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第二章 あ、忘れてた
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8.
「…明莉には、友達がいないの?」
「え?いるよ?チサは友達でしょう?」
高校最後の登校日、後はもう卒業式まで通ることもない学校からの帰り道。道路のど真ん中で、チサと並んで佇んでいる。
「…私以外で」
「いるよー、もちろん」
障害物のせいで塞がれた進行方向。さっさと家に帰りたいのに足止めされているチサの機嫌は、下降気味だ。
仕方がない、腹をくくろう。
まだ少し距離のある障害物の方へ手をかざし、紹介する。
「あそこで、来叶の右腕つかんで『この泥棒猫!』って叫んでる子が幼稚園からの友達で、左腕にすがって『好きになっちゃったものはしょうがないじゃない!』って泣いてるのが、高校からの友達だよ?」
「…」
「美歌の方は、知っているよね?」という私の言葉には、凍えるような視線が返ってきた。
「まともな、友達はいないの?」
「あははー」
公道のど真ん中。通りすがりの方々が、何事かと振り返りながら彼らを大きく避けて行く。通行の妨げになっている集団から目をそらし、チサに向き直って提案する。
「だいぶ遠回りだけど、迂回する?今ならまだ、」
「明莉!!」
「あ、見つかった」
「…」
チサの無言の抗議に愛想笑いしながら、渋々、声のした方を振り向く。そこには三者三様の視線が。
「明莉!!あんた、何でこの女のこと黙ってたわけ!?来叶にまとわりついてる女が居るって、何で言わなかったの!?」
来叶の腕をがっちり掴んだまま怒りの視線を向けてくるのは、幼稚園からの友人、『高本 結莉愛』。
中学校まではずっと一緒だった、私と来叶と結莉愛の仲良し?三人組。私も結莉愛も、それこそ幼稚園の頃から来叶のことが大好きで、どれだけ邪険にされても、彼の側に居ようと必死だった。
だから、高校進学で結莉愛だけ違う進路になった時、彼女は荒れに荒れた。そんなこともあって、高校に入ってからはあまり連絡を取り合うこともなくなっていたのだけど。
「久しぶりー、結莉愛。元気そう、」
「あんた!私が来叶と付き合ってんのが、そんなに妬ましかったの!?」
「ワッツ?」
今、非常に聞きたくなかった、面倒な情報を耳にしてしまった気がする。思わず、来叶に視線を向ける。
彼が浮かべているのは、心底めんどくさそうな表情だけで、そこにあせりや申し訳なさのようなものは見えない。目が合っても、嫌な顔をされて直ぐにそらされてしまった。
「え?結莉愛、来叶と付き合ってるの?」
「そうよ!高校入ってから、ずっとね!」
鼻息荒く、フフンと得意気な顔を浮かべる結莉愛が嘘をついているようにも見えない。
「来叶があんたのこと嫌ってるから、あんたには黙ってたし、連絡もしなかったけど」
結莉愛の視線が、再び、来叶を挟んで反対側にいる美歌に向けられる。
「こんな女がいるなら、あんたの方から私に連絡してきなさいよ!」
「おー、清々しいまでの理不尽」
二人が付き合っているということさえ知らなかったのだから、私がどうこう言えることでも無いのだが。
「…明莉ちゃん」
そして、美歌からは悲しげな視線が送られてくる。これは、私に味方になれと言っているのだろうか?そもそも、美歌は、来叶と結莉愛が付き合っていることを知っていたのだろうか―?
一瞬、悩んだけれど―
「よし、わかった。これは、どう考えても私には無関係な話!」
「え?」
美歌の口から戸惑ったような声がもれる。
「チサ、お待たせ、ごめんね?帰ろう」
「…」
「ちょっと!待ちなさいよ!」
結莉愛が引き留めようとするが、動かない来叶から手を離せない彼女が、こちらに近づいてくることはない。
「そんな、明莉ちゃん…」
美歌も、何か言いたいことがあるようだけれど、考えてみれば、私達は絶縁中の友達。
他の皆さんを見習って、完全な第三者として彼らを大きく避けて進んだ。背後で響き渡る喧騒が次第に遠ざかり、いつもと変わらない下校タイムに戻っていく。
通い慣れた道を寒さに縮こまりながら歩いていると、言葉がこぼれた。
「…もう来週かぁ、卒業式」
「寂しい?」
「いや、何か三年間のインターバルがあるせいか、やっと卒業出来る!って気持ちの方が強いかなあ?」
それでも、二人並んで歩きながら、帰ってきてからの半年を振り返れば、それなりに感慨深いものもあって、
「…合格、おめでとう」
「わ!何?突然だね?」
「直接、言ってなかったから」
「あー」
大学の合格発表。ネットで確認したそこには、確かに自分の受験番号が載っていて。親よりも先に、チサにメールで結果を伝えた。返ってきた『おめでとう』の返信も充分嬉しかったけれど。
「ありがとう!受かったのは、本当にチサのおかげ」
「私は手伝っただけ、努力したのは明莉」
「…」
当然のように、自分の努力を認めてくれる。そんな友人がいてくれること、チサに出会えたことを、とても幸運だと思う。
「チサ、大学でも、よろしくね?」
「…こっちも、よろしく」
付き合いよく、私と同じ進学先に進むことを決めたチサ。返ってきた小さな声に、自然と笑いが溢れた。
「…明莉には、友達がいないの?」
「え?いるよ?チサは友達でしょう?」
高校最後の登校日、後はもう卒業式まで通ることもない学校からの帰り道。道路のど真ん中で、チサと並んで佇んでいる。
「…私以外で」
「いるよー、もちろん」
障害物のせいで塞がれた進行方向。さっさと家に帰りたいのに足止めされているチサの機嫌は、下降気味だ。
仕方がない、腹をくくろう。
まだ少し距離のある障害物の方へ手をかざし、紹介する。
「あそこで、来叶の右腕つかんで『この泥棒猫!』って叫んでる子が幼稚園からの友達で、左腕にすがって『好きになっちゃったものはしょうがないじゃない!』って泣いてるのが、高校からの友達だよ?」
「…」
「美歌の方は、知っているよね?」という私の言葉には、凍えるような視線が返ってきた。
「まともな、友達はいないの?」
「あははー」
公道のど真ん中。通りすがりの方々が、何事かと振り返りながら彼らを大きく避けて行く。通行の妨げになっている集団から目をそらし、チサに向き直って提案する。
「だいぶ遠回りだけど、迂回する?今ならまだ、」
「明莉!!」
「あ、見つかった」
「…」
チサの無言の抗議に愛想笑いしながら、渋々、声のした方を振り向く。そこには三者三様の視線が。
「明莉!!あんた、何でこの女のこと黙ってたわけ!?来叶にまとわりついてる女が居るって、何で言わなかったの!?」
来叶の腕をがっちり掴んだまま怒りの視線を向けてくるのは、幼稚園からの友人、『高本 結莉愛』。
中学校まではずっと一緒だった、私と来叶と結莉愛の仲良し?三人組。私も結莉愛も、それこそ幼稚園の頃から来叶のことが大好きで、どれだけ邪険にされても、彼の側に居ようと必死だった。
だから、高校進学で結莉愛だけ違う進路になった時、彼女は荒れに荒れた。そんなこともあって、高校に入ってからはあまり連絡を取り合うこともなくなっていたのだけど。
「久しぶりー、結莉愛。元気そう、」
「あんた!私が来叶と付き合ってんのが、そんなに妬ましかったの!?」
「ワッツ?」
今、非常に聞きたくなかった、面倒な情報を耳にしてしまった気がする。思わず、来叶に視線を向ける。
彼が浮かべているのは、心底めんどくさそうな表情だけで、そこにあせりや申し訳なさのようなものは見えない。目が合っても、嫌な顔をされて直ぐにそらされてしまった。
「え?結莉愛、来叶と付き合ってるの?」
「そうよ!高校入ってから、ずっとね!」
鼻息荒く、フフンと得意気な顔を浮かべる結莉愛が嘘をついているようにも見えない。
「来叶があんたのこと嫌ってるから、あんたには黙ってたし、連絡もしなかったけど」
結莉愛の視線が、再び、来叶を挟んで反対側にいる美歌に向けられる。
「こんな女がいるなら、あんたの方から私に連絡してきなさいよ!」
「おー、清々しいまでの理不尽」
二人が付き合っているということさえ知らなかったのだから、私がどうこう言えることでも無いのだが。
「…明莉ちゃん」
そして、美歌からは悲しげな視線が送られてくる。これは、私に味方になれと言っているのだろうか?そもそも、美歌は、来叶と結莉愛が付き合っていることを知っていたのだろうか―?
一瞬、悩んだけれど―
「よし、わかった。これは、どう考えても私には無関係な話!」
「え?」
美歌の口から戸惑ったような声がもれる。
「チサ、お待たせ、ごめんね?帰ろう」
「…」
「ちょっと!待ちなさいよ!」
結莉愛が引き留めようとするが、動かない来叶から手を離せない彼女が、こちらに近づいてくることはない。
「そんな、明莉ちゃん…」
美歌も、何か言いたいことがあるようだけれど、考えてみれば、私達は絶縁中の友達。
他の皆さんを見習って、完全な第三者として彼らを大きく避けて進んだ。背後で響き渡る喧騒が次第に遠ざかり、いつもと変わらない下校タイムに戻っていく。
通い慣れた道を寒さに縮こまりながら歩いていると、言葉がこぼれた。
「…もう来週かぁ、卒業式」
「寂しい?」
「いや、何か三年間のインターバルがあるせいか、やっと卒業出来る!って気持ちの方が強いかなあ?」
それでも、二人並んで歩きながら、帰ってきてからの半年を振り返れば、それなりに感慨深いものもあって、
「…合格、おめでとう」
「わ!何?突然だね?」
「直接、言ってなかったから」
「あー」
大学の合格発表。ネットで確認したそこには、確かに自分の受験番号が載っていて。親よりも先に、チサにメールで結果を伝えた。返ってきた『おめでとう』の返信も充分嬉しかったけれど。
「ありがとう!受かったのは、本当にチサのおかげ」
「私は手伝っただけ、努力したのは明莉」
「…」
当然のように、自分の努力を認めてくれる。そんな友人がいてくれること、チサに出会えたことを、とても幸運だと思う。
「チサ、大学でも、よろしくね?」
「…こっちも、よろしく」
付き合いよく、私と同じ進学先に進むことを決めたチサ。返ってきた小さな声に、自然と笑いが溢れた。
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