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第三章 ‐ 戦争の影
206話 変わる世界と、変わらない心
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ミミナは、直感で安全な植物の場所が分かる才能を活かし、薬草採取や安全なルートの探索を担うことになった。
「ほら、見て見て~っ!ここ、風が甘いにおいしたから来てみたら、やっぱりあった~!この白い葉っぱ、煎じるとお腹にいいんだってー!」
彼女がそう叫ぶと、ルフィアが笑いながらうなずいた。
「すごいねー、ミミナ。わたしでも見落とす場所に、ちゃんと気づいてたんだぁ。これ、すぐ乾かして薬庫に入れよっ。」
子どもたちも興味津々でミミナのあとをついて回る。
「ミミナお姉ちゃん!この葉っぱは?」「うーん、これはちょっと苦いかも~!ルルナはどう思う~?」
そんなふうに、彼女はあっという間にみんなの“お姉ちゃん”になっていった。
ルルナは、人の心の機微を読む力を使って、主に新しく来た子や心に傷を負った人のそばに寄り添う係に。
言葉が出ない獣人の男の子の隣に、そっと座って微笑む。
「……うん、こわかったよね。でも、もう大丈夫だよ。お姫さまがね、“こわくない場所”をくれたから……」
その子は、ぽろりと涙をこぼしながら、ルルナに抱きついた。
アリシアは少し離れたところでその光景を見つめ、そっと目を細めた。
「あなたは……不思議な子ね。誰かの痛みを、言葉じゃなく感じて、癒す力がある。大切な人よ、ルルナ」
ルルナは照れくさそうに、でも嬉しそうにアリシアに微笑みかける。
その夜、村の広場には焚き火が焚かれ、子どもたちが笑いながら踊っていた。
「レイ兄ーっ! これ、さっき拾った絵本! 明日読んでねーっ!」
「うんうん、ルルナも一緒に読む~!」
ミミナが大事そうに絵本を抱えてはしゃぎ、ルルナは小さくうなずいてセリーナの手を握る。
「……お姫さま、また、手、つないでもいい……?」
「……ふん、仕方ないわね。ほんの少しだけよ?」
セリーナはわざとそっけなく言いながら、ぎゅっと優しく握り返す。
その小さな手は、いつの間にか、彼女の心の中にも温もりをくれ始めていた。
そして――
ミミナとルルナは、今やこの村にとってかけがえのない存在になりつつあった。
守られるだけじゃない、“支える力”を持った小さな命たち。
レイニーは空を見上げながら、ぽつりとつぶやく。
「……あの子たちがいるなら、この村……もっとあったかくなるよね。なぁ、フィオナ」
――星のまたたく夜の下で、村づくりは静かに、でも確かに前へと進んでいた。
村の朝は、王都とはまるで違う。
きらきらしたタイルの廊下もなければ、召使たちの気配もしない。だけど、どこか“満ちている”空気がある。
セリーナは、小さな木製の椅子にちょこんと腰かけ、エプロン姿のまま、野菜の皮をむいていた。
慣れない包丁に悪戦苦闘しながらも、隣のミーニャが笑顔で見守ってくれている。
「にんじんはね、こうやって、くるくるってまわすと、うまく剥けるよ~」
「そ、そんなの知ってるわよっ……! ただ……その、包丁がちょっと鈍いだけっ!」
ぷいっとそっぽを向きながらも、セリーナの指は明らかに震えている。
それでも逃げない。――ここでは、逃げる理由がない。
「……お姫さまって、野菜も剥けるんだぁ……!」
近くで見ていた子どもが、ぽつりと漏らす。
セリーナは一瞬、その言葉に肩をびくっとさせた。
(“お姫さま”……)
昔なら誇りを持って受け止めていたその言葉が、今はどこか、くすぐったくて、少しだけ……さびしい。
でも、隣にいたルルナが小さく、ほほえんで言った。
「セリーナは、わたしのたいせつな“おねえちゃん”だよ」
その一言に、胸の奥で何かがやさしくほどけた。
「……ふふ。そうね、もう“お姫さま”じゃないもの。私はただのセリーナ。にんじんの皮をむくのに必死な、村の女の子よ」
午後、セリーナは村の小さな畑に立っていた。
軽い農具を手に持ち、土の感触に眉をひそめながら、足元を見つめる。
「……靴が泥だらけ……!」
「当たり前でしょ、畑だもん~!」
ミミナがぴょんっと跳ねて、軽やかにスコップを動かす。
「こういうのも、だいじな“村の守り方”なんだよ? 食べものが育たないと、みんな困るでしょ?」
言われてみればその通りだった。
セリーナはそっとしゃがみこみ、指で土を掘る。
(泥って、こんなに……やわらかいのね)
王城で美術や詩や舞踏ばかり習っていた彼女にとって、土のにおいは“汚れ”だった。
でも今は、ただ……ほんの少し、温かく感じる。
汗をぬぐうと、アリシアがタオルを差し出した。
「似合ってるわ、セリーナ。ドレスじゃなくても、あなたは美しい」
「……お世辞を言っても、畑仕事は交代しないわよ?」
