唇を隠して,それでも君に恋したい。

初恋

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ボクと"オナジ"にユメヲミタ。

ボクと2人,溶け合うキモチ。

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「ど,うして」



僕は自分が思っていたよりも衝撃を感じて,乾く喉からありきたりな言葉を吐く。

和寧は困ったように,柔らかく目元を歪めた。



「僕はさ,実はお偉いさんの一人息子でさ。だから伊織のことも知れたんだけど。伊織よりずっと,楽に生きてきたんだと思う」



僕より……同じ,S·Pとして。



「でも,それじゃあ足りなくなったんだ。ずっと心の何処かで,僕と同じ世代のS·Pに会いたいと思ってた。そして叶うのに叶わない恋をして,君を知って,僕はここまで逃げてきたんだ」



じわりと胸の内に溶け込むように,僕の瞳には雫が浮かぶ。

そして,音もなく,つ……と頬へ溢れた。

僕も,同じだ。

ずっとずっと,逢いたいと思ってた。

埋められない穴を埋められるのは,きっと……

そう思ってきた。

S·Pに耐性を持つ人リューでも,片思いの相手でも,P·B一般人でもなくて。

僕と"同じ",S·Pとして生まれたその人に,出逢いたいと思ってた。

言葉にならない嗚咽が,ポタポタと大粒の涙が。

空気に落ちるのを,和寧はどこか嬉しそうに見ていた。



「僕たち,頑張ったよな伊織。僕の恋も,お前の恋も……なんも悪くないよ。受け入れて,"普通"に溶け込んで,隠して,怯えながら日常を手にいれて。凄いよな。僕たちは間違ってない……そうだろ?」



いつの間にか声を揺らす和寧は,目頭に溢れそうな涙を引っかけている。

僕は耐えきれず,その頭を抱き締めた。

受け入れているだけで,納得している訳じゃない。

ここまでの人生も,理解されない上に明かしてはいけない身の上も,これから先の決められた人生も。

僕はリューに会えた。

いつの間にかサポートされて,想って貰えていた。

だけど和寧はそうじゃなかった。

僕も和寧も,渇きのおさまらない孤独を抱えていた。

そしてようやく僕たちはこうして,求め合った結果に出逢うことが出来た。



「なぁ,僕はな,ずっと知りたかってん。僕たちは,S·P……つまりP·Bにとっては,毒なんやろ?」



胸の奥が,軋む。

僕の唇を見つめる和寧の切ない顔を見て,僕はマスク越しに自分の唇に触れた。

どんと響く。

ドクンと高鳴る。

好奇心か,高揚か,不安か。 

僕にすら判別のつかない初めての音が,初恋を掠めるような音が。

内側から強く主張していた。



「なら……僕と伊織となら。この毒は……どうなるんやろなぁ?」



唇に振れていた右手を,食事以外では外で決して外すことのない布にかける。

和寧は,まだ自分の頭にある僕の左手首をそっと掴んだ。

見つめあって,僕はとうとう左手を和寧の肩に置いた。



「和……」



僕の唇が,僕を待つ目の前の男の名を紡ぐ。

その瞬間,和寧ははっとしたように僕の左手に力を込めた。



「待って。今なにか」



後ろ目に言いかけた和寧。

今度は僕の耳にもはっきりと,さかりとした音が聞こえる。



「え」

「誰か近くに来る……?」



何となく緊張して,僕たちは2人して息を止めた。

その静寂を打ち破るように,聞き慣れた男の声がする。



『……伊織? 誰かとそこにいるのか?』



ビクリと肩が跳ねた。



「あ,敦?!?」



思わず声がひっくり返る。

己が今和寧にしようとしてことを考えると,和寧から飛び退いてしまう勢いだった。

どうして敦が体育館裏になんて……

僕は頭上に小窓を見つけて,涙を拭いながらそばのマットによじ登って外を覗く。



「何してんの? 敦」

「え,あーー。俺は」



ちらりと,敦がとっさに隠そうとした物が見えた。

今どき古風な……

きっと真面目な子なんだろう。



「なんだ,告白か」

「まぁ,そんなとこ」
 
「伊織は?」

「んー? ううん。もう出るよ。敦がまだってことは,皆も教室にいるんだろ? 僕も帰るよ,一緒に戻ろう」



実際,僕の心は揺れていた。

どんな子が,何て言って敦に想いを伝えたんだろう。

あの手紙には,なんて書いてあるんだろう。

敦はなんて答えたんだろう。

だけどそれはどれも僕に関係がないから。

ここに残る敦が答えだと信じて。

出来れば,相手の子の想いが報われないといいなんて。

せめて学校外で恋愛してほしいと思うなんて。

そんな僕をどうか許してほしい。

心に秘めているくらいは……


「待ってて,すぐ行くから」

「ああ。玄関で待ってる」



君のもとに,素直に飛び込める時間は長い方がいいから。



「あらら。全部顔に出しちゃって」

「なに」



振り返って,和寧をむすっと見た。

今までの不機嫌と違って,照れ隠しみたいなものだ。

分かってる,隠しているくせに,好意が全て態度に少し出てしまっているのも。

でもいいんだ。

僕にとって敦が特別なのは,どうしよもない事実だから。

近付けるときに近付くのは,当たり前でしょ。



「早く行きなよ。こんな密室でわざわざ二人きりなんて,誤解されたくないやろ?」

「うん。ごめん。話はまた今度にしてくれると助かる」

「そうやな。まだ時間はたっぷりある。今日はただ,僕も伊織と同じS·Pなんだって知ってほしかっただけやから」

「うん」



僕は知れて良かったと思うよ。

僕とはやっぱり正反対だけど,君の見方が少しだけ変わったから。



「伊織は……いつまでなら耐えられる?」

「?」



引き留めるような言葉に振り返ると,そこには悔しげで切ない表情があった。














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