異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第43話 これから、デートしない?

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「私、一条くんが言ってくれたことにも、してくれたことにも感動しちゃって……。申し訳ないって気持ちもあるけど、それ以上に嬉しくて……! 本当にありがとう。私、このご恩は一生忘れない。必ずお返しするわ」

「いいんですよ。おれたちは自分の生き方や夢に従っただけなんです。ね、フィリアさん?」

「はい。居場所を求める方の受け皿になれるなら、この程度のこと、なんでもないのです」

「居場所……そうね、もうここが私たちの居場所なのよね……」

 どこか嬉しそうに美幸は呟く。

 心なしか、左薬指の指輪のあとは薄くなっていた。

「あの人がいないなら、他の場所で生きる選択肢もあるけど……私、もうここ以外なんて考えられなくなっちゃった。いつでも休めて子供と過ごせるし、働きがいもあるし、それに――」

 美幸はおれとフィリアの手を取った。

「あなたたちもいる……。ここで暮らしていけるんだって実感で……たまらなく嬉しいの」

「一緒にやってきましょう、美幸さん。きっと、ここはもっといい場所になる」

「うんっ! よろしくね、ギルドマスターさん?」

「ははっ。モンスレはともかく、ギルマスって柄じゃないと思うんですけどね」

「そう思ってるのは一条くんだけだったりして。あっ、そういえば前から気になってたんだけど……一条くんって、誰のことでも下の名前で呼ぶよね?」

「あっ、すみません。ファーストネームで呼び合う土地が長かったから、癖になっちゃってるんです。馴れ馴れしかったですか?」

「うぅん、全然! でも下の名前で呼んでくれるなら、私もそう呼ばせてもらおっかなぁ?」

「ええ、いいですよ」

「じゃあ……えへへっ、拓斗くん……」

「はい。ははっ、おれもそっちのほうがしっくりきますね」

 するとフィリアのほうが反応した。

「そちらのほうが、良いのですか? 日本では、下の名前で呼び合うのはごくごく親しい間柄なのだと窺っておりましたが」

「親しい間柄でしょ?」

 フィリアの瞳が、おれと美幸を行ったり来たりする。

「それは、そういう……?」

 なぜか混乱しているフィリアをよそに、美幸はくすりと笑う。

「ねえ拓斗くん、子供って好き?」

「ん? ええ、好きですけど」

「そっか、好きなんだ。ふふっ、良かったぁ」

「なんで急に子供の話を?」

「拓斗くんのこと、もっと知っていきたいって思ったから。でも、これ以上はフェアじゃないかなぁ。今日はこれくらいにしとくね、フィリアちゃん」

「は、はい? なぜわたくしに、そのようなことを……?」

「わかってるくせにぃ~」

 美幸は意味深な笑みをフィリアに向けてから、そっと一歩引いた。

「じゃあ離婚届出しに行ってくるから、私はこれで。ふたりとも……それに、津田さん? も、ありがとうございました!」

 深々とお辞儀してから、美幸は軽い足取りで去っていく。

 代わりに、近くで控えていた丈二が前に出てくる。

「では一条さん、サンプルが出てくるまで、少しお話をしませんか? 冒険者ギルドというものにも興味があります。この前は、恋人のもとに急ぐからと断られてしまいましたが、今なら――」

「こいびと!?」

 フィリアはひどい衝撃を受けて声を上げしまう。

 去っていった美幸の背中とおれの顔を、首をぶんぶん振りながら交互に見やる。

「ちょっと待ってくれ丈二さん! おれに恋人はいない!」

「はい? いやしかし、好きな女性と同居を――」

「わー、わー、わー! 空気を読んでくれ丈二さん! 君は本当にうといな!」

「はあ……なにか間違っておりましたか?」

「状況を読み違えてる! いやおれの言い方も悪かったけど!」

「ふむ……確かに私はその方面にはうといようです。ご説明いただけませんか」

「説明してたまるか! 今度まとめて話すから、予定を空けておいてくれ!」

「わかりました。では名刺をどうぞ。連絡はそこに。いつでも都合をつけますので」

「わかった! じゃあフィリアさん、ここは丈二さんに任せておれたちも帰ろう!」

「は、はい……」

 おれはフィリアの手を引いて、その場から逃げ出した。


   ◇


 帰り道、フィリアは何度もチラチラと瞳を向けてくる。なにか切り出すタイミングを窺っている様子だ。

 おれのほうも、さっきの丈二のとぼけた発言のせいでずっとそわそわしてしまっている。

 気まずい空気だ。打破しなければ。

「あのさ――」

「あの――!」

 意を決した瞬間、声が重なってしまう。

「あ、ごめん。そっちが先に」

「いえ、一条様こそ先に……」

「…………」

 互いに黙って、俯いてしまう。

 が、フィリアは改めて奮起して顔を上げてくれた。

「あ、あの……こ、恋人がいらっしゃったのですか?」

「いや、さっき丈二さんにも言ったけど、本当にまだいないんだ」

「まだ……ということは、想い人はいらっしゃるのですね……」

「まあ、ね……」

「やはり、末柄様なのですか?」

「違うよ。美幸さんは魅力的だし、たまにドキドキさせられるけど……そういう相手じゃない」

「ですが、親しいと仰っておりました。下のお名前で呼んでもいいほどに」

「そりゃ友達だもん。親しいっていうなら、パーティ組んでるフィリアさんのほうが……」

「では、わたくしも、下の名前でお呼びしてもよろしいのですか……?」

「君が、親しいと思ってくれてるなら……」

 すると、どこか陰っていた表情が、ぱあっと明るくなる。嬉しそうに声を弾ませる。

「では……では! タクト様とお呼びしてもっ?」

「もちろん。様もいらないよ」

「いえ、それはこのままで。タクト様、ふふっ、タクト様……!」

 こんなに喜ばれるとこちらも嬉しくなってくる。

 むしろ、期待してしまう。

 フィリアもおれのことが好きなのでは……?

 いっそここで告白してしまうのも……。

 いや、まだ早い。美幸の件で、思うところがあったじゃないか。

 美幸は、親しいからと相手をよく知ろうとせず、痛い目に遭ってしまった。

 おれたちは平気だと信じてはいるが、だからといって、このままでいいとは思わない。

 パーティメンバーでもあるのだ。互いにもっと理解を深めたほうがいいに決まってる。

 ……というのは建前だ。単純に、おれはフィリアをもっと知りたい。

「……そういえば、おれたち、ちゃんと自己紹介してないね」

「はい……不思議と縁が重なって、よく知らないまま親しくなっておりました。いけませんね、末柄様に教訓をいただきましたのに」

「うん、おれも美幸さんの件でそう思ったんだ。だからさ、フィリアさん――」

 おれは緊張しつつも、いつもの何気ない口調を心がけて言った。

「――これから、デートしない?」
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