「いいのよ。だってあなた、今……ほんとうに“自分の手”でここに立ってるもの」
ふたりは、互いにくすっと笑い合った。
「ほら、見て見て~っ!ここ、風が甘いにおいしたから来てみたら、やっぱりあった~!この白い葉っぱ、煎じるとお腹にいいんだってー!」
彼女がそう叫ぶと、ルフィアが笑いながらうなずいた。
「すごいねー、ミミナ。わたしでも見落とす場所に、ちゃんと気づいてたんだぁ。これ、すぐ乾かして薬庫に入れよっ。」
子どもたちも興味津々でミミナのあとをついて回る。
「ミミナお姉ちゃん!この葉っぱは?」「うーん、これはちょっと苦いかも~!ルルナはどう思う~?」
そんなふうに、彼女はあっという間にみんなの“お姉ちゃん”になっていった。
ルルナは、人の心の機微を読む力を使って、主に新しく来た子や心に傷を負った人のそばに寄り添う係に。
言葉が出ない獣人の男の子の隣に、そっと座って微笑む。
「……うん、こわかったよね。でも、もう大丈夫だよ。お姫さまがね、“こわくない場所”をくれたから……」
その子は、ぽろりと涙をこぼしながら、ルルナに抱きついた。
アリシアは少し離れたところでその光景を見つめ、そっと目を細めた。
「あなたは……不思議な子ね。誰かの痛みを、言葉じゃなく感じて、癒す力がある。大切な人よ、ルルナ」
ルルナは照れくさそうに、でも嬉しそうにアリシアに微笑みかける。
その夜、村の広場には焚き火が焚かれ、子どもたちが笑いながら踊っていた。
「レイ兄ーっ! これ、さっき拾った絵本! 明日読んでねーっ!」
「うんうん、ルルナも一緒に読む~!」
ミミナが大事そうに絵本を抱えてはしゃぎ、ルルナは小さくうなずいてセリーナの手を握る。
「……お姫さま、また、手、つないでもいい……?」
「……ふん、仕方ないわね。ほんの少しだけよ?」
セリーナはわざとそっけなく言いながら、ぎゅっと優しく握り返す。
その小さな手は、いつの間にか、彼女の心の中にも温もりをくれ始めていた。
そして――
ミミナとルルナは、今やこの村にとってかけがえのない存在になりつつあった。
守られるだけじゃない、“支える力”を持った小さな命たち。
レイニーは空を見上げながら、ぽつりとつぶやく。
「……あの子たちがいるなら、この村……もっとあったかくなるよね。なぁ、フィオナ」
――星のまたたく夜の下で、村づくりは静かに、でも確かに前へと進んでいた。
村の朝は、王都とはまるで違う。
きらきらしたタイルの廊下もなければ、召使たちの気配もしない。だけど、どこか“満ちている”空気がある。
セリーナは、小さな木製の椅子にちょこんと腰かけ、エプロン姿のまま、野菜の皮をむいていた。
慣れない包丁に悪戦苦闘しながらも、隣のミーニャが笑顔で見守ってくれている。
「にんじんはね、こうやって、くるくるってまわすと、うまく剥けるよ~」
「そ、そんなの知ってるわよっ……! ただ……その、包丁がちょっと鈍いだけっ!」
ぷいっとそっぽを向きながらも、セリーナの指は明らかに震えている。
それでも逃げない。――ここでは、逃げる理由がない。
「……お姫さまって、野菜も剥けるんだぁ……!」
近くで見ていた子どもが、ぽつりと漏らす。
セリーナは一瞬、その言葉に肩をびくっとさせた。
(“お姫さま”……)
昔なら誇りを持って受け止めていたその言葉が、今はどこか、くすぐったくて、少しだけ……さびしい。
でも、隣にいたルルナが小さく、ほほえんで言った。
「セリーナは、わたしのたいせつな“おねえちゃん”だよ」
その一言に、胸の奥で何かがやさしくほどけた。
「……ふふ。そうね、もう“お姫さま”じゃないもの。私はただのセリーナ。にんじんの皮をむくのに必死な、村の女の子よ」
午後、セリーナは村の小さな畑に立っていた。
軽い農具を手に持ち、土の感触に眉をひそめながら、足元を見つめる。
「……靴が泥だらけ……!」
「当たり前でしょ、畑だもん~!」
ミミナがぴょんっと跳ねて、軽やかにスコップを動かす。
「こういうのも、だいじな“村の守り方”なんだよ? 食べものが育たないと、みんな困るでしょ?」
言われてみればその通りだった。
セリーナはそっとしゃがみこみ、指で土を掘る。
(泥って、こんなに……やわらかいのね)
王城で美術や詩や舞踏ばかり習っていた彼女にとって、土のにおいは“汚れ”だった。
でも今は、ただ……ほんの少し、温かく感じる。
汗をぬぐうと、アリシアがタオルを差し出した。
「似合ってるわ、セリーナ。ドレスじゃなくても、あなたは美しい」
「……お世辞を言っても、畑仕事は交代しないわよ?」
「いいのよ。だってあなた、今……ほんとうに“自分の手”でここに立ってるもの」
ふたりは、互いにくすっと笑い合った。
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