転生したら王族だった

みみっく

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第二章 ‐ 迫害と対立と交流と絆

112話 アリシアの悩み

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 夕方の穏やかな光が森の中を柔らかく照らしていた。木々の間を抜ける風が、畑に植えられた野菜の葉を優しく揺らしている。

 レイニーは小さな鍬を肩にかけながら、村の畑を見回っていた。彼の銀髪が夕陽に照らされ、ふわりと光を帯びる。

 そこへ、アリシアが静かに近づいてきた。長い銀髪をそよ風になびかせながら、やや控えめな微笑みを浮かべて声をかける。

「レイニーくん、少し話してもいいかしら?」

 レイニーはぱっと振り向き、満面の笑みで手を振る。

「もちろんっ! どうしたの、アリシア?」

 アリシアは少し戸惑ったような表情を見せ、前髪を耳にかけながら視線を畑へ移した。

「最近……この畑のことでちょっと悩んでいるの。どうしても、うまく育たない作物があって……水も陽も足りてるはずなのに、元気がなくて……」

 レイニーは彼女の顔をじっと見て、にこっと微笑んだ。その表情には、どこか太陽のような安心感があった。

「うん、分かるよ。ここは“無秩序の森”の中だもん。普通のやり方が通じないこともあるよね。でも大丈夫! 絶対に解決策はあると思うよ!」

 アリシアは一瞬だけ瞳を見開き、それから微笑み返した。

「ありがとう、レイニーくん。あなたがそう言ってくれると、不思議と心が軽くなるわ。でも……知識も魔法も通じないときって、本当に困ってしまうの」

「うーん……じゃあ、みんなで一緒に考えてみよっか!」
 レイニーはぱっと両手を広げて、空を仰ぐように言った。

「ルミエールもリリスも、みーんな知恵持ってるし、得意なこと違うでしょ? 力を合わせれば、きっと“森の気まぐれ”にも勝てるよっ!」

 アリシアはその言葉に、ふっと笑った。

「ふふっ、そうね。一人で悩んでいても仕方ないわね。皆の力を借りるのも、私の役目かもしれない」

 「その意気だよ、アリシアっ!」
 レイニーは元気よく言って、アリシアの肩を軽くポンと叩いた。

「俺たち、仲間でしょ? 一緒に頑張ろー!」

 その声に、夕暮れの森がほんの少しだけ明るくなった気がした。

 「そうだなぁ……まず、森を修復してくれたセラフィーナとシオンに相談してみよっかなぁ」

 レイニーはそう言って、アリシアの手を軽く握った。そのまま二人は夕暮れの村を抜け、屋敷へと戻っていく。

 屋敷のリビングに入ると、ふかふかのソファが迎えてくれた。見渡すと、ラヴェンナに加えて新しいメイドたちが数人、忙しそうに働いている。

 (そっか……ラヴェンナだけじゃ、この大きな屋敷の管理は大変だもんね。俺は外で好き勝手やってるし……)

 内心そんなことを思いながら、レイニーは近くのメイドに声をかけた。

「セラフィーナを呼んできてもらえるかな?」

 やがて現れたセラフィーナは、白いローブをたなびかせながら静かに歩いてきた。相変わらずの神秘的な美しさに、アリシアが一瞬見とれる。

「セラフィーナ、悪いね。ちょっと相談があるんだけど……畑のことなんだ。うまくいかなくてさぁ。森を修復してくれたでしょ? なんとかならないかなぁ?」
 レイニーは困ったように眉を下げて尋ねた。

 するとセラフィーナも、少し申し訳なさそうに首を傾げた。

「それがですね……森の修復と、畑の世話は、まったく別の領域なんです。森は“自然そのもの”としての生命循環に属していて、私たち天使がギリギリ干渉できる範囲なのですが……畑、つまり“人の手で作られた自然”は、私たちの本来の管轄外なんです」

「……ああ、そっか。やっぱり違うんだね」
 レイニーは納得したようにうなずいた。

 セラフィーナはレイニーの反応を見て、優しく微笑みながら続けた。

「私たち天使にはいくつかの役割があって、“守護者”もそのひとつ。個人や場所を守り、危険から救うことが私たちの使命です。レイニーさんには、私の加護が何度か届いているはずですよ」

