唇を隠して,それでも君に恋したい。

初恋

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ボクと"オナジ"にユメヲミタ。

ボクとナイショのキョウユウ。

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「それで,伊織は……いつまで我慢できんの?」



置いてきたはずの和寧の声。

僕はその言葉にはっとして,後ろを振り返った。

すごく近い位置に和寧の顔を見つけて,眉を寄せた僕がその顔を引き離す。

それでって,なんの接続……?



「我慢って何? 別に僕,我慢してることなんてないんだけど」



意味が分からないと首をかしげて,僕は和寧の顔面をつかんでいた右手を離した。

我慢,我慢?

僕は和寧の言葉に振り返った一瞬の,傷ついているような,切ないような顔を思い出して。

そのせいで一日中,その意味不明な言葉の意味を考える羽目になってしまった。

敦が3限に戻ってこれても,昼ごはんを食べていても,また教室が騒がしくなっても。

放課後になるまでずっと,和寧の顔と言葉が頭から離れなかった。

そして,何で僕がとだんだんとむかむかしてきた頃。

突然1つの理由にたどり着いて,さぁっと血の気が引いていく。

ーキーンコーンカーンコーン



「ではまた明日ー。早く帰れよー」



あいつ,もしかして……

敦への気持ちに気付いて……る?

いや,でも。

そんなわけはないと思いながら,僕は和寧を振り返った。

そうだ,そんなわけない。

仮に気付いたとして,和寧があんな表情を浮かべる理由はないし。

僕の気のせいだ。

いやでもまさか,和寧が同性の人に……



「和~。今日空いてるー?」



扉から顔を出すのは,また見たことのない人。

年下だろうか。



「今日はだめ。約束があるから」



約束と言うのは多分,今朝の人とのことだろう。

その会話を聞いていると,何だか全部馬鹿らしくなってくる。



「えーじゃあそれまでお話ししよー」

「んーいいよ。5分だけね。相手の子来ちゃうから」

「和はいっつも慣れたみたいに遊んでるけど好きな人とかいないの~」



僕は,和寧が直ぐにいないと答えると思っていた。

だけど和寧は確かに躊躇なく答えたけれど,それは少し僕の思っているものとは違う。



「いるよ」

「いるの?!?」

「いるけど。前の学校に置いてきたんだ」



僕も驚いたけど,その軽い口調で語られた話を聞いて,なんだ冗談かと息を吐いた。

置いてきた,なんて,少し具体的すぎやしないかと思う。

まるで自分にも相手にも気持ちがあるような,ただ離れてきたのとも別れてきたのとも違うような。

声色に対して,少し切なすぎる響きだと思った。



「ほら,もういいでしょ。離れて」

「えーーっ。まだ2分も経ってないのに」



そうだった。

もう放課後だ。

僕も帰ろう。

そう立ち上がりかけて。

僕はどんくさくも,自分のバックに足を引っ掻けて躓いた。

しかもバックのせいで踏みとどまれるような面積もなく,そのままついに倒れそうになる。

けれど,その僕の身体を強く後ろから支えた存在がいた。

お腹に回った腕が,少し苦しい。

仕方なく,洗濯されたタオルみたいにぐでんとなった僕はほっと目蓋を下ろす。



「ごめん。ありがとう和寧」



もっと,腹筋鍛えなきゃな。

これくらいで転ぶようじゃ全然だめだ。

またこうして他人に迷惑をかけてしまう。

よいしょと体勢を立て直して和寧を見ると,驚いたような顔の額にはうっすらと汗が流れていた。

悪いやつじゃ,無いんだよな。

僕はお腹から離れない腕をとんとんとつついて,もう大丈夫だと伝える。



「伊織」



初めて聞く,今までで1番真剣な声。



「僕,ほんまに伊織ともっと話したいことがあるんや。それだけやない,試したいこともある。今日,空いてない?」



和寧は似合わない真面目な表情で口説くようなことを言って,僕の腰を抱いたまま離さない。



「話って……僕には……それに,約束があるんじゃないの」



困った僕は一旦離して貰おうと腕をぐいぐいと押した。



「明日埋め合わせれば大丈夫だよ,多分」



それに,と和寧は長い睫を伏せる。



「本当はもっと仲良くなってからと思ってたけど,伊織警戒心強過ぎだから。もういいかなって」



和寧がまだそこにいた後輩の女の子に目を向けると,雰囲気を察したその子は去っていった。

その瞳が僕をとらえる。



「僕は君に,伊織に会うために転校してきたんだ。少しでいい,僕に付き合ってくれんかな」



僕は戸惑って,思わず言われたことを頭で反芻した。

僕に会うためにって……

僕には特別な才能があるわけでも,スポーツや文化系の部活に入ったり,成績を残したりしてるわけじゃない。

にもかかわらず,僕を名指しする。

僕が他人と異なるところと言えば。

S·Pとして生まれてきたと言うこと,くらい。

僕は睨み付けるように和寧を見て,話が何であっても構わないと1度瞬きをした。



「少しだけなら」



良かったと和寧が笑みをこぼす。

僕は和寧に連れられて,どこかへと移動した。

その間も僕の頭が静かになることはない。

僕たちS·Pは,S·Pと言えど個人情報はきちんと守られている。

個人名まで知れるとしたら,それは僕らを管理する人間のみ。

こんな一高校生男子なんかに,居場所までバレるはずもない。

だけどこれまで和寧の数々の行動を見ていた僕は,和寧が目的とする場所につく前には直感的に確信していた。

僕がS·Pであることを,和寧はきっと転校前から知っていたんだと。



「って。体育館?」

「そ。倉庫にでも入って貰おうかと思って」

「そりゃ壁も厚いし誰も来ないとは思うけど。開かないでしょ,それに部活だって」

「今日はバレー部もバスケ部もバド部もお休みでーす。それに,ほらな?」



開かないと思った分厚い扉。

それは意図も簡単にがらがらと開いた。



「あぁでもまだ大声出さんとってな。体育職員室には2人くらいおるけん。バレたらめんどい。この扉,この前男子が二人突っ込んで鍵壊れとんよ。だから一時的に入れるだけ」



部活のスケジュールにこんなことまで……

よく知ってるなと尊敬を通り越して呆れてくる。



「ほら,入って。そんな身構えんくってもいいんよ,ほんとに,話してみたかっただけなんやから」



がらがらと再び扉が閉じる瞬間。



「同じ,S·Pとして生まれた,2年の男子高校生として」



和寧は僕に聞くより先に,自分の正体を明かした。


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