異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

文字の大きさ
45 / 65
第六章 元勇者とお姫様

4.

しおりを挟む
4.

振り返った先には、にこやかに微笑む美人さん、朱桃しゅとうあやめが立っていた。

「お久しぶりです、悠司さん」

「よぉ、久しぶり」

「本当に、かなりの『お久しぶり』ですからね?」

本気で怒っているわけではないだろうが、彼女の言葉には部長を責めるような響きがあった。

「わかってるよ、そのうち朱桃のうちにも顔出すさ」

「絶対に来てくださいね?約束ですよ?」

念を押す彼女に、部長は肩をすくめて答える。一応それで満足したのか、お姫様の視線が今度はこちらを向いた。

「…あなたが、秀一兄さまが見つけていらした方かしら?」

「そうです。花守の協力者です」

「…そう」

「花守」という言葉を強調してみたが、それには興味を引かれなかったらしい彼女に、上から下までジロジロと観察された。この露骨さはわざとなんだろうな。つい最近も同じようなことがあった気がする。

「私、あなたとお話がしたいわ」

「え?あ、はい。いいですよ。何のお話ですか?」

視線の感じから、もっとこう、罵倒されるのかと思っていたけれど、意外なことに「お話合い」を提案されてしまった。比較的友好的な態度に、こちらも特に拒絶はしなかったのだが―

「…ここではなく、何処か二人きりでお話できるところで」

「?」

どういうことだろう。世間話のノリではなくて、突っ込んだ話がしたいということ?確認の意味をこめて、隣に立つ部長の顔を見上げれば、イイ笑顔と共にサムズアップが返ってきた。





結局、よくわからないままガーデンパーティーを抜け出し、連れてこられたのはホテルの一室。初めて入るけど、これは所謂スイートルームというやつでは?

しかも、『二人きり』と言われたはずが、ちゃっかり彼女にはお付き?の男性が二人ついてきた。その内の一人は、部屋の外で待機するようだが、もう一人については、お茶の用意を調えると、そのままお姫様の後方に控えてしまった。あれ?二人きりの定義って…?

「突然、こんな形でお呼びしてしまってごめんなさい。でも、私、貴女がどういう方なのか、どうしても知っておきたかったの」

「構いません。外部の人間を受け入れるのに情報は必要ですよね」

本当なら、実際に使い物になるのか試しておきたいくらいだと思う。

「秀一兄さまは、純粋な戦力として、貴女を花守に迎えられたのかしら?」

「…どういう意味ですか?」

「長い歴史の中で、花守が外部の人間を受け入れるのは貴女が初めてだから、何か特別な理由があるのかしらと思って」

理由も何も、今まで外部の協力者が居なかったということ自体、初耳だった。答えようのない質問に首を傾げるしかない。

「…明莉さん、だったかしら?貴女、秀一兄さまのことが、お好きなの?」

「!?」

「だから、ご自分の力を使って花守の家に取り入ろうとなさってるの?ご自分の力があれば、花守の、時期当主である兄さまの妻の座が狙えるとでも?」

「…」

それは、いくら何でも飛躍しすぎだ。秀への想いを今更否定するつもりはないけれど。「妻の座」とかそんなことまでは考えてもいなかった。

勝手に進む話の終着点は、果たして何処なのか―

「貴女に、忠告しておきます。秀一兄さまが貴女に何をおっしゃったかは知りませんが、兄さまが真実愛しているのは、この私です」

「!?」

「ですが、兄さまは、花守の家から力が喪われることをとても憂いていらっしゃる。ですから、これ以上、力を喪わないために、私と結ばれるわけにはいかないというお考えなの」

「…」

哀しげに揺れる彼女の瞳は真に迫っていて、少なくとも、それが彼女にとっての真実なのだということがわかる。

「仮に兄さまが貴女に何かを言ったのだとしても、それは貴女に戦う力があるから。家のために、仕方なく貴女を選んだだけです」

「仕方なく」という言葉には結構クルものがあった。だけど、彼女の言葉には矛盾がある。私の力は、正確には殴る専門でしかなく、部長やチサのように門や幽鬼を封じることは出来ない、不完全なものなのだ。彼女の言うことが本当なら、秀は私ではなくチサを選んでいるだろう。

チサに面倒をかけるつもりはないし、そもそも秀に『選ばれた』記憶も無いから、黙っておくけれど―

「…わかっていただけたかしら?貴女を私達の家の事情に巻き込んでしまったことは申し訳ないと思うわ。だけど、ここまできちんと説明した以上、秀一兄さまには今後一切近づかないで。不愉快だから」

綺麗な顔をしているだけに、彼女に睨まれると迫力がある。しかし、それも一瞬のことで―彼女の言葉を拒絶する間もなく―次の瞬間には、険しかった顔が大きくほころんだ。

「それと今、あるプロジェクトが進行中なの。これが上手くいけば、花守が守役筆頭の座を降りることになるわ。そうすれば、秀一兄様が朱桃の家に入ることも可能になる」

彼女の言葉と笑顔に、呆気にとられた。それは、そんなに嬉しそうに話すような、こと―?

「見る力に長けた兄さまが朱桃の家に入れば、兄さまが力で侮られることもなくなる。兄さまのためにも、それが一番だわ。私達は二人で幸せになるの」

「…本気で、言ってるの?」

「あら?貴女は兄さまの味方ではないの?兄さまのお立場よりも、ご自分の想いを優先なさるおつもり?今のままの兄さまでは、戦えずに周囲から揶揄されるだけ。そんなの、兄さまがお可哀想なだけでしょう?」

「…」

久しぶりの感覚だった―

来叶らいとに罵倒された時にも、美歌に一方的に距離を置かれた時にも、結莉愛ゆりあに、来叶との付き合いを秘密にされていた時にも感じなかった―

「…『可哀想』は、違うと思うよ?」

「そう?では、何だとおっしゃるの?」

ドロドロとした胸の内、燃えるような怒りとは反対に、頭は怖いほどに冷めていく。

「…私、これから大活躍するから」

「え?」

「花守の協力者である私が活躍しまくって、門も幽鬼も片っ端に倒す。花守が守役筆頭の座を降りなくてすむように」

「…頭に乗らないで、五家でもない人間が。多少力があるからと言って、あなたに一体何が出来ると言うの」

氷のように冷たい表情からは、彼女の怒りが伝わってくる。冷ややかな視線のまま、彼女の唇だけが大きく弧を描いた。

「兄様に聞いたわ。つい先日も大怪我をおったばかりだそうじゃない?」

嘲笑うような言葉に、胸の熱が凍りつきそうになった。

―秀は、この人と会っているということ?

動揺し、胸に痛みが走った。けれど、次の瞬間にはそれもなくなる。大丈夫。彼女の言葉に振り回される必要はない。真実が知りたいなら、確かめたいなら、相手はこの人じゃない。

「…秀は優しいから、少し大袈裟に言ったのかもね?私を辛い目に会わせないように色々考えてくれてるんだ」

「っ!?不愉快だわ!」

叫ぶと同時に菖が立ち上がった。水色のドレスの裾を翻し、足早に部屋の扉へと向かう。そのまま見送れば、開かれた扉を彼女が通り抜けると同時に、部屋の扉がバンという大きな音を立てて閉じられた。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん
恋愛
【モブ】シリーズ①(本編) 異世界を救うために聖女として、3人の女性が召喚された。しかし、召喚された先に4人の女性が顕れた。そう、私はその召喚に巻き込まれたのだ。巻き込まれなので、特に何かを持っていると言う事は無く…と思っていたが、この世界ではレアな魔法使いらしい。でも、日本に還りたいから秘密にしておく。ただただ、目立ちたくないのでひっそりと過ごす事を心掛けていた。 それなのに、周りはおまけのくせにと悪意を向けてくる。それでも、聖女3人のお姉さん達が私を可愛がって守ってくれるお陰でやり過ごす事ができました。 そして、3年後、聖女の仕事が終わり、皆で日本に還れる事に。いざ、魔法陣展開で日本へ!となったところで…!? R4.6.5 なろうでの投稿を始めました。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...