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知って欲しい本当の私
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「やぁ、そこの図書係殿、一緒に本を探して貰いたいのだけれども」
放課後、本の返却口で作業をしていた私に声をかけてきたのは、オリンピエ先輩だった。
あえて他人行儀にしようとするあまり、下手な役者の演技みたいになっているのが可笑しい。
かえって目立ってしまって、馴染みの人間に冗談を言っているように見える。
「どのような本をお探しですか?」
私が尋ねると、1枚の紙をテーブルの上に置いてくれた。
そこには、何冊かの経済関連の本の題名と、
『少し、話せる?』
というメッセージがそえられていた。
「では、ご案内いたします」
私が立ち上がると、側にいたマリアンヌが、質問したげな視線を向けてくる。
「あとで……」
肩をポンと叩いて微笑むと、安心したように手を振ってくれた。
『経済』と区分けされた本棚にオリンピエ先輩を誘導していると、
「お友達?」
と質問された。
マリアンヌは、小柄で愛らしい見た目だ。
そんな彼女を見初めたのかと、胸がチクリと痛んだ。
「えぇ……数少ない、本当の友達です……ずっと、側で支えてくれました……」
私は、胸の内を隠し、いかにマリアンヌが大切な人なのか語る。
すると、
「彼女が、羨ましいな。そんな風に、君に言ってもらえて」
とオリンピエ先輩が苦笑した。
「え?それは……」
「手紙の中に、友達の話が一度も出なかったから、僕は、僕が、君の唯一の『友達』なんだと思い込んでいたんだ」
頭を掻いて、顔にクシャッとシワを寄せて顔を赤くする。
「今、恥じているところだ。深くは、追求しないでくれるかな?」
また、私の胸が、また、ドキドキと音を立て始める。
本当に、勝手な心臓。
「あの……『お友達』……がご希望ですか?」
私は、とても狡くて、はしたない聞き方をした。
彼の答えがイエスでもノーでも、傷つかないフリが出来る。
でも、
「いや……出来たら、もっと上を狙っている」
と、思った以上の答えが返ってきて、私は、思わず立ち止まってしまった。
「いやかな?」
お返しとばかりに、狡い聞き方をしてくるオリンピエ先輩。
そんなの、私の真っ赤な耳を見れば、聞かなくても分かっているはずなのに。
「いやなら……ハンカチに刺繍を入れたりなんかしません」
「そうか……良かった……」
お互い顔を見ることができず、私達は、暫くそこから動けなかった。
日が傾き、窓から伸びた夕日に、二人の影が伸びていく。
「君のお父上に、手紙を出しても良いだろうか?」
静かな、耳を澄まさないと聞こえないような囁きに、
「……心から、お待ちしております」
私も、夕闇に消えてしまいそうな小声で答えた。
文通を始めて、半年が経っていた。
こうして、直接言葉を交わすのは、あの日以来。
だけど、何も、後悔しない。
私には、この方しかいないと思えた。
嬉しくて、堪えていた涙が溢れ出し、頬を濡らす。
「少し、失礼するよ」
オリンピエ先輩が、私の顔から眼鏡を取り去り、涙を拭いて下さった。
「分かっているつもりだったけど……君は、彼女より、ずっと美しいね」
誰と比べているのかは、聞かなくても分かる。
同じ顔をした人間が、この世にもう一人居るのだから。
私が、自身の顔を隠すようになって、凄く長い時間が過ぎた。
こんな風に、率直に褒めてもらったことなんて、今までにあっただろうか?
「僕以外に、君の美しさを知られたくないと思うのは、やはり、いけないことだよね」
「いえ、オリンピエ先輩にだけ知って頂けたら、ほかの方は、どうでも良いです」
「ははは、結構言うね」
少しずつ、少しずつで良い。
本当の私を、貴方に知って欲しいと心が訴えていた。
放課後、本の返却口で作業をしていた私に声をかけてきたのは、オリンピエ先輩だった。
あえて他人行儀にしようとするあまり、下手な役者の演技みたいになっているのが可笑しい。
かえって目立ってしまって、馴染みの人間に冗談を言っているように見える。
「どのような本をお探しですか?」
私が尋ねると、1枚の紙をテーブルの上に置いてくれた。
そこには、何冊かの経済関連の本の題名と、
『少し、話せる?』
というメッセージがそえられていた。
「では、ご案内いたします」
私が立ち上がると、側にいたマリアンヌが、質問したげな視線を向けてくる。
「あとで……」
肩をポンと叩いて微笑むと、安心したように手を振ってくれた。
『経済』と区分けされた本棚にオリンピエ先輩を誘導していると、
「お友達?」
と質問された。
マリアンヌは、小柄で愛らしい見た目だ。
そんな彼女を見初めたのかと、胸がチクリと痛んだ。
「えぇ……数少ない、本当の友達です……ずっと、側で支えてくれました……」
私は、胸の内を隠し、いかにマリアンヌが大切な人なのか語る。
すると、
「彼女が、羨ましいな。そんな風に、君に言ってもらえて」
とオリンピエ先輩が苦笑した。
「え?それは……」
「手紙の中に、友達の話が一度も出なかったから、僕は、僕が、君の唯一の『友達』なんだと思い込んでいたんだ」
頭を掻いて、顔にクシャッとシワを寄せて顔を赤くする。
「今、恥じているところだ。深くは、追求しないでくれるかな?」
また、私の胸が、また、ドキドキと音を立て始める。
本当に、勝手な心臓。
「あの……『お友達』……がご希望ですか?」
私は、とても狡くて、はしたない聞き方をした。
彼の答えがイエスでもノーでも、傷つかないフリが出来る。
でも、
「いや……出来たら、もっと上を狙っている」
と、思った以上の答えが返ってきて、私は、思わず立ち止まってしまった。
「いやかな?」
お返しとばかりに、狡い聞き方をしてくるオリンピエ先輩。
そんなの、私の真っ赤な耳を見れば、聞かなくても分かっているはずなのに。
「いやなら……ハンカチに刺繍を入れたりなんかしません」
「そうか……良かった……」
お互い顔を見ることができず、私達は、暫くそこから動けなかった。
日が傾き、窓から伸びた夕日に、二人の影が伸びていく。
「君のお父上に、手紙を出しても良いだろうか?」
静かな、耳を澄まさないと聞こえないような囁きに、
「……心から、お待ちしております」
私も、夕闇に消えてしまいそうな小声で答えた。
文通を始めて、半年が経っていた。
こうして、直接言葉を交わすのは、あの日以来。
だけど、何も、後悔しない。
私には、この方しかいないと思えた。
嬉しくて、堪えていた涙が溢れ出し、頬を濡らす。
「少し、失礼するよ」
オリンピエ先輩が、私の顔から眼鏡を取り去り、涙を拭いて下さった。
「分かっているつもりだったけど……君は、彼女より、ずっと美しいね」
誰と比べているのかは、聞かなくても分かる。
同じ顔をした人間が、この世にもう一人居るのだから。
私が、自身の顔を隠すようになって、凄く長い時間が過ぎた。
こんな風に、率直に褒めてもらったことなんて、今までにあっただろうか?
「僕以外に、君の美しさを知られたくないと思うのは、やはり、いけないことだよね」
「いえ、オリンピエ先輩にだけ知って頂けたら、ほかの方は、どうでも良いです」
「ははは、結構言うね」
少しずつ、少しずつで良い。
本当の私を、貴方に知って欲しいと心が訴えていた。
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