「うん、いろいろ助けてもらってるよね」
 レイニーは頬をかきながら、少し照れたように笑った。

 その言葉に、セラフィーナの頬がほんのり赤く染まった。

「……私は本来、守護天使ではないんですけどね。気づいたら、あなたのそばにいて……守っていたくなったんです」

 その言葉に、アリシアが目を丸くした。天使を“見られる”だけでも特別なのに、“共に暮らし”、“加護を受けている”ことの異常さに、思わずレイニーを見つめてしまった。

「それから、天使には“戦士”としての役目もあります。神に代わり、悪や邪悪なものと戦って秩序を保つのがその務め」
 セラフィーナの瞳がわずかに鋭くなる。だが、すぐにその光は穏やかさを取り戻した。

(うんうん、知ってたよ。セラフィーナ、めっちゃ強いもん。たまに、ちょっとこわいし……)

「それって、すっごく勇敢だよね! でも、他にも役割ってあるのかな?」
 レイニーは目を輝かせて尋ねた。

「ええ、“ガイド”として人々を導くこともあります。迷った心に道を示し、精神的な成長を助ける。そして“癒し手”として、病や傷を癒し、再び立ち上がる力を与えるのです」

「わぁ……ホントにすごいね、天使って」
 レイニーは素直に感心して頷いた。

「そして最後に、“裁定者”としての役目があります。最後の審判において、魂に裁きを下し、その行き先を決めるのです」

 その言葉には、空気が少し引き締まるような厳粛さがあった。

「出会ったときは――私は、最上位の天使として、裁定者であり、戦士でもありました」

 セラフィーナはそう静かに語り、そっとレイニーの隣に腰を下ろすと、そのまま体を寄せてきた。

「でも今は……あなたのそばが、いちばん落ち着くのです」

 優しい声だった。レイニーはセラフィーナの言葉に少し驚きながらも、彼女の温もりに安堵を感じていた。

 ――でも、今の話を聞いてる限り、やっぱり畑の問題は天使の管轄外だよね。

 続いてシオンにも相談してみたが、「森の修復というよりも、負のオーラを注ぎ込み魔物や魔獣を呼び戻して独自の進化を促しただけだしなぁ……」と返された。修復というより再現。草木に影響は出るけど、育てることとは違う、と。

「育てるのは……ボクの趣味じゃないよぅ。」と、シオンは肩をすくめた。

 うん。知ってた。元魔王だし……。

 振り出しに戻ってしまい、レイニーは少し沈んだ表情で考え込んでいた。すると、その横でアリシアが勢いよく立ち上がり、拳を胸の前で固く握った。

「私、もう少し調べてみます。それに、試行錯誤もしてみます!」

 その目には真剣な光が宿っていた。レイニーは微笑み、頼もしいなと感じながら頷いた。

 話が一段落し、レイニーは自室へ戻った。すると、アリシアもそのままついてきた。

「あれ? どうしたの?」
 レイニーは首をかしげ、彼女を見つめた。

 アリシアは少し俯いて、頬を赤らめながら答えた。

「その……一人で悩むより、相談しながらの方が良いかと思いまして……」

「そうだね。一人で抱えるより、話しながらの方がきっといいよっ♪」

 レイニーがベッドに腰を下ろし、手のひらで隣の場所を軽くトントンと叩くと、アリシアは少しためらいながらも、隣にそっと腰を下ろした。

 肩がかすかに触れる距離。レイニーがちらりと横顔を見ると、アリシアは視線を逸らして顔を赤らめていた。

「えっと……どうされたのですか……?」

 その声は少し震えていた。

「顔がちょっと疲れてるよ。ちゃんと休めてる?」

 心配そうに声を掛けると、アリシアは笑みを返して言った。

「はい。力仕事は他の方に任せていますし、休むときはしっかり休んでいますよ。大丈夫です」

 彼女の言葉には自信があったが、レイニーはふと視線を窓の外に向けた。

 ――それでも、畑までの往復だけでもけっこう大変だよね。

 仲間たちが頑張ってくれているからこそ、自分も何かできることを見つけなきゃ――そう思いながら、そっと彼女の肩に体を預けた。

「……ありがとう、アリシア。頼りにしてるよ」

 その一言に、アリシアは驚いたように目を丸くしたが、すぐに照れくさそうに微笑みを浮かべ、かすかにレイニーにもたれかかった。
 
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