唇を隠して,それでも君に恋したい。

初恋

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ボクはオトコノコ。

僕は"フツウ"にアコガレテイタ。

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「伊織ーお前今日もまだ着替えねぇ~の? それでこの前も遅刻しそうになってたろ」

「ああ,僕は。後でも充分まだ間に合うよ」



クラスメートがわさわさと上裸になっていく中で,静かに机へ腰をつける。

朝が冷えてきたこの10月に,1限目は体育だった。

正直,この時間は僕にとってあらゆる意味で居たたまれない。

僕に声をかけてきた鈴村 亮介りょうすけは面倒見が良く,頼られがちなリーダータイプのいい友達やつだけど。

何度答えても定期的に聞いてしまうおせっかいは玉に瑕。

と言うかさっさと服を着ろ。

そんな僕らの会話を聞いて,自然とこちらを見る男が2人。

ボサボサの頭をかき混ぜる稲垣いながき 竜之介と雑に着替えを済ませる峰 三太さんたが交互に口を開いた。



「スズ。教師もなんも言わねーんだからほっとけよ」

「それな。伊織のその,女よりきれーな顔の下にはデッケー刺青が彫ってあんだよ」



な! と三太に肩を組まれ,僕ははぁと眉間を押さえる。



「三太うるさい。適当なこと言うな」



見て,と僕が指を指した先にいるのは,驚いた顔をしている敦。



「俺知ってる! みたいに話すせいで敦が信じてるだろ」

「いや,まあ,ちょっとだけな。理由も聞いたことないし」

「だよな~教えろよーーー」



そう言うなり,三太は僕ににじりよる。



「三太,それ以上ふざけるなら怒るからね」



近寄るなのポーズで顔を歪めると,三太は大人しくなった。



「ちぇえ~。なんだよ服の一枚くらい。なーリュー?」

「……」

「リュー?」

「リューの言う通りだよ,三太。もう2年弱もこうしてるんだ。あんまり聞くべきじゃない」
  


ごめんな,と最初に話題をあげたスズが僕に謝る。

僕はいいんだと首を振った。



「リューは何も言ってないだろ!!」

「はいはい。僕の事はいいんだよ三太。それより僕も着替えたいから出ていって」



気付けば教室内から,僕らを気にしていた男子のクラスメートも殆んどいなくなっている。

三太の背中を無理に押して軽い口調で追い出すと,その後ろを敦たちもついていった。



「テニスか~,さみーんだよな~」

「それより俺は毎回同じことさせられんのがつらい」

「俺も敦寄り。テニスはリュー意外皆弱すぎてやりがいないんだよね」

「? そう? 三太が激弱な以外皆変わらないと思うけど」

「……まじかー」



廊下を響いて,離れていく皆の声が聞こえる。

僕はあそこには混ざれない。

時計を確認して,僕は焦りながら全ての服を落とした。

ジャージのチャックを1番上までジーと上げる。




「……これは見せられないでしょ」



誰もいない空間は,いつも僕に現実を見せつけてくるようで,嫌いだ。

そっと撫で付けて,僕は走った。




「相変わらず」

「なに」

「体力が無いな」



ぜぇはあと走り回りながら,ペアのスズに球を返す僕に。

ノールックで三太へ返すリューが言った。



「うるさい,なっ」



勢いのままラケットを振る。

すると,球は大きく旋回し,隣のコートをさらに跨いだ位置へと飛んでいった。



「あぶなっ」



危うくぶつかる寸前だった三太から悲鳴が聞こえる。



「あーー。ごめん!!」

「しかも下手くそ」

「分かってるよ!」 



これだから運動は嫌いなんだ。



「振り方が違う。ちゃんと相手を見て」



僕の下手さ加減に呆れたのか,リューが自分のラケットを置いて歩み寄ってくる。

リューの動きを目で追い待つと,リューは後ろから僕を抱き締めるように手を回した。



「持ち方もこう。最初にやっただろ」



あぁ,そうだったかも。

適当に掴むんじゃだめなんだ。

見上げると,直ぐそばに汗の流れるリューの顔。

なんか……文字通り,手取り足取りって感じ。

こんな風に出来るなんて,やっぱりリューは格好いいな。



「なーーリュー?? 何やってんだよーー! はーーやーーくーーー」



見れば,三太がぶんぶんと手を振っている。

そのままラケットを吹っ飛ばしやしないかと,僕は勝手にひや冷やしてしまった。



「リュー,三太が」



ついでにスズも。



「いいから。ほら,一回打ってみろ」

「う,うん」



言われたままに打ってみる。

今度は弱々しくも安定した軌道でスズへと届いた。



「わっ,わっ」



これ,どうしたらいい?!?

僕よりずっと軽やかに,当たり前だけど球が打ち返されて戻ってくる。

よろけながらリューへと視線で助けを求めて,僕は球を追った。



「そのまま。さっきと反対に内側から外に。真っ直ぐ」

「り!」



僕はこの打ち方がすごく苦手だ。

外側に打てば,外側に行くに決まってる。

だけど思いの外真っ直ぐ飛んでいき,僕はなんと3回もスズとラリーをを続けられた。

そう言えば三太は……

あんなに騒いでいたのにと視線を移すと,三太は隣の敦&隣のクラスの人のペアに混ぜて貰い,3人で打ち合っている。

敦が誘ったんだろうな。

スズ程面倒見が言い訳でもないけれど,他人をほっとけないやつだから。

リューもそれを分かってたのかな。




『3分休憩ーー。飛ばしたやつは球ひろっとけよー~』



いつの間に。

終わるのもあともう少しか。



「ありがと,リュー。もう大丈夫。ちょっとだけ楽しくなってきたかも」

「…おー」



ぱたぱたと,敦や三太の座る木陰へ走る。

すると他の2人もいつものように集まってきた。



「おー来た。ひどいじゃんかよーリュー。離れるなら一言くらい言えよ!」

「別に。どうせ敦が何とかしただろ」

「そうだけどよ」



口を膨らませ,思い出したかのように三太が言う。

リューは短く答え,あとは聞こえていないかのようにごくごくと水筒に口をつけた。



「ごめんね三太。リューとっちゃって。さっきはボール拾ってくれてありがとう」

「伊織はなーーー。もうちょっっと上手くなろうなー。なんなら三太様直々に」

「あ,いやそれは遠慮しとくよ。リューに教わったし」

「はぁ?!?!」



気持ちはうれしいけど,三太には聞くだけ無駄だ。

だーだのばーだのアバウトな効果音でしか教われないし,下手したらもっと下手になるのが目に見えている。



「? 伊織,腕痛いのか?」

「え。あ,いや別に」



左手を擦ったのを見つけたのか,敦は僕を見た。

実はリューに教わるより前に,自分で振ったラケットをぶつけてしまったのだ。

けれどそんなことを言えるわけもなく,僕は曖昧に返す。



「擦ってんじゃん。ほら,一応貼っとけ」

「……ありがと」



スズのポケットから出てきた絆創膏。

直ぐに気付く敦。

直ぐに物が出てくるスズ。

直ぐに手伝ってくれるリュー。

……いつも元気な……三太?

僕はこうして,いつも誰かしらに助けられながら日々を過ごしていた。



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