異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第156話 おれたちは、いつ結婚しようか?

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 春樹は、雪乃の弟だ。本当なら雪乃の親類縁者として招待するところなのだが、冒険者ライセンスを持たない者を迷宮ダンジョン内に連れてくるわけにはいかない。宿の改装のときのように、少人数の業者なら護衛のしようもあるが、多くの参列者の護衛はさすがに手が足りない。

 さらに春樹は今、手術を控えている身だ。どちらにせよ、ここには来られない。

 そこで新郎新婦の親類縁者には、ビデオ通話によるリモート参加をしてもらうことになった。

 他のスタッフも、それぞれのタブレットを用いてリモート参加者へ繋いでいたりする。

 予定では、おれがやる仕事ではなかったのだが、雪乃たっての希望で、おれが春樹の相手をすることになった。

 以前から彼がおれのファンだという話は聞いている。雪乃が希望しなくても、おれから提案していたところだ。

 画面の向こう側で春樹ははしゃぎっぱなしだ。

『じゃあ本当の本当に、おねーちゃんとお友達なんだね!』

「もちろんさ。お姉さんはすごいんだよ、この前なんて第5階層を見つけてくれたんだ」

 結婚式の準備に忙しくしつつも、春樹くんの入院手術費のために、雪乃は休むわけにはいかず冒険者活動を続けていた。

 隼人を捜索していた期間は、ろくに依頼も受けず、魔物モンスター討伐量も少なかったため、貯金が目減りしていたという事情もある。

 しかしそこで助けになったのも、隼人であった。

 合成人間《キメラヒューマン》になったことで得た、高い聴力と嗅覚が、新たな階層を見つ出したのだ。その発見と、第5階層の先行調査報告、さらに第5階層の大物魔物モンスター撃破による報酬が重なり、彼女らの懐を大いに潤したのだ。

 目減りした分を補って余りある資金は、春樹の入院手術費も賄うに至った。

 そして、手術日が近づくにつれて弱気になっていく春樹を勇気づけるためにも、雪乃はおれに頼んできたというわけだ。

『いいなぁ、ぼくもおねーちゃんみたいにモンスレさんと冒険したいなぁ』

「しようよ、一緒に。そのためにも元気になってさ、強い子になるんだ。おれ、君が来るの待ってるからさ」

『……うん! ぼく、手術頑張る!』

「約束だよ。じゃあ、そろそろ雪乃ちゃんの結婚式が始まるよ。一緒に見よう」

 おれたちは宿内に作った教会スペースへ移動する。参列者はみんな冒険者や探索者だ。裏方に回ってくれている者たちも含め、みんな雪乃たち『花吹雪』とは親しい。

 というより、この第2階層にいる者たちは、だいたい仲が良い。ほぼ全員出席だ。

 席に座ってから、神父役のリチャード爺さんが壇上に現れて、今回の婚姻についてと段取りについて説明する。

 それから待つこと数分。紗夜が登壇し、電子オルガンを演奏し始める。紗夜が弾けるとは思っていなかったので、これは意外だ。

 曲が盛り上がってきたところで、いよいよ新郎新婦が入場する段になる。

 参列者に、窓の外を見るようアナウンスされる。

 その先には、飛んでくる2頭のグリフィン。それぞれ新郎と新婦を乗せている。

 せっかくなので迷宮ダンジョンらしい演出を取り入れてみたのだ。春樹を始め、リモート参列者たちは目を輝かせてくれている。

 やがて宿の庭先に降り立ったグリフィンからふたりが降りて、並んで教会スペースに入場してくる。

 スタッフの魔法によって煌びやかに演出された道を歩いていく。

 雪乃のウェディングドレスは、花嫁らしくありつつ、冒険者らしくもある活発で動きやすそうなデザインだ。

 魔物モンスター素材がふんだんに使われ、なかなかの防御力を誇る武器屋『メイクリエ』店主ミリアムの力作だ。

 一方の隼人も、イヌ耳と尻尾が馴染むデザインのタキシードだ。尻尾の様子で緊張しているのがわかる。

 神父のもとへ進んでいく中、参列者たちからの祝福の拍手が鳴り響く。

 神父の前で、誓いの言葉、指輪交換、そして誓いの口付け。

 そして披露宴。

 新郎新婦の挨拶に、友人代表のスピーチなどなど。おれも雪乃や隼人を褒めたり、冗談を言ってみたりもした。

 供されるのは、極上の魔物モンスター料理。食べられないリモート参列者のためにも、見た目でも楽しめる仕掛けを施してある。さすが『ドラゴン三兄弟』だ。

 そして、各席に挨拶に回る新郎新婦。

「ありがとうございます、一条先生。こんなに素敵な式になるなんて……」

「モンスレ……いや、一条さん。あんたには、本当に借りばっかり作っちまってるな。命も救われたり、隼人のことも、弟のことも……」

「気にしないでよ、おれは君たちが幸せならