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第三章 ‐ 戦争の影
207話 太陽色のスカーフと、心の居場所
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その夜、広場の焚き火のそばに座ったセリーナは、毛布に包まれたルルナと肩を並べていた。
「……セリーナ、眠くない?」
「ううん、火って、なんだか落ち着くわね……王都の灯りより、ずっと……あたたかい」
ルルナがこくんと頷いて、ぽつりと呟く。
「お姫さまじゃないセリーナも、わたし、だいすき」
「……ありがとう。あなたのおかげで、わたし、ようやく気づいたの」
焚き火の灯りに照らされて、セリーナの横顔は、どこか柔らかくほどけていた。
「この村でなら、“誰かの理想”じゃなくて、“わたし自身”でいられるって」
翌朝、レイニーが広場で新しいスカーフを配っていた。みんなの役割を象徴する、色と刺繍入りの小さな目印。
「セリーナには……この色かな。黄金色のスカーフ。
“太陽みたいに、みんなを照らす係”ってことでさ♪」
「な、なによそれ……別にそんなつもりじゃ……」
言いながら、セリーナはそっとそれを首に巻く。
ふわりと風が吹いて、スカーフが揺れた。
(もう“王女”じゃない。でも――)
今の自分も、わるくない。
――そう思えるようになった気がして、胸の奥がほんの少し、温かくなった。
それは、ある雨上がりの午後だった。
空には雲がまだ残っていたけれど、村の木々はしっとりと濡れた葉を揺らしていた。
セリーナは、小さな縫いぐるみを抱えてぽつんと座っているルルナの姿を見つけた。
その場所は、村の外れの木陰。子どもたちの遊び場から少し離れた、静かな場所だった。
「……ルルナ?」
声をかけると、ルルナは小さく肩を震わせながら、くるっとこちらを向いた。
その瞳には、ほんのり涙のあとが残っている。
「どうしたの……? 何か、あった?」
そっと腰を下ろして、セリーナはルルナの隣に座る。
ルルナはしばらく黙っていたけれど、小さな声でぽつりとこぼした。
「……わたし、何にもできないの……」
「え?」
「ミミナは、草のことがわかるし、すぐにお友達ができる。アリシアさんも、レイニーも……みんなすごい。
わたしだけ……ただの、なにもできない子みたい……」
小さな拳をぎゅっと握りしめて、ルルナは俯く。
――セリーナは、その姿にどこか昔の自分を重ねていた。
(わたしも、そうだった。兄たちみたいに剣も使えなくて、父のように強くもなれなくて……)
「……ねえ、ルルナ。わたしね、王城にいたころ、いっつも“なにかにならなきゃ”って思ってたの」
そっと、自分の膝に手を置きながら、セリーナは穏やかに話し始める。
「でも、ここの人たちは……そんなこと、求めてこなかった。ただ、わたしの“そのまま”を見てくれたの」
「……そのまま?」
「そう。笑ったり、困ったり、泣いたり……そんな普通のことが、この村では“宝物”みたいに大事にされるのよ」
そして、セリーナはやさしく微笑んで、ルルナの肩に手を置いた。
「ルルナは、よくみんなの心の声を聞いてるわ。話せない子や、傷ついてる子にも、そっと寄り添ってあげてる。
それって、“すごいこと”じゃない?」
「……わたしが?」
「ええ。だって、わたしだって救われたもの。あなたが、“セリーナ、大好き”って言ってくれたあの日……ほんとうに、うれしかった」
ルルナは目を見開き、ぽろっと小さな涙をこぼした。
「わたし……セリーナが悲しそうにしてたから……ただ、それだけで……」
「それが、すごいのよ」
セリーナは、ルルナの頭をそっと撫でた。
それは王女のふるまいじゃなく、“ひとりの姉”のような、あたたかな手だった。
その日の夕方、広場では子どもたちが丸くなって座っていた。
ルルナが、ちょっぴり恥ずかしそうにみんなの真ん中で、静かに手をあげる。
「えっと……あのね、今日の遊び、ルルナが決めてもいい……?」
「わあっ、なになにー!?」
「ルルナちゃんが考えたのー!?」「やった~!」
子どもたちがぱっと笑顔になり、輪の中がふわっと明るくなる。
その光景を、セリーナは少し離れた場所からそっと見守っていた。
横にいたアリシアが、微笑んで言う。
「素敵だったわ、あなたの言葉。まるで……王女さまみたいに」
「ふふっ、それは“前のわたし”ね。今の私は――」
セリーナは、風に揺れる金色のスカーフにそっと手を当てる。
「この村の“お姉さん”よ」
無秩序の森の空が、茜色に染まり始めていた。
リーナは、村の外れにある小さな訓練場で一人、木剣を握って構えていた。
足は軽く、視線は鋭く、動きに一切の迷いはない。
――でも、今日は何かが違っていた。
「よしっ……ふっ!」
シュバッ、と空気を切る音とともに、リーナの銀髪が風に揺れる。
けれどその髪には、見慣れないものがついていた。
リボンだった。
淡い赤の、森の花で染めた小さなリボンが、リーナの左耳の後ろで揺れていた。
「リーナ! そのリボン、すごく似合ってる!」
