?」と、少し不思議そうに立ち上がると、扉をそっと開ける。そこには、薄いピンク色のいネグリジェを着を着たフィオナが枕を抱え、どこか気まずそうに立っていた。
「フィー……?」
「……べ、別に、変な意味じゃないけど……」
彼女は目を逸らしながら、小さく唇を尖らせて言う。
「その……なんか、夜が静かすぎて……落ち着かないというか、うるさいというか……」
言い訳のように口にしながらも、その瞳にはほんのりと寂しさの色がにじんでいた。城に響く時計の音や、風の唸り。それらすべてが、彼女の心に不安を連れてきていたのだろう。
「入っても、いい……?」
レイニーは苦笑しながら、少し身をどけて言った。
「フィーのためなら、いくらでもどうぞ。」
その言葉を聞いて、フィオナはわずかに頬を染めながらも部屋に入り、静かにベッドの隅に腰を下ろす。そして、遠慮がちに布団をつまみながら、ぽつりと呟いた。
「レイニーの匂い……落ち着くの。……なんでかな。」
「さあ? 俺がいい香りするから?」
「……ばかぁ。」
でもその声には、少しだけ笑みが混じっていた。
やがてフィオナは、レイニーの隣にそっと横になり、目を閉じる。背を向けたまま、そっと布団の端を掴んでいる彼女の指先は、少しだけ震えていた。
レイニーはその手に、自分の手を重ねる。
「大丈夫。ここにいるよ。」
それだけを言うと、フィオナは小さくうなずいて、静かな寝息を立て始めた。深い夜の帳が王城を包み込み、窓の外には静かに瞬く星々が夜空に浮かんでいた。
レイニーの部屋の中は、ただ寝息だけが穏やかに流れる優しい空間だった。ベッドには二人分の温もり。フィオナはその一つに包まれながら、そっと瞼を開けた。
その中央――レイニーは、グリュース辺境伯の娘、セレナ・グリュース嬢と談笑していた。
明るく笑う栗毛の少女が、レイニーの袖をつまんで話すたび、彼の周囲にほんのり甘い空気が漂っていた。
「レイニー様、本当にお強いのですね! 私、お話を伺っているだけでうっとりしてしまいますわ。」
「いや、そんなに強いわけじゃ……あはは、ちょっとは鍛えてるけどね。」
レイニーが困ったように頭をかくその姿を、部屋の隅からじっと見つめる視線がひとつ。
――フィオナだった。
背筋をぴんと伸ばし、淡い青のドレスで静かに佇むその姿は、まさに「氷の姫君」。
だが、その表情には明らかに不機嫌な気配がにじんでいた。
「……何をしているの、あの馬鹿。」
侍女がそっと隣に寄るが、フィオナは手で制し、ひとりすっとレイニーの方へ歩き出す。
やがて、彼の背後に立ったフィオナは、凛とした声で言い放った。
「レイニーくん、少しよろしいかしら?」
「ん? フィー。どうしたの?」
「ああっ、フィオナ様。ご機嫌よう。レイニー様と少しお話を……」
「――あいにく、彼は私の許嫁よ。話は後にしてもらえる?」
一瞬の沈黙。セレナが軽く目を見開き、顔を赤らめて後退る。
「わ、わたくし、失礼いたしましたわ!」
ぱたぱたと逃げるように去っていくセレナを見送ると、フィオナはくるりとレイニーに向き直った。
「……なにしてたの?」
「え、いや、ただ話してただけだよ? 魔獣の件で興味があるっていうから……」
「ふぅん……そう。」
「……もしかして、フィー、怒ってる?」
「べ、別に怒ってないけど?」
「ほんとに? さっきからめっちゃ眉間にしわ寄ってるぅ……」
「寄ってない!!」
不機嫌そうにそっぽを向くフィオナ。
でもその耳が、ほんのり赤く染まっているのを、レイニーは見逃さなかった。
レイニーはくすっと笑って、そっと彼女の手を取る。
「……嫉妬してくれたの? ちょっと嬉しいかも。」
「ちがっ、わたしは……王族として、場の品位を守っただけで……っ!」
「あはは、うんうん、そっかそっかぁ。ありがとね、“姫様”。」
「うぅ……っ! レイニーくん、もう知らないっ!」
拗ねたようにふくれっ面で足を踏み鳴らすフィオナ。
その様子を見ていた城の貴族たちは思わず顔を見合わせた。
「あのフィオナ様が……拗ねてる……?」
「ていうか、表情に出すようになったんだ……」
「これは、完全に恋する乙女じゃないか……!」
噂はまた、王都のあちこちに広がっていく――けれど、本人たちはそんなことお構いなしだった。
晩餐会が終わりホッと一息つき、王城の庭にあるテーブルに腰掛け休んでいると無秩序の森に侵入者の反応に気づいたが、いつものことなので気にもしなかった。
王城の夜は、昼の喧騒が嘘のように静まり返っていた。月光が高窓から差し込み、冷たい銀色の光が廊下に淡く揺れている。
レイニーの部屋もまた静かで、蝋燭の火がほのかに揺れるだけの穏やかな空間だった。レイニーはベッドの上で本を閉じ、ふうと一息ついて目を閉じようとした――その時だった。
『……コン、コン』
控えめなノックの音が、扉越しに響いた。
「……こんな時間に?」と、少し不思議そうに立ち上がると、扉をそっと開ける。そこには、薄いピンク色のいネグリジェを着を着たフィオナが枕を抱え、どこか気まずそうに立っていた。
「フィー……?」
「……べ、別に、変な意味じゃないけど……」
彼女は目を逸らしながら、小さく唇を尖らせて言う。
「その……なんか、夜が静かすぎて……落ち着かないというか、うるさいというか……」
言い訳のように口にしながらも、その瞳にはほんのりと寂しさの色がにじんでいた。城に響く時計の音や、風の唸り。それらすべてが、彼女の心に不安を連れてきていたのだろう。
「入っても、いい……?」
レイニーは苦笑しながら、少し身をどけて言った。
「フィーのためなら、いくらでもどうぞ。」
その言葉を聞いて、フィオナはわずかに頬を染めながらも部屋に入り、静かにベッドの隅に腰を下ろす。そして、遠慮がちに布団をつまみながら、ぽつりと呟いた。
「レイニーの匂い……落ち着くの。……なんでかな。」
「さあ? 俺がいい香りするから?」
「……ばかぁ。」
でもその声には、少しだけ笑みが混じっていた。
やがてフィオナは、レイニーの隣にそっと横になり、目を閉じる。背を向けたまま、そっと布団の端を掴んでいる彼女の指先は、少しだけ震えていた。
レイニーはその手に、自分の手を重ねる。
「大丈夫。ここにいるよ。」
それだけを言うと、フィオナは小さくうなずいて、静かな寝息を立て始めた。深い夜の帳が王城を包み込み、窓の外には静かに瞬く星々が夜空に浮かんでいた。
レイニーの部屋の中は、ただ寝息だけが穏やかに流れる優しい空間だった。ベッドには二人分の温もり。フィオナはその一つに包まれながら、そっと瞼を開けた。
2
あなたにおすすめの小説
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
小さな貴族は色々最強!?
谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。
本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。
神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。
その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。
転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。
魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。
ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる