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第二章 あ、忘れてた

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それからしばらくは、心配していたような何かが起こることもなく、平和な学校生活が過ぎていった。

変わったことと言えば、来叶らいとにベッタリな美歌みかと話をすることがほとんど無くなったことぐらいで。

「でもさあ、やっぱ、三年も離れてたせいかなぁ?それでも全然寂しくないんだよねぇ」

「…」

「私って、結構薄情なやつかも」

そんな風に、チサ相手に呑気にしていたのが良くなかったのだろうか、厄介事は、また突然やって来た。

「…おい、放課後、緑地公園に来い」

「来叶?何で?」

チサとの会話に、背後から突然割り込んだ声に振り返ったが、言うだけ言った来叶は返事をすることもなく、さっさと離れていってしまう。

「何だろ?美歌のことかな?」

「…行くの?」

無表情に聞いてくるチサの声には、嫌悪が滲んでいる。

「うん。何の話かは気になるし。チサも、」

「先に帰る」

「えー!?一緒に行こうよー!」

面倒事だとわかっていて、その面倒事にチサを必死に誘う。

「一人で行ってもしんどいだけだしさー、チサが居てくれるだけで私のモチベが全然違うから!お願い!」

味方が、後で愚痴る相手が欲しいんだよと駄々をこね続ければ、断ること自体面倒になったのか、チサが渋々と承諾を口にする。

「…今回だけ」

「やったー!」

嫌々感満載の返事だったけれど、それでも最後にはチサを巻き込むことに成功した。





6限の授業が終わり、指定された通りに『緑地公園』、正式名称『三嶋自然緑地公園』に足を運んだのは良いけれど、呼び出した本人が見当たらない。

緑地公園自体、園内に大きな池があるくらい、そこそこの広さがある。細かい指定も無かったせいで、来叶を見つけることも出来ず、

「どこだろ?緑地公園しか言われてないから、何処に居るのかがわからない」

「…電話すれば?」

「来叶の番号、知らないんだよね」

「…」

チサの視線が痛い。それでどうやって見つけるつもりだったのかとその視線が言っている。

「あ、居た。あれじゃない?」

グルグルと歩き回ってようやく、見慣れたシルエットを遠目に見つけた。近づくにつれて、ある意味予想通りに、彼の隣に立つ美歌の姿も視界に入ってくる。

「おせーよ」

傍までたどり着けば、開口一番、悪態をつく来叶に苦笑する。

「何処に居るかわからなかったから、探してた」

「は?言い訳か?明莉のくせに、俺を待たせんなよ」

「…来叶くん」

適当な呼び出しをして、携帯の番号も頑なに教えようとしない来叶に責められる謂れはない。堂々と胸を張ってやれば、来叶の顔が盛大に歪んだ。

「チッ」

「それで?何の用なの?」

いつまでも来叶の不機嫌に付き合っていてはきりがない。話を進めようとすれば、来叶の顔が益々不機嫌に歪む。

「…お前、山崎達に何言ったんだよ?」

「山崎さん?美歌のこと〆ようみたいなこと言ってたから、『やめて』とは言ったよ?」

まさか、本当に何か手を出されたのだろうか―?

「はぁ!?ふざけんなよ!お前があいつらに『俺が美歌のことを迷惑がってる』とか、適当なこと吹き込んだんだろうが!」

「いや、そんなことは言ってないよ」

むしろ、それは来叶が実際に言ったのだと思っていたが。違ったのだろうか?彼女達のウソ?それとも、

「…山崎さん達に言われたの、『来叶が迷惑してる。さっさと別れろ』って」

「なるほど。でも、それで何で私が何か言ったことになるの?本当に何も言ってないよ」

はっきりと言いきれば、黙り込んでしまった美歌が、助けを求めるようにチラチラと来叶に視線を送る。

「…山崎達が言ってたんだよ。お前、先週、あいつらと遊びに行ったんだろ」

「遊びに、というかカラオケには行った。けど、そこで二人の関係についてどうこうは、何も、」

「嘘ついてんじゃねーよ!美歌に嫉妬したんだろ!?俺がお前を選ばずに美歌を選んだから」

突然激昂する来叶に違和感を感じる。本当に怒っているというよりは、怒っている振りをしているような?

「ごめんね、本当にごめんね、明莉ちゃん!」

「え?いや、」

「言っとくけどな!いくらお前が俺を好きでも、俺がお前を選ぶことは絶対にねーよ!」

どうやら、私が嫉妬から『来叶は美歌に迷惑している』という発言をしたということで、話を決着させたいらしい―

「ブスなだけじゃなく、性格まで歪んでる女を誰が選ぶか!二度と俺らに話しかけんじゃねえ!」

「待って、来叶くん!ごめんね、明莉ちゃん!」

言い捨てた来叶が背を向けて歩き出し、その後を美歌が小走りで追いかけていく。二人の背中を、一瞬ぼうっと見送って、ハッとした。

「え?あれ、メッチャふられた?」

意味不明の状況に、理解が追いつかない。

「…あの男のこと、本当はまだ好きだったの?」

「いやいや、本当にもう、これっぽっちも恋心は残ってないんだけど、それでも幼馴染みだからさぁ。友達?じゃないけど」

そんな関係を続けていくんだと思っていたのに。

「絶縁?されてしまった…」

「良かったわね」

「え?あれ?そう?良かったかな?」

当然だとばかりに頷くチサに、自分でもよく考えてみる。確かに、幼馴染みを一人失ったことは寂しいと感じるけれど、これで来叶達と山崎さんとの間のゴタゴタに巻き込まれることは無くなった。なら―

「良かった、かも?」

「…」

それでもまだ断言出来ずに疑問符がついてしまったが、満足気な微笑を浮かべるチサに、つられて笑ってしまう。気分も晴れて、さあ、改めて帰るか、とチサに声をかけようとした瞬間、チサの表情が凄みを帯びた。

それはかつて、魔王討伐の旅をしていた頃に彼女がよく見せていた表情だった。




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