唇を隠して,それでも君に恋したい。

初恋

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ボクと"オナジ"にユメヲミタ。

ボクのオモイと優先順位。

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和寧がやってきて早2週間。

いつ雪が降ってもおかしくない,クリスマスが直ぐ目の前だというすごく寒いこの季節に。

僕らの教室はすっかり騒がしい場所となった。

朝から放課後まで,毎日代わる代わる色んな女の子達がやって来ては和寧の名前を呼んでいる。



「和寧~」

「ねぇ聞いてよ。こいつね,今日うちらの前でおもっくそ転んだの。しかも直前に自分で氷張ってるから気を付けろとか言っといて」

「ね! お前がなってめっちゃ笑ったよな!!」

「えもうほんとひどいの。私は心配して言ったのに,転んだ瞬間これ!!!!」



甘えるように首に巻き付くのは,他クラスの女の子。

クラスに響き渡る声での会話は,クラスメート全員の耳を通り抜けた。

和寧は相変わらず軽薄な笑みを浮かべながら話しに相づちをうち,女の子達を引き離すどころか受け入れるように腰を引いている。



「ちか。いーのか~? 私は今朝から転んで怪我してご機嫌斜めなんだぞーー? そんなことするなら,チューしちゃうぞ」



首に巻き付いていた女の子が,和寧の膝に乗るようにして上目で和寧を覗いた。

うるさいのはもうなれたから,せめて風紀くらいはどうにかして欲しいと。

僕はその繰り返された光景に目を逸らす。



「いいな~」

「……?? 和寧?」



女の子達の戸惑いの声が聞こえた。

そっと引き離されたような空気を感じる。



「キスはだめ」



その声の固さに,僕まで肩を揺らしてしまった。

きっと今振り返れば,真剣で射抜くような視線がそこにあるんだろう。



「イケナイ事がしたいなら,放課後でも冬休みでもいつでも相手になるからさ」



にこりとした微笑みの音。

僕はうげぇと耳を塞ぐ,その指の間をすり抜けるように,女の子の戸惑いと歓喜する声が届いた。



「う,ぇ。うん!! 約束だからね! 放課後呼びに来るから!!!!!」

「傷,ちゃんと手当てするんだよー」

「えー! すごいじゃん!!」

「やばぁい」




パタパタと去っていく足音。



「でもー。キス拒否られたのはしんどかったぁあ!!!」



そう言うのって,もっと本人から離れて言うもんじゃないのかな。

なんて余計な心配をしてしまう。

僕はちらりと後ろの存在を空気で窺った。

和寧のさっきの言葉はきっと冗談でもなんでもなくて,きっと"今日は"あのこのところへいくつもりなんだろう。

だけど和寧は絶対にキスだけはさせない。

他に強く断られている女の子は沢山見てきた。

どうしてなんだろうと思いつつも,わざわざ聞きたいと思うほど野暮ではない。



「あねぇそう言えば。伊織,化学の課題ちゃんとやって来た?」

「は?」



いつものちょっかいだと思った後ろからの声かけに,僕は思わず目を見開いて振り返る。



「昨日,休み時間に化学のおっさん来たんやけど,伊織いなかったような気がして」

「なっんでその時言わないんだよ!!」

「だって……ほら」



頬杖をついたまま,からかうような表情を浮かべた和寧はワークを取り出す。



「56~62。1限目だけど,欲しい?」



最悪だ,こいつ。

僕にこれを言うためだけに,気付いていながら黙ってたのか。

きっと大した問題数じゃないけど,バカ真面目にやってあと10分なんかで終わるはずもない。

頭の固い化学の教科担当は,回答用紙も学期の最初に回収しているし,教えて貰えなかったなんて言っても納得はしないだろう。



「うるさいな。和寧のせいなんだから黙ってちょうだい。それで今回のことは許してあげるから」

「仕方ないなぁ,はいどーぞ」

「本当に全部あってるの? 適当にやったんじゃないよね,僕が間違えたと思われるからちゃんとしてないとやっぱり許さないから」

「いらないならいーんだよ? 伊織クン」



うるさいな,と。

また僕はカリカリしながらワークの()を埋めていった。

口を動かす暇なんてない。

写すところを見られるのも印象が悪いから,さらに時間が短くなる。

手を動かさないと。

僕たちの関係は,時間が流れてもあまり変わらなかった。

無事にワーク提出が間に合っても,僕はぐちぐちと和寧に文句を言う。

和寧はそれを,へらへらと,それどころか楽しそうに受け流していた。

本当にいい性格をしている。



「だいたいなんで僕ばっか……」

「伊織?」

「別に。待って……いや待たなくていいから。勝手に次の教室にでもいきなよ」

「何そのこじれたツンデレみたいな……ってどこいくん」



次の授業への移動をしながら,僕がわざわざパタパタと駆けてまで寄る相手は敦くらいしかいない。

僕は和寧の言葉を無視して,その背中へと手を当てた。



「敦,体調悪いの? 寒暖差激しかったからかな,顔色悪い」



横顔が見えて気付いただけだったけど,覗き込むとそれはさらにはっきりと分かる。

隣にいたスズは俺の言葉を聞いて驚くように同じ体勢で敦を覗いた。



「……そんなに悪そうか?」

「うん。休んだ方がいいんじゃない」

「ん……じゃあ次ちょっと抜けるわ。頼んでもいいか?」

「もちろん。ちゃんと仮病じゃないって言っておくよ」



言いながら,僕は勝手に敦の教材を受け取る。

さっさと行け,これは返さないと抱き締めれば,敦はまた1つ頷いた。



「すごいな。いっつも最初に気付くもんな伊織は」

「まあね」



敦ばっかり,見てるから。



「俺より先に気付くこともあるし,助かる。荷物もありがとな」

「別に,これくらい」

「その伊織が言うんだから,敦も早く行け,な?」




スズにせかされて,敦は苦笑してから僕たちと別れた。

最後に1つ,お礼のように僕の頭へと大きな手のひらを置いて。

唇を引き絞った今の顔を,スズに見られたらバレてしまう。

このときめいてどうしよもない,下心だらけの心に気付かれてしまう。

それは,とても困る。



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