転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

208話 ツンデレの恋と、無自覚な好意

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「えっ……あ、ああ。これ、セリーナがくれたんだ。『今日はいつもより少し、女の子らしくしてみたら?』って……」

 リーナは頬をかきながら照れ笑いする。

「そっか~!レイ兄にも見せよっ!」

「ちょ、ちょっと待って、それはまだ……!」

 そう言って追いかけようとするリーナの動きは、いつもの俊敏な彼女ではなかった。少しだけ、躊躇っていた。

 それに気づいたのは、森の入り口から歩いてきたレイニーだった。

「おーい、リーナ!今日も修業するかーって……あれ? そのリボン……」

 レイニーが声をかけたとたん、リーナは一瞬フリーズした。瞳が、レイニーの顔を見て、そっと逸らされた。

「……あー、うん。たまたま。セリーナが、ほら、似合うって……って、えっ、見ないでよっ!」

 リーナは慌てて背を向けると、リボンを手で隠した。

 けれど、その肩をレイニーがそっとポンポンとたたく。

「似合ってるよ。いつもの “かっこいいリオン” も好きだけど、 “リーナ” もすごく素敵だなって思った」

「……っ、ば、ばかっ……!」

 リーナは顔を真っ赤にして、木剣でレイニーを小突くふりをした。でもその笑顔は、どこか嬉しそうで。


 その夜、村の広場では子どもたちが小さな火を囲んでいた。
 森の中での安全ルートの確認や、簡単な追跡術を教えるための“リーナの講習会”だった。

「じゃあ、動物の足跡の見分け方、もう一回いくよ!」

 元気よく説明するリーナに、ミミナもルルナも、他の子たちも目を輝かせていた。その横顔はまるで、誰かのお姉さんのようで。

「リーナ、やっぱりすごいな……」
 遠くから見ていたアリシアが、そう呟いた。

 隣にいたセリーナが小さく笑う。

「“リオン” として生きてきた彼女が、ここでようやく “リーナ” として笑ってる。
 レイニーが連れてきてくれて、ほんとうによかった」

 火の明かりに照らされて、リーナのリボンが優しく揺れていた。
 誰にも知られたくなかった秘密も、いまでは「守ってくれる仲間」がいるから――

 リーナの心は、ようやく「居場所」を見つけていた。


 夕方の村の縁側。
 ほんのり暖かい日差しの中、セリーナとリーナは並んで座っていた。
 ふたりとも薄いお茶を片手に、おそろいの木彫りの湯のみを持っている。

「それでね、アリシアったら “レイニーくんは村で一番危なっかしいのは貴女よ” って怒るのよ。失礼しちゃうわよねっ!」

 ふくれっ面のセリーナに、リーナはくすっと笑う。

「でも、レイニーくんって危なっかしい人は放っておけないタイプでしょ? それってちょっと羨ましいかも~」

「ふふっ、そうね。いつも“仕方ないな”って顔で助けてくれるのよ。……でも、わたしだって王女なのに!」

「今は “元” でしょ?」

「う……っ、そ、それはそうだけどっ!」

 ふたりの間に、くすくすとした笑い声が弾む。
 リーナは頬杖をついて、楽しそうにセリーナを見た。

「でも、わたしね……ここに来てから、なんかちょっと変わったかも」

「変わった?」

「うん。前は、 “女の子であること” って隠すものだったのに……。今はセリーナとこうやって話してるの、楽しいって思えるの」

「……リーナ」

 セリーナはふわっと微笑んで、そっと隣に寄った。

「じゃあ、リーナ。これからも “女の子どうし” 仲良くしましょうね?」

「うんっ♪」

 ふたりはピンク色の小指を出し合って、キュッと結んだ。

 そのあと――セリーナはちょっとイタズラっぽく笑って、

「じゃあさ、わたしが森で魔物に襲われたら、リーナが助けに来てくれるってことでいいのよねっ?」

「うん。任せてっ♪」

 即答だった。
 しかも、にっこりと無邪気な笑顔で答えたリーナに、セリーナの頬がちょっとだけ赤くなる。

「ふふ……リーナって、意外と頼れるのね。……なんか、好きになっちゃいそう」

「えっ?」

「な、なんでもないわっ! お茶、おかわりに行ってくるっ!」

 ぱたぱたと走って行くセリーナの背中を見て、リーナはちょっと首をかしげながら微笑んだ。

「……セリーナって、可愛いなあ」


 お昼の休憩時間。村の広場でお弁当を食べていたリーナとセリーナは、のんびりと空を眺めながら他愛もない話をしていた。

「そういえばさぁ、最近リリスさんに色々仕込まれてるんだよね……掃除に礼儀に、マナーに……正直、あたし限界っ!!」

「ふふっ。リリスって容赦ないから。わたしもちょっと怒鳴られたことあるもの」

「え!? セリーナでも!?」

 思わず目を丸くするリーナの横で、セリーナがくすっと笑う。そしてふと、遠くの屋敷の方角に目を向けた。

「……でも、あの子は全部ちゃんとこなしてるわね。レイニーくんの屋敷に住んでる従者の、ロディーくん」

「あー、あの子! 銀髪でピシッとしてるちっちゃい子だよね。なんかお菓子運んでた時、めっちゃ綺麗な立ち居振る舞いしてた……」

「見た目は子供だけど、すごいのよ? あれで魔界の元・貴族なんですって。レイニーくんが拾って、従者にしたんだとか」

「へぇ……って、待って、レイニーくんの家に一緒に住んでるのっ!?」
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