走ってきたのはミミナとルルナの双子のようにいつも一緒な子たち。くるくる回りながら、リーナのまわりを嬉しそうに跳ねていた。
「……セリーナ、眠くない?」
「ううん、火って、なんだか落ち着くわね……王都の灯りより、ずっと……あたたかい」
ルルナがこくんと頷いて、ぽつりと呟く。
「お姫さまじゃないセリーナも、わたし、だいすき」
「……ありがとう。あなたのおかげで、わたし、ようやく気づいたの」
焚き火の灯りに照らされて、セリーナの横顔は、どこか柔らかくほどけていた。
「この村でなら、“誰かの理想”じゃなくて、“わたし自身”でいられるって」
翌朝、レイニーが広場で新しいスカーフを配っていた。みんなの役割を象徴する、色と刺繍入りの小さな目印。
「セリーナには……この色かな。黄金色のスカーフ。
“太陽みたいに、みんなを照らす係”ってことでさ♪」
「な、なによそれ……別にそんなつもりじゃ……」
言いながら、セリーナはそっとそれを首に巻く。
ふわりと風が吹いて、スカーフが揺れた。
(もう“王女”じゃない。でも――)
今の自分も、わるくない。
――そう思えるようになった気がして、胸の奥がほんの少し、温かくなった。
それは、ある雨上がりの午後だった。
空には雲がまだ残っていたけれど、村の木々はしっとりと濡れた葉を揺らしていた。
セリーナは、小さな縫いぐるみを抱えてぽつんと座っているルルナの姿を見つけた。
その場所は、村の外れの木陰。子どもたちの遊び場から少し離れた、静かな場所だった。
「……ルルナ?」
声をかけると、ルルナは小さく肩を震わせながら、くるっとこちらを向いた。
その瞳には、ほんのり涙のあとが残っている。
「どうしたの……? 何か、あった?」
そっと腰を下ろして、セリーナはルルナの隣に座る。
ルルナはしばらく黙っていたけれど、小さな声でぽつりとこぼした。
「……わたし、何にもできないの……」
「え?」
「ミミナは、草のことがわかるし、すぐにお友達ができる。アリシアさんも、レイニーも……みんなすごい。
わたしだけ……ただの、なにもできない子みたい……」
小さな拳をぎゅっと握りしめて、ルルナは俯く。
――セリーナは、その姿にどこか昔の自分を重ねていた。
(わたしも、そうだった。兄たちみたいに剣も使えなくて、父のように強くもなれなくて……)
「……ねえ、ルルナ。わたしね、王城にいたころ、いっつも“なにかにならなきゃ”って思ってたの」
そっと、自分の膝に手を置きながら、セリーナは穏やかに話し始める。
「でも、ここの人たちは……そんなこと、求めてこなかった。ただ、わたしの“そのまま”を見てくれたの」
「……そのまま?」
「そう。笑ったり、困ったり、泣いたり……そんな普通のことが、この村では“宝物”みたいに大事にされるのよ」
そして、セリーナはやさしく微笑んで、ルルナの肩に手を置いた。
「ルルナは、よくみんなの心の声を聞いてるわ。話せない子や、傷ついてる子にも、そっと寄り添ってあげてる。
それって、“すごいこと”じゃない?」
「……わたしが?」
「ええ。だって、わたしだって救われたもの。あなたが、“セリーナ、大好き”って言ってくれたあの日……ほんとうに、うれしかった」
ルルナは目を見開き、ぽろっと小さな涙をこぼした。
「わたし……セリーナが悲しそうにしてたから……ただ、それだけで……」
「それが、すごいのよ」
セリーナは、ルルナの頭をそっと撫でた。
それは王女のふるまいじゃなく、“ひとりの姉”のような、あたたかな手だった。
その日の夕方、広場では子どもたちが丸くなって座っていた。
ルルナが、ちょっぴり恥ずかしそうにみんなの真ん中で、静かに手をあげる。
「えっと……あのね、今日の遊び、ルルナが決めてもいい……?」
「わあっ、なになにー!?」
「ルルナちゃんが考えたのー!?」「やった~!」
子どもたちがぱっと笑顔になり、輪の中がふわっと明るくなる。
その光景を、セリーナは少し離れた場所からそっと見守っていた。
横にいたアリシアが、微笑んで言う。
「素敵だったわ、あなたの言葉。まるで……王女さまみたいに」
「ふふっ、それは“前のわたし”ね。今の私は――」
セリーナは、風に揺れる金色のスカーフにそっと手を当てる。
「この村の“お姉さん”よ」
無秩序の森の空が、茜色に染まり始めていた。
リーナは、村の外れにある小さな訓練場で一人、木剣を握って構えていた。
足は軽く、視線は鋭く、動きに一切の迷いはない。
――でも、今日は何かが違っていた。
「よしっ……ふっ!」
シュバッ、と空気を切る音とともに、リーナの銀髪が風に揺れる。
けれどその髪には、見慣れないものがついていた。
リボンだった。
淡い赤の、森の花で染めた小さなリボンが、リーナの左耳の後ろで揺れていた。
「リーナ! そのリボン、すごく似合ってる!」
走ってきたのはミミナとルルナの双子のようにいつも一緒な子たち。くるくる回りながら、リーナのまわりを嬉しそうに跳ねていた。
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