異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第93話 断じてロリコンではありません!

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 丈二をロザリンデの前に放り出してやると、彼は緊張で顔をこわばらせた。

 ロザリンデは、上機嫌な笑顔だ。おれと丈二の内緒話が、彼女にも聞こえていたのだから当然だろう。

「やっぱりジョージも、わたしが好きなのね」

「そ、それを確かめるためにも、私はあなたをもっと知る必要があります。私たちと一緒に地上へ来ていただけませんか?」

「地上? そう、ここは迷宮ダンジョンの中だったわね」

「ええ、異世界リンガブルーム人は珍しく、特別な扱いをすることになっているのです」

「特別な扱い……」

 ロザリンデは不安げな表情を見せる。

「地上に……怖い人は、いない?」

「いません。もしいたとしても、あなたが良い子でいる限りは、私が全力であなたをお守りします」

「本当に……?」

「もちろん。約束します」

 丈二の眼差しと言葉に、ロザリンデは安堵したようだった。

「ありがとう、ジョージ。それなら、いいわ」

 そしてぴょん、と丈二に飛びついた。

「連れて行って、ジョージ!」

「え、ええ?」

「抱き上げて、連れて行くのっ。ほら、はやくっ」

 両手を広げて、「んっ! んっ!」と何度もせがむ。やがて丈二は緊張しつつしゃがみ込み、ロザリンデの肩と膝に手を回して持ち上げる。お姫様抱っこだ。

「あっ、タクト、ごめんなさい。わたしのベッドも持ってきて欲しいわ」

「ああ、あの箱だね。オーケイ。じゃ、丈二さん、ロザリンデちゃんはよろしくね」

 こうしておれたちは、ロザリンデを連れて行くことになったのだが……。

 野営地への道すがら、ふと気になったので尋ねてみる。

「ところで丈二さん、みんなにはどう説明しようか?」

「……説明? ああ、そうですね。なんと言って紹介するべきでしょうか」

「恋人よ?」

「いえ、そう公言するにはまだ早いと言いますか。私としては色々と心理的にクリアしなければならない壁がありまして」

「どんな壁でもわたしとなら、問題ないわ」

「いや、そうじゃないよ丈二さん。しっかりしてくれ。迷宮ダンジョン内で女の子を見つけたとか、どう考えても状況的におかしい。異世界や、異世界人の転移は機密なんだろうけど、さすがにそれを抜きに説明するのは無理じゃないかな?」

「……はっ! そうでした!」

「ダスティンの件もそうだ。他の冒険者はまだ誤魔化せると思うけど、今回参加してくれてるみんなは納得しないよ」

「……ええ、わかっています。今回のメンバーには、説明と口止めをするしかないと考えていたのですが……すみません、今の今まで忘れていました……」


   ◇


「へっ、なるほどな。まあ、あんな魔物モンスターがいるんだ。異世界ってのはあんだろうし、異世界人が来ちまってても不思議はねえ。でなきゃ、あの吸血鬼ヤロウの説明ができねえ」

 野営地にて。丈二の説明を受けて、まず吾郎が頷いた。

「……むしろ、第2階層にいたら、異世界なのは……察しがつきます」

「あたしも、フィリア先生やミリアムさんが異世界人って聞いて、色々と納得しちゃいました」

「黙っていて申し訳ありません。そういう約束になっておりましたので。でも、これからも他の方々には秘密、ですよ?」

 唇に人差し指を立てるフィリア。紗夜や結衣は、同じような仕草で頷いて返してくれる。

 吾郎は不満そうにおれを睨む。

「しかし、一条は異世界で10年冒険者やってたとはな。どおりで強えわけだ。オレよりずっとベテランじゃねえか。ふざけんなよ」

「そう言わないでよ。急に飛ばされた言葉も通じない土地で、10年戦い続けるのは、結構きつかったんだよ」

「そいつは……同情する。15のガキが、魔物モンスター相手に血みどろの日々か。よくもまあ、まともなままでいられたもんだ」

「助けてくれた人が、たくさんいてくれたからね。だからおれも、こっちに来てしまった転移者には優しくしたいと思ってる」

「その新しい転移者が、そっちの女の子か」

 吾郎は丈二が抱いたままのロザリンデに目を向ける。

 紗夜と結衣は目を輝かせる。

「すっごく可愛いですよねっ」

「お名前……なんて、いうの?」

「ロザリンデ。ジョージの恋人よ」

「なっ! ロザリンデさん!?」

 ロザリンデの返事に慌てる丈二である。案の定、紗夜や結衣はすごい勢いでドン引きした。

「うわぁ……津田さん、本当はそういう趣味だったんです……?」

「年上のお姉さんが好みって……カモフラージュ、なんだ……」

「誤解です! 私は断じてロリコンではありません!」

 吾郎は冷静に、諦めたような声を出す。

「……津田、お前、それはダメだろ」

「だから違うんですって!」

「そうよ。ダメなことなんてないわ。わたしは上級吸血鬼よ。ジョージ好みのお姉さんだわ」

「――!?」

 上級吸血鬼と聞いて、おれと丈二以外のみんなが即座に警戒態勢に入る。武器を持つ者は武器を構え、無い者は魔力を集中させる。

 それを目の当たりにしたロザリンデは、怯えを瞳に揺らめかせる。

「みなさん、待ってください! 彼女はダスティンとは違います! 善良な上級吸血鬼なのです!」

「丈二さんの言う通りだ! でなきゃ、おれたちはとっくにやられてる!」

 ロザリンデは無言でギュッと丈二の胸に顔をうずめる。震える肩を、丈二がいたわるようにさする。

吸血鬼ヴァンパイアといえど彼女は私たちと同じです。いわれのない敵意を向けられれば怖いですし、見知らぬ土地に投げ出されれば途方に暮れます。手を差し伸べるべきだと思いませんか」

 フィリアが息を呑み、すぐさま警戒を解いてくれる。

「ロザリンデ様、怖い思いをさせてしまって申し訳ありません。最近、悪い吸血鬼ヴァンパイアにひどい目に遭わされましたので、過敏になっていたのです」

「わたし……悪い子じゃないわ」

「はい、信じます。いじめたりはしません。みなさんも、そうですよね?」

 紗夜と結衣も、顔を見合わせてから構えを解く。吾郎も最後に剣を納めた。

「よかった……。ロザリンデさん、もう大丈夫です。みんな、わかってくれました」

「……ええ。ジョージ、本当に守ってくれたのね」

「私は約束を守る人間ですよ」

「誠実な人は好きよ、ジョージ」

 ささやかれて、丈二は恥ずかしそうに沈黙してしまう。

 紗夜がジト目になった。

「本当に年上でも、その見た目の子にデレデレするのはヤバくないです?」

「合法でも……ロリはロリ、です」

「津田……やっぱりお前、それはダメだろ」

 3人の反応に対しロザリンデがふるふると首を振る。

「やめて。愛の形は人それぞれだわ。とやかく言うのは失礼よ」

「その言い方では余計に誤解されますから! 勘弁してください!」

 そして丈二は、おれに視線で助けを求めるのだった。
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