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泥だらけのメダル
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「・・・はぁ」
昨日の夜は、雨だった。
だから地面は泥濘(ぬかる)んでいて、金メダルは、泥まみれになっていた。
なんだか、自分の頑張りすら泥だらけにされたような気がして、直ぐに拾い上げる気にならない。
「大丈夫?」
背後から声をかけられ、驚きに体がピクッと動いた。
恐る恐る振り返ると、そこには、フェンシング部部長のエピジントン・オリンピエ先輩が立っていた。
生徒会長も兼任され、優しい人柄で学園きっての人気者。
公爵令息なのに、選民意識の薄い方だ。
学年が違う為、こうして言葉を交わすのは、初めてだった。
「大丈夫です」
「大丈夫には、見えないけど」
地面に落ちたメダルを、オリンピエ先輩が拾い上げる。
私は、何と言えば良いのか分からず、俯いた。
家の恥を他の人にペラペラ話すわけにもいかない。
かと言って、この状況は、異常だ。
そんな私に、オリンピエ先輩も、一瞬どうすればいいか悩んだようだ。
ふーっと長く息を吐き、私と同じように下を向く。
気まずい空気が流れる中、
「君、レイラ・アンフェア嬢だよね?」
と、名前を呼ばれた。
私は、つい顔を上げる。
「私を、ご存知なのですか?」
「君を知らない人間は、いないだろう。学園きっての才女。そして、双子の・・・」
「『眼鏡とお下げ髪の方』ですか?」
「まぁ・・・それもあるけど」
双子なのに、全然違うとよく言われる。
美しく着飾り、それが許される容姿とスタイルのライラ・アンフェア。
ガリ勉クソ真面目を絵に描いたような、レイラ・アンフェア。
私だって、お洒落に興味がないわけじゃない。
出来れば、派手でなくていいから、品のあるドレスを着こなしたい。
だけど、あちらこちらで粗相を繰り返すライラと同じ容姿を持つ私は、幼い頃、やってもいない事で怒られることが多かった。
それが、ライラと間違われての叱責だと気付いた私は、極力雰囲気を変えて、私とライラの差別化を図った。
それ以来、私への賛辞は、私だけのもの。
ライラへの悪評は、ライラだけのものになった。
綺麗なものを着られないのは残念だけど、これも自己防衛の一つだった。
「はい、どうぞ」
オリンピエ先輩は、泥だらけのメダルを、ご自身のタオルで綺麗に拭いてから私に差し出してくれた。
代わりに、彼のタオルが泥だらけになっていた。
「あ、ありがとうございます。もし、よろしければ、そちらのタオル、洗ってから返させて頂けないでしょうか?」
我がアンフェア家も彼と同格の公爵家だけど、歴史も功績も桁違いのオリンピエ家。
しかも、皇太子のご学友でもあり、将来の側近と言われている。
決して失礼のないように接しなければならない相手。
私は、タオルを受け取ろうと差し出した手が微かに震えるのを感じた。
「いや、気にしないでくれ」
どうせ、捨てるから。
そんな声が聞こえた気がした。
そうよね。
公爵家の次期当主が、使い古しを使うことなんてない。
我が家みたいに、母とライラの散財で半分傾いている家とは大違い。
「申し訳ございませんでした」
私は、頭を深々と下げて走り去ろうとした。
昨日の夜は、雨だった。
だから地面は泥濘(ぬかる)んでいて、金メダルは、泥まみれになっていた。
なんだか、自分の頑張りすら泥だらけにされたような気がして、直ぐに拾い上げる気にならない。
「大丈夫?」
背後から声をかけられ、驚きに体がピクッと動いた。
恐る恐る振り返ると、そこには、フェンシング部部長のエピジントン・オリンピエ先輩が立っていた。
生徒会長も兼任され、優しい人柄で学園きっての人気者。
公爵令息なのに、選民意識の薄い方だ。
学年が違う為、こうして言葉を交わすのは、初めてだった。
「大丈夫です」
「大丈夫には、見えないけど」
地面に落ちたメダルを、オリンピエ先輩が拾い上げる。
私は、何と言えば良いのか分からず、俯いた。
家の恥を他の人にペラペラ話すわけにもいかない。
かと言って、この状況は、異常だ。
そんな私に、オリンピエ先輩も、一瞬どうすればいいか悩んだようだ。
ふーっと長く息を吐き、私と同じように下を向く。
気まずい空気が流れる中、
「君、レイラ・アンフェア嬢だよね?」
と、名前を呼ばれた。
私は、つい顔を上げる。
「私を、ご存知なのですか?」
「君を知らない人間は、いないだろう。学園きっての才女。そして、双子の・・・」
「『眼鏡とお下げ髪の方』ですか?」
「まぁ・・・それもあるけど」
双子なのに、全然違うとよく言われる。
美しく着飾り、それが許される容姿とスタイルのライラ・アンフェア。
ガリ勉クソ真面目を絵に描いたような、レイラ・アンフェア。
私だって、お洒落に興味がないわけじゃない。
出来れば、派手でなくていいから、品のあるドレスを着こなしたい。
だけど、あちらこちらで粗相を繰り返すライラと同じ容姿を持つ私は、幼い頃、やってもいない事で怒られることが多かった。
それが、ライラと間違われての叱責だと気付いた私は、極力雰囲気を変えて、私とライラの差別化を図った。
それ以来、私への賛辞は、私だけのもの。
ライラへの悪評は、ライラだけのものになった。
綺麗なものを着られないのは残念だけど、これも自己防衛の一つだった。
「はい、どうぞ」
オリンピエ先輩は、泥だらけのメダルを、ご自身のタオルで綺麗に拭いてから私に差し出してくれた。
代わりに、彼のタオルが泥だらけになっていた。
「あ、ありがとうございます。もし、よろしければ、そちらのタオル、洗ってから返させて頂けないでしょうか?」
我がアンフェア家も彼と同格の公爵家だけど、歴史も功績も桁違いのオリンピエ家。
しかも、皇太子のご学友でもあり、将来の側近と言われている。
決して失礼のないように接しなければならない相手。
私は、タオルを受け取ろうと差し出した手が微かに震えるのを感じた。
「いや、気にしないでくれ」
どうせ、捨てるから。
そんな声が聞こえた気がした。
そうよね。
公爵家の次期当主が、使い古しを使うことなんてない。
我が家みたいに、母とライラの散財で半分傾いている家とは大違い。
「申し訳ございませんでした」
私は、頭を深々と下げて走り去ろうとした。
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