異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
157 / 182

第157話 勇者には表に立っていただかないと

しおりを挟む
 雪乃と隼人の結婚式から数日。

 余韻も冷めた頃、おれたちは丈二を交えて今後のことを話すべく、第1階層『初心者の館』にやってきていた。

「斎川梨央のスポンサーは、やはり外国絡みでしたよ」

 丈二曰く、迷宮ダンジョンにおける機密情報や、危険物の海外への持ち出しを狙ってのことだったらしい。

 正攻法ではまず手に入らないそれらを得るために、闇サイトを作り出したと考えられる。数多くの犯罪依頼が集まる場があれば、その中で国家機密の持ち出しという重大犯罪がおこなわれても、表ほど目立たない。

 実際、そういった依頼は巧妙に紛れ込まされており、現役の冒険者が実行していたものもある。

 ほとんどは迷宮ダンジョンのゲートや、港など、水際で食い止められていたが、何件かは流出してしまった形跡があるそうだ。

 おそらく異世界リンガブルーム異世界リンガブルーム人については、知られてしまっただろう、とのことだ。

「……そのことで、どんな影響がありそうなんだい?」

「まだなんとも言えません。日本政府が異世界リンガブルームと国交を結ぼうとするのを邪魔するのか、一口乗るのか、それとも強引に島ごと迷宮ダンジョンの利権を奪おうとするのか。まだ読めません」

「厄介なことになりそうだね?」

「ええ。これまた厄介なのが、どこの国に渡ったのか判別がまだついていない点です。闇サイトは、どこかの一国が斎川梨央をそそのかして作ったものでしょうが、それをいいことに、複数の国の諜報機関もサイトを利用していたフシがあるのです」

「ふむ……おれたちは、どうすればいい?」

「この件に関しては、動く必要はありません。迷宮ダンジョン内でのことならともかく、外国相手の諜報戦なら専門の機関があります。つまり私も、この件ではお役御免というわけです。私の仕事は、みなさんのサポートをして、迷宮ダンジョンから得られる国益を守り、増やすことですから」

 それを聞いてロザリンデは微笑む。

「じゃあ、もう忙しくないのね? 家に帰ってこられるの?」

「はい。まだすべての仕事が済んだわけではないですが、今夜から帰ろうかと思います」

「うふふっ、よかったわ。でも、闇サイトがややこしくなっているのなら、もう使えないように潰してしまったらどうなの? まだ活動してる闇冒険者もいるみたいなのだし」

「潰してしまっては、別の、我々の把握していないところでまた闇サイトが作られてしまいますからね。いっそ、今あるものを乗っ取って、こちらの制御下に置いたほうがいいのですよ」

「他国が利用していたように、こちらも利用するということ?」

「そういうことです。幸いにも、彼らはまだ斎川梨央の死を知らない。まだ利用できる手駒だと思っている。その点を利用して情報を引き出していくつもりです」

「だからって闇冒険者を放置していいんすか?」

 むすっ、とした表情で隼人が尋ねる。丈二は不敵な笑みで答える。

「もちろん放置などしません。こちらはすでにサイトを乗っ取っているのです。闇依頼の内容を精査し、重要案件を受けた闇冒険者はマークし、のちに高額報酬を出して闇冒険者に狩らせます。闇依頼に手を出しづらい状況を作るわけです。他国に怪しまれない程度に、ですが」

「毒を持って毒を制するんすね……」

「手段は違いますが、毒を用いる点はファルコンと同じですよ。まあ、あれはやりすぎなところもありましたが」

 隼人がファルコンだということは、梨央との戦いが生配信されていたことで、すっかり知れ渡ってしまった。顔までははっきり映っていなかったようだが、このイヌ耳にモフモフ尻尾では誤魔化しようがない。

 それはファルコンの生配信初回で、闇冒険者に重傷を負わせた件と無関係とはいかない。

 一応、おれも含め、彼の活動に共感した者たちがファルコンを持ち回りで演じていたのもあり、問題の初回活動も誰がやったのかわからない……ということになっている。

 よって隼人が傷害罪で逮捕されるには至っていない。が、証拠が足りないというより、見逃してもらっているというのが正しい。

 なのでこの件を話題に出されると、隼人はなにも言えなくなる。尻尾がどんどん下がっていってしまう。新婚で逮捕されるのは嫌だろう。

「というわけで、毒ばかり使うのも問題なので、きちんと薬を使います。優秀な冒険者を選別して、迷宮ダンジョン自警団を設立します。闇冒険者への対処はもちろん、各改装の見回りもおこない、危機に陥っている冒険者の救助も担当してもらいます。勝手ながら、ファルコン隊と名付けましたよ」

「津田先生、そう名付けたってことは……」

「風間さんには中心になって活動していただきたく思います。裏に隠れて悪と戦うのも格好いいですが、こういうのは表と裏でやってこそです。裏方はもともと私の担当。ならばヒーロー……いや、勇者には表に立っていただかないと」

「津田先生……」

「あなたの耳と鼻は、助けを求める人を見つけるのに向いている。やっていただけますね?」

「あの、でも俺たち第5階層の先行調査やってますし。そっちに回って、いいもんですかね?」

「いいんじゃねーの?」

 隼人の隣で、雪乃が口を開いた。

「アタシも一応、目標は達成したしな。功績を焦ることはねーし。なんなら、アタシら『花吹雪』は丸ごとファルコン隊に参加したっていいぜ」

「でも雪乃先生、第5階層の魔物モンスターめちゃくちゃ強かったじゃないすか。先行調査から俺が抜けたら――」

「それは心配ないよ、隼人くん。代わりにおれたちが参加する」

 おれが表明すると、隼人は安心したような顔を見せる。

「一条先生がやってくれるなら、むしろ俺よりいいっすね」

「本当は、また功績を奪うって言われちゃいそうで気乗りしないんだけど」

「冒険者の中で一条先生を悪く言う人なんて、もういませんよ」

「せいぜい、ネット弁慶の、アンチくらいです」

「だとしたら嬉しいな」

 紗夜と結衣にそう言ってもらえると安心できる。ほっこりしてから、改めて隼人に目を向ける。

「そういうわけで、隼人くん頼むよ。おれも、君みたいな実力者が見回ってくれるなら安心できる」

「一条先生にそう言われちゃったら、断れませんよ! やります!」

「うん、よろしくね。でも、第4階層で君が聞いたっていう声の件もある。調査に手を借りることはあるかもしれない」

「いつでも呼んでください。どこからで駆けつけますから!」

「オーケイ。なら迷宮ダンジョンの平和は任せたよ、勇者」

 そして冒険は、おれたちの役目だ。

 数日後には、おれたちは第5階層へ向けて出発していた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...