【完結】狡い人

ジュレヌク

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一筋の光り

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「待って!」


右手を取られ、私は、身を硬くした。

女と男では、力が違う。

もし、ここで乱暴されても、逆らう術が私にはない。

ギュッと目をつぶって身構えていると、


「す、すまない。引き留めようとして、つい」


オリンピエ先輩は、私の手首から慌てて手を離し、両手をバタバタさせて必死に弁解を始めた。

聡明で、落ち着きのある方というイメージが、ガラガラと壊れる。

私の気が緩んだことに気づいたのか、オリンピエ先輩は、気不味そうに頭を掻いた。


「格好悪いと思っただろ?」

「いえ・・・可愛いなと」


ライラの『あざとい可愛らしさ』を見続けた私には、大きな体を縮こまらせて、眉をハの字に下げるオリンピエ先輩の可愛らしさは、とても好ましく見えた。


「初めて言われた」

「すみません。失礼な事を」


その後、私達は、ポツリポツリとお互いの事を話した。


「私にも、弟がいるんだ、君の双子の姉妹みたいなね」

「え?」

「二言目には、狡いだろ?」

「あぁ……」

オリンピエ先輩にも2歳年下の弟が居て、同じように何かにつけては『狡い』と言われるらしい。

ライラほど酷くはないが、ご両親も心配しているという。


「何を言っても、『狡い』に置き換えられる。毎回、道筋立てて説明するのに疲れるよ。それでも、最近、やっと改善が見られるようになってね。ホッとしているよ」


そんな経験があったからこそ、毎日のようにライラに難癖を付けられる私に同情してくれているそうだ。


「君の頑張りは、皆、知っている。だから、負けないでくれ」

「はい。ありがとうございます」


思わぬ励ましを受け、私の心は、フワリと軽くなった。

そのせいか、自然と、


「やはり、そのタオル、お預かりさせていただけませんか?」


と口にすることができた。

2度目の申し出に、オリンピエ先輩も流石に断り難かったのか、


「その心遣い、受け入れよう」


とタオルを渡してくださった。

そして、
 

「また、君と会える口実が出来たね」


と微笑まれた。

余裕のある言葉とは裏腹に、オリンピエ先輩の顔が真っ赤だから、私の胸も、痛いくらい早く鼓動を刻んだ。


「あの……いつお返しすれば」


「じゃあ、3日後、同じ時間、同じ場所でどうだろう?」


さっきまで、薄暗く陰気に感じられていたこの校舎裏に、サワリと春風が吹いた。

花の香りが鼻腔をくすぐり、温かさすら感じる。

受け取ったタオルを、汚れた部分を内側にして畳み直すと、私は、胸の前で抱きしめた。


「はい……では、3日後に……」


遠くで、始業の鐘が鳴った。


「またね」


軽く手を振り、オリンピエ先輩は、駆けていった。

一人残った私は、空を見上げた。

濁った曇天の隙間から、一筋の光りが差しているのが見えた。


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