上 下
12 / 65
第二章 あ、忘れてた

7.

しおりを挟む
7.

―またね?アカリちゃん

お兄さん、花守はなもりさんは、そう言っていたけれど。結局、あの後彼とは一度も会っていない。チサが嫌がる気がして、緑地公園に近づくのを避けているからかもしれないけれど。

そして、気づけば季節は冬、大学受験がもう目の前に迫っている。最後の追い込みは、やっぱりチサ先生の力に頼って、ひこきもり勉強生活を送っている。

「…明莉あかり、手が止まってる。どこがわからない?」

「あ、ごめん。大丈夫、わかる。さっきやったのと同じパターンだよね?」

言われて、意識を目の前の参考書に戻した。

「…明莉、最近、ぼうっとしてることが増えてる。あの男のせい?」

「…」

返事に戸惑い、手が止まる。チサの『あの男』とは、どっちのことだろうか?

たまに罵倒してくる以外は、話しかけてもガン無視の来叶らいとのことか。それとも、勘の鋭いチサのこと、今まさに考えていた花守さんのことを言っているのかも。

下手な反応は出来ずに、愛想笑いで返してみる。

「…『新しい恋でも始めてみる』の?」

「…何のことでしょう?」

「明莉は『花守秀一』が気になってる?」

「ぐっ」

ど直球の問いかけに、思わず詰まった。真剣に見つめられて、何と答えたものか、自分自身、よくわかっていない気持ちを何とか言葉にする。

「えーっと、気になるって言うか何て言うか。ただ、『アカリちゃん』って呼ばれたの、久しぶりだなーって思って」

それが、何だか、女の子扱いみたいで嬉しかったのだ。

「…チョロい女」

「いやいや!別に、それで惚れたとかそう言うんじゃなくて、本当、ちょっと嬉しかっただけで」

ため息混じりのチサの言葉を必死に否定する。

「別に明莉が好きならそれでいいと思う。だけど、あの男は何か変。気を付けて欲しい」

「変?変だったかな?なんか、大人の余裕?的な落ち着きっぷりはあったよね?。いいよねー、優しそうで、頼りがいがある感じ」

特に、私の恐れおののくチサの怒りの波動に動じない辺りなど。

「…大学生だって名乗ってた」

「うん、そう言ってたね?」

「…。明莉と同い年、年下の可能性もある」

「!?」

チサの温い視線が言っている。

明莉あなたの『大人の余裕』は何処に?

「…とりあえず、勉強します。頑張ります」

「頑張れ」

完全に止まっていた手を再び動かす。『大人の余裕』の獲得方法は不明だけれど、今すべきなのは、受験勉強。セーラー服生活との決別のためにも、今は目標に向かって進むのみ。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,442pt お気に入り:139

冤罪で追放した男の末路

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:38

人質王女の恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:3,320

完結 婚約破棄をしたいのなら喜んで!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:402

私の好きな人には、他にお似合いの人がいる。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:397pt お気に入り:320

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,219pt お気に入り:93

処理中です...