異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

文字の大きさ
11 / 65
第二章 あ、忘れてた

6.

しおりを挟む
6.

鋭いチサの視線の先、池を囲むように植えられた樹木の陰、確かに人の気配がある。

チサに近づき小声で尋ねた。

「…誰?」

「わからない。だけど、普通じゃない」

気配察知に優れるチサが『普通じゃない』と言うのだ。まさか、『あちらの世界のナニか』ということは無いだろうが、油断は出来ない。

「…誰?出てきて」

チサの怒気を含んだ声に、気配が動いた。

「…ごめんね、警戒させるつもりはなかったんだけど。まさか気づかれると思ってなくて」

そう言いながら木立から出てきたのは、大学生くらいの細身の男の人。銀フレームの眼鏡の奥で、困ったように目尻が下げられている。

「…あなた、あの時の」

「え?誰?チサ、知ってる人?」

チサの言葉に思わず尋ねれば、何とも言いがたい視線が返ってきた。しかも、二人分。

「え?え?なに?その視線の意味は何?」

「…明莉あかりも、前、会ってる」

「えっ!?」

振り返り、改めて相手を凝視すれば、困ったような顔に苦笑が浮かぶ。人の良さそうな顔。さっきまで怪しんでいたはずの人物に対して、申し訳ない気持ちがわいてきた。

「…すみません、記憶にございません」

「いや、僕の印象が薄いだけだから、気にしないで」

穏やかに返ってきた返事に感じたのは、どうやらあちらはこちらを覚えていそうな気配。ますますヤバイ。

変な汗が出てきたところで、チサからの助け船。

「…夏休み前、ここで会った。明莉がショックにうちひしがれてた時」

「あー!」

思い出した。公園でうちひしがれたと言えば、あの時しかない。

確かに、不審者の私に声をかけてくれた親切なお兄さんが居た。あの時は相手の顔をちゃんと見る余裕も無くて、全く覚えていなかったけれど、この人、だったのか。

「…」

「?」

まじまじと見つめて、更に思い出した。そうだ、あの時はまだ自分のセーラー姿を受け入れられなくて、コスプレ姿がメチャクチャ恥ずかしくて―

「?大丈夫?顔色が、」

「大丈夫です!」

何だか、以前も同じ様なやり取りをした気がする。だけど、思い出した羞恥心から、顔に集まっていく熱はどうしようもない。

「…この子のことはいい。平気だから放っておいて。それで?あなたは何故あんなところに隠れていた?」

「隠れていたというと、響きが悪いけれど…」

「じゃあ、何をしていた?」

責めるようなチサの言葉にも、お兄さんは穏やかに返事を返す。

「そこの木の向こうから、池の方を眺めてたんだ。そしたら、その、君達の友達?なのかな?男の子と女の子がそこのベンチに座ってしまって、仲良さそうにしてたから、邪魔するのも悪くて、その」

お兄さんの口調が言いにくそうなものになり、モゴモゴしている。

「…つまり、あの二人がイチャつき始めたから出られなくなった、ということ?」

「うん、まあ、そう、だね。そうしてるうちに君達がきて、大事な話をしてたみたいだから、ますます動けなくなってしまって」

「何故、気配まで消してた?」

「邪魔したら悪いと思ってね?完全にやり過ごすつもりでいて、本当に、気づかれるとは思わなかったんだ」

お兄さんの視線が、チサを向いた。黙ったまま、二人の視線がお互いを探り合う。

「…わかった。一応、納得しておく」

本当に納得したかはわからないけれど、そう言って話を終わらせたチサがこちらを見上げた。

「帰ろう?」

「うん」

「あ、待って」

「?」

呼び止められた声に振り返れば、真っ直ぐな瞳と目が合った。

「名前を聞いてもいいかな?」

「え?名前ですか?私の?」

予想外の言葉に驚いて聞き返してしまったが、それよりもビビったのは、隣のチサの怒気が一気に膨らんだこと。

―なぜ今、このタイミングで!?

思わず、チサさんを盗み見る。

いつもは表情の薄いチサさんの顔が、わかりやすく怒っていらっしゃる。

「そう。本当は、君達の会話が聞こえてたから、名前も聞いちゃったんだけど、ちゃんと君の口から聞いておきたくて」

「え?は?」

いやいや、お兄さん。向き合うあなたの角度から、チサのこの顔が見えていないはずはないと思うのだけれど。

淡々と、何ならもう、微笑んでるくらいのお兄さんの態度に困惑する。

「あ、僕は『花守はなもり 秀一しゅういち』、学生です」

「はぁ」

マイペースに自己紹介をしてくれたお兄さんは、私の返事をニコニコ待ってくれている。しかし、ここで呑気に返事をするのはマズイということくらい、私にもわかる。

「…帰る」

「あ、はい!帰りましょう!」

あの時―帰還の魔方陣の研究に行き詰まっていた頃―よりも、はるかに不機嫌なチサの声に、脊髄で返事をした。

さっさと歩き出したチサの後を、慌てて追う。背後で、お兄さんの声がした。

「残念。またね?アカリちゃん」

「…」

目の前の小さな背中に、可視化出来そうなほどの怒気が膨らむ。恐くて後ろを振り向けば、優しそうな笑顔と目が合った。手まで振られている。

何だかもう、前も後ろも直視出来なくて、下を向いて歩いた。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

処理中です...