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ロカール日常シリーズ ▶️50話
【王都への旅路】#1 いざ、王都へ。徒歩で。
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「えーっと、じゃあ、あの、…行ってきます。」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けて。道中、怪我なんてしないようにね?…それと、必ず帰ってくること。…君達の『ただいま』を楽しみにしています。」
「あー、はい。…はい。」
王都へ旅立つ日、出発の挨拶に訪れたギルドで、兄がいつもの兄じゃなかった。
(…普通に、挨拶してる。)
それほど、よっぽど、先日のイグナーツさんとのサシ飲みが堪えているのか。いつものウザ名乗りもせずに、普通に見送られてギルドを後にした。
「…兄さん、大丈夫?」
「え?何が?」
「…」
自覚も無いくらいの重症。そっとしておくことを決めた。
街を出て、街道を歩き出したところで、エルが大きく伸びをする。
「うーん☆王都かー、遠いねー?」
「…ですね。」
「誰かさんのせいで、乗り合い馬車にも乗れず、歩きだし?」
揶揄する言葉は、ルキに向けられたもの。
「…乗れなくはねぇよ?馬じゃなくて、馬車ならまだ…」
「アハハ!乗れるけど、馬がご機嫌斜めで大幅な遅延が発生するだけだよね?他のお客さんに超めいわくー☆」
「うっせー…」
「…エル。」
「だって!人馴れしてるはずの馬車馬にまで嫌がられるとかさ!ルキってば、どんだけなのって思うじゃない?」
「…ルキが、それだけ優秀だということです。」
「…乗り合いじゃなく、馬車買うか、借りるかすりゃあ、何とか…」
「ルキ、ルキが気にする必要は無いです。…私は、皆で歩き旅もいいと思います。」
「…そっか。」
「はい。」
ルキに頷いて、人を揶揄ってばかりのエルを睨んでおく。
「あ!はいはい!じゃあさ!俺の速度強化で王都まで全力疾走ってのは、」
「却下!」
「却下だな。」
「…嫌。」
「えーっ!?」
兄が「本気であり」だと思っていそうな提案は、三人で「なし」だと一蹴した。
(…王都まで、歩いて一週間。)
これだけ長い間、ルキと一緒に過ごすのは初めて。旅の目的がお仕事、S級試験を受けることなのだから、そんなこと、考えることも不謹慎だと分かっていても─
(…修学旅行、みたい。)
好きな人と一緒の旅路、浮かれるなという方が無理だと思う。
「はい、行ってらっしゃい。気を付けて。道中、怪我なんてしないようにね?…それと、必ず帰ってくること。…君達の『ただいま』を楽しみにしています。」
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「え?何が?」
「…」
自覚も無いくらいの重症。そっとしておくことを決めた。
街を出て、街道を歩き出したところで、エルが大きく伸びをする。
「うーん☆王都かー、遠いねー?」
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揶揄する言葉は、ルキに向けられたもの。
「…乗れなくはねぇよ?馬じゃなくて、馬車ならまだ…」
「アハハ!乗れるけど、馬がご機嫌斜めで大幅な遅延が発生するだけだよね?他のお客さんに超めいわくー☆」
「うっせー…」
「…エル。」
「だって!人馴れしてるはずの馬車馬にまで嫌がられるとかさ!ルキってば、どんだけなのって思うじゃない?」
「…ルキが、それだけ優秀だということです。」
「…乗り合いじゃなく、馬車買うか、借りるかすりゃあ、何とか…」
「ルキ、ルキが気にする必要は無いです。…私は、皆で歩き旅もいいと思います。」
「…そっか。」
「はい。」
ルキに頷いて、人を揶揄ってばかりのエルを睨んでおく。
「あ!はいはい!じゃあさ!俺の速度強化で王都まで全力疾走ってのは、」
「却下!」
「却下だな。」
「…嫌。」
「えーっ!?」
兄が「本気であり」だと思っていそうな提案は、三人で「なし」だと一蹴した。
(…王都まで、歩いて一週間。)
これだけ長い間、ルキと一緒に過ごすのは初めて。旅の目的がお仕事、S級試験を受けることなのだから、そんなこと、考えることも不謹慎だと分かっていても─
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