異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
94 / 182

第94話 だ、ダブル変身……ッ!?

しおりを挟む
 さすがにロリコン疑惑は可哀想なので、おれは丈二を弁護してあげることにした。

「3人とも、勘弁してやって。丈二さんが惚れたのは、彼女が大人に変身した姿なんだ」

「へー……」

「ほおー」

 結衣も吾郎も反応が薄い。紗夜も、まだ訝しんでいる。

「じゃあ今の小さい姿でも、どうして津田さんはデレデレしてるんです?」

「これでも落ち着いてるよ。大人の姿のときは、理性を失いかけてた。まあ姿が変わっても同一人物だし、一目惚れしたときの印象のままなんだと思う」

「ふぅん」

「あと、丈二さんの恋愛観が中学生みたいなのがねー……」

「……あー、こじらせちゃった感じなんですねー……」

 紗夜は丈二に生ぬるい笑顔を向けた。

「えっと……頑張ってくださいね」

 丈二は顔をしかめた。

「なぜでしょう、不当に貶められた気がするのですが」

「気のせいだよ」

 ふぅ、と吾郎は小さくため息をつく。

「まあ犯罪じゃねえならいいか。……それよりよ、その嬢ちゃんがいるせいで、吸血鬼になりかけた連中に悪影響が出たりはしねえよな?」

「なりかけた? ごめんなさい、ジョージ、下ろして」

 丈二が下ろしてあげると、ロザリンデは野営地をぐるりと見渡した。

 それから紗夜に目を留める。

「あなたと……あの木に縛られてる子たちが、そうなのね?」

「あ、うん。あたしたち、吸血鬼ヴァンパイアになりかけてたけど、元凶がもういないから、人間に戻っていってる途中みたいなんだけど……」

「そう。それで地上に帰らずにいたのね」

 ロザリンデは丈二を見上げた。

「ねえジョージ、わたし、早くあなたと一緒に行きたいわ。この子たち、わたしが治してあげてもいいかしら?」

「治せるのですか!?」

「ええ、簡単よ。悪い子の魔素マナを排出して、それから自然治癒力を高めてあげればいいの」

「では、ぜひお願いします」

「ええ、任せて」

 ロザリンデは、まず木に縛られた半下級吸血鬼たちに向かった。ダスティンの魔素マナを操って排出し、治癒力を上げる魔法をかける。

 すると、異形になりかけていた体が、目に見えるほどの早さで、もとの姿に近づいていく。

 これなら数時間――いやもっと早く完治するかもしれない。

 続いて紗夜にも同様の処置がおこなわれた。こちらは体の変化はほとんどない。数分もしたところで、ロザリンデから完治と宣言された。

「ありがとう、ロザリンデちゃん――うぅん、ロゼちゃんって呼んでもいい?」

「ええ、いいわ。サヨ、体に違和感はない?」

「うんっ、平気そう。でもちょっと残念。霧で服装変える能力、便利だったのに。あっ、でもあたしが作ったメガネとかは消えてないんだ」

「能力で作った物なら消えるはずよ?」

「あれぇ? じゃあ、もしかして?」

 紗夜は魔力を集中させると、自分のメガネを霧化して再構成した。しっかりと度付きの物らしい。

「わぁ、できちゃった?」

「まあ。あなたすごいわ。上級吸血鬼になりかけたことで、霧化に使う魔素マナの操作を感覚的に理解したのね」

 見守っていた丈二と結衣が、顔を見合わせる。

「つまりこれは」

「いくらでも、変身動画……撮れます」

 無言で頷き合い、スマホを取り出す。

「葛城さん、記念にやってみましょう」

「なんで記念で変身するんですっ? 嫌ですよっ」

「でも紗夜ちゃん、本当は好き……でしょ?」

「なんでっ?」

「なんだかんだ、撮り始めたらノリノリ、だし……」

「ぐぬぬ」

 困り眉の紗夜の隣で、ロザリンデは興味津々にスマホを覗き込む。

「それがスマホなのね? これでなにをしようとしているの?」

「動画を撮影しようとしていたのですよ」

「動画?」

「こういうものです」

 丈二は適当な動画を再生する。ロザリンデは目を輝かせた。

「すごいわ。目の前の出来事を切り取って残しておけるのね。でもあなたたちはサヨになにをさせようとしていたの?」

「服装が大きく変わる様子が、可愛らしく格好良かったりするので、あとで何度でも見返せるように撮影するのです」

「そう……ジョージは、そういうのも好きなのね?」

 ちょっと恨めしそうな上目遣い。丈二はそれに気づかない。

「はい。まあ、そちらにいる今井さんと似たような趣味です」

「ふぅん……」

 さっそく紗夜に迫っている結衣を横目に、ロザリンデは唇を尖らせる。

「わたしも、同じことできるわ」

「はい?」

「わたしも可愛く格好良く、姿を変えられるわ。ジョージは、わたしをもっと見るべきだわ」

 撮影を始めた結衣の前に躍り出て、紗夜の真似をしてポーズを決めつつ服装を変えてみせる。

「だ、ダブル変身……ッ!? 津田さん、すごいです、これは絶対大人気です……!」

「あ、いや……」

「津田、さん?」

「なんといいますか、ロザリンデさんの姿を公開するのは、気が引けるといいますか……」

 結衣はジト目で丈二に迫った。

「自分の彼女の姿は、独り占めしたい……と?」

「これが独占欲かどうかはわかりませんが」

「ずるい、です。ユイも、彼女を公開してるのに」

「結衣ちゃん、あたし彼女じゃないよっ」

「ジョージ、どうしたの? はやく撮るべきだわ」

 なんやかんや賑わっている様子を、おれやフィリアは、少し離れて見ていた。

 フィリアはため息をついた。うつむき気味だ。

「どうしたのフィリアさん? 今は少しくらい遊んでてもいいと思うけど」

「いえ……そのことは気にしていないのですが……」

「なにか心配事?」

 フィリアはまた小さくため息。

「わたくし、このままでは葛城様の期待を裏切ってしまいます……。せっかく先生と呼んでくださっていますのに、才能で完全に負けています。いつか幻滅されてしまいます……」

 おれは彼女を抱き寄せて、ぽんぽんと背中をさする。

「大丈夫だよ、フィリアさん。魔法の才能じゃおれも紗夜ちゃんに敵いそうにない。他のことで頑張ればいいし、もし生徒に追い越されるなら、それはそれで喜ばしいことじゃない」

「……はい。そう……そうですね。すみません、嫌な夢を見せられたせいか、すぐ弱気になってしまいます。いけませんね」

「そういうときは思い出して。君の夢は、最強の魔法使いになることじゃない。居場所を失くしてしまった誰かの受け皿になること……でしょ。それ以外のことなら、あんまり気にしなくていいはずだ」

「……はい。そうでしたね。ありがとうございます」

 フィリアは儚げに笑った。

 それから、むんっ、とばかりに胸元で両手を握りしめて気合を入れる。

「わたくし、頑張ります。どなたかのお役に立てますように」

 そして地上に戻ってしばらくの後、フィリアは自身の言葉通り、ロザリンデの居場所のため奔走することとなるのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...