唇を隠して,それでも君に恋したい。

初恋

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ボクはコイの"代償"をシハラウシカナイ。

ボクへ最後のツウコク。

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「伊織! 見て,購買のメロンパン! 限定クリーム入りだって」

「よかったね。ヒメ……甘いもの好きなの?」



朝から他クラスにも関わらず,遠慮なく元気なヒメをみて,自然に笑顔がこぼれる。

こんなこと,いつぶりだろう。

僕は当然見せつけられたメロンパンに目を移した。



「チョコクリーム?」

「そう! しかも生クリームも! 板チョコも割って入ってるみたい」

「豪華だね」

「うん。だから,ユリユリ,お昼に伊織と食べようと思って」

「僕,お弁当なんだけど……」

「だから,ちょっと分けて。シェアしようよ」


ぴょんと僕の机に手をついて飛び跳ねるヒメを宥めて,僕はいいよと頷く。

ふいに,ヒメが小さくせき込む。

ごまかす様に僕から視線を逸らしたのをみて,僕は素早くヒメを捕まえた。



「ヒメ……もしかして風邪ひいたの? この間の僕のせい?」

「ち,違うよ。ユリユリ別に」

「言い訳しない。……ごめんね,やっぱり無茶だったね。ありがとう」


言いながら,そっとカバンにあった予備のマスクを耳にかけてあげる。

びっくりと目を丸くしているヒメをみて,お揃いみたいになったななんて考える。

ぼぅっとしばらく見つめて,いつもより更に外野がうるさいことに気が付いた。



「おいだれか聞けよ」

「伊織? ヒメぇ?! 百合川さん,あんなに名前で呼ばれるの嫌がってたのに」

「おいおいおい,百合川さんが風邪ひいたのって」



ヒメも気が付いたようで,きょとんと周りを見る。

お互い気づかないでいるなんて,これじゃあほんとにバカップルみたいじゃないかと僕は苦笑した。


「?」


ふと,ヒメは首をかしげて何かを考えると,僕にだけ見せる悪い顔でにひるに笑った。



「やっぱり,ユリユリが風邪ひいたの伊織のせいかも」



いたずらな声に首をかしげると,僕を固定したヒメが子供のようにじゃれついて,周りに見えないように首筋に唇を寄せる。

少しかわいい音を残して離れていくと,そこにはうっすらと赤い花が咲いた。

僕はびっくりと目を丸くするしかない。

その光景にざわめきが大きくなる。



「またお家に呼んでね」

「「「う,うわぁぁぁぁあ」」」



男どもを中心に,耳をふさいでかけていく。

してやったりな顔をしているヒメの頭を引き寄せて,僕は優しくぽんぽんと撫でた。




「イケメンすぎない?」



やるにしても普通は逆だろうと笑う。

でも




「やりすぎ」



軽く窘めるように告げるも



「ふふん~」



ちっとも反省していない様子に,僕はまた苦笑を零した。

さらさらふわふわしたヒメの髪の毛が僕の顔にかかる。

僕はヒメの身体を抱きしめて,目を閉じた。

噂は尾ひれをつけては,僕の想定の何倍も速く回ったようで。

約束のお昼は少し居心地が悪かったくらいだ。

けれども,そんなものも数日すればすぐ慣れた。

もともとヒメは好かれやすく目立つから,僕らの日常はあまり大差ない。

ヒメがいつも笑顔でいてくれるから,僕は何も考えずにいられる。

ただ相槌を打って,微笑んで,たまに僕からも話題をふって。

そんな日常が当たり前になって。

誰も,僕らの間には入れなくて。



「伊織! 3位だった! ありがとう~! 伊織は1位? そりゃ5位を3位にするくらいだから,当然だよね」



なぜか僕の分まで嬉しそう。

中間テストの成績が返却され,僕は約束通りのものをヒメに与えられてほっとする。

ヒメが僕の分を喜んで,僕がヒメの分をめでたいと思う。

その空間の空気が嬉しくて,僕はほんわりと微笑んだ。



「伊織」

「リュー……」



僕の表情がぴしりと迷子になる。

ヒメはすぐに察して,僕の袖を掴んだ。



「話そう」



僕は顔を伏せて,諦めるように眉を寄せる。

ヒメはそんな僕を心配するように呼んだ。




「伊織……」

「いや,うん……いい。リュー……分かった」



結局,僕の小さな抵抗はツナギでしかない。

いつかくる,こういう場面への,先延ばしでしかない。

移動しながら,僕はリューの話を聞くのか怖かった。

彼はきっと,僕の全部を否定するだろう。

真っ直ぐで,とてもいいやつだから。

今はその正しさが怖い。



「伊織は間違ってる」




人気のない教室に着いてすぐ。

前置きなくぴしゃりと言われ,全身の血流が凍りついた。

何か言わなくちゃと思いながらも,僕は冷たく強張った表情で,唇に少し力を加えることしかできない。



「リュー,そんな言い方じゃ伊織も納得しない」



カララと第三者が入室してくる。

その人物に僕は驚いて目を丸くした。



「和寧……いつから」



そんな僕の言葉が聞こえているのかいないのか,和寧は僕を無視するようにリューを見る。

彼も,僕に怒っているのかもしれない。

当然だ。



「ごめんね,リュー。たまたま入っていくのが見えたけん,つい。僕も話していいかな。いい加減腸が煮えくり返りそうなんよ」

「別に」



和寧が僕を見た。

悲しみと怒りともどかしさを乗せた,リューの何倍も強く光る僕を射抜くような目。

プレッシャーに,息が詰まる。

僕はそっと,胸元で拳を握った。

そして,そんなつもりも無いのに,無意識にキッと睨みつけるように上目で対応する。

和寧はそれでも,僕から目をそらさなかった。



「ほんとにこれでいいの」

「良くないはずないだろ」

「あの子が君に本気でも?」



僕は大きく息を吸って,小さく吐いて,真っすぐに見返した。

それについて,答えは出ている。



「僕は誰とも恋しない。引き際はちゃんと見極めるよ」



君も,同じだったんだろ。

それについて,たとえどんなに後悔していたとしても僕を責める権利なんてない。



「敦の事は?」

「敦は僕のために不幸の表面を知った。もう戻れない。だから今度は,また僕の我儘のために,一番幸せの近道になる方行ってもらう。そこに僕がいないのは当然だ」

「それは違っ……」



割って入るように,リューが声を上げる。

けれど,流すまいとまんまるな瞳に溜まる僕の水に気がついて,ショックを受けたように言葉を止めた。



「僕はもう,決めたんだ。ほっといてくれ」



2人には悪いと思ってる。

僕なんかのために沢山寄り添ってくれて,今もこんなに心配してくれる。

そんな2人を僕は突き放す。

どうしてこんなやり方しかできないんだろう。

僕は瞳をこっそりと拭って,また2人をみた。

いずれにせよ,僕の意思は固い。



「百合川姫の役割は,俺じゃだめだったのか?」



僕は目をそらす。

当然だ。

僕は僕にとっての2人の価値を天秤にかけて,ヒメを選んだわけじゃない。



「当たり前だろ。君たちの友情まで,僕が壊すわけにはいかない。関わらないのが1番だ」



はっきりと告げた僕に,2人は黙った。



「……じゃあ俺とお前の……皆との友情は」



また,揺らぐ。

全部わかっていてこうしてるはずなのに,いちいち刺さってしまう。



「ひ,必要最低限のぎせ」

「待った」



はっと息を呑む。

僕は何を……

僕はもうどんな表情をしているのかも分からない顔で,僕を止めた和寧をみた。

てしてしと歩み寄ってくる和寧。

思わず怯えるように首をすくめると,和音はぺしっと僕をはたいた。



「な,なにを」



するんだとは言えない状況なのは100も承知。

僕はまだ首をすくめたまま叩かれた患部を抑えて和音をみた。

その呆れたような哀れむような顔に,僕はまた口をつむぐ。



「この頑固者め。いいよ,僕はもう何も言わない。その代わり君のその計画に,僕の提案を付け加えてほしい」

「は?」

「僕が君を想う,今よりずっと対等な関係になれる最後の提案や。断るならもう,一生僕たちの人生は交わらんのやなと思う。僕は別に,君がおらんでも開始するけどね」



続いた和音の提案に,僕とリューは息を止め。

僕はくらりとよろける。

そんな僕をリューが気にするように見るけれど,僕は自分の頭を押さえるのでせいいっぱいだった。

歓びなのか,期待なのか。

もうあんな気持ちはいっぱいなのに,それでも湧き上がる希望がある。

確かにそれは,僕ら2人でなれけばいけないだろう。

それでも打ちひしがれる日が怖くて自制心が残る。

僕は小さく



「考えさせてくれ」



と答え,話はそこで終わった。

僕は話を聞くと言って応じたはずなのに,僕からはほぼ逃げ出す形になったことを後悔した。

ー数日後,僕の返事も聞かず和音は数人に別れを告げて,地元にあるというどこかの高校へ転校してしまった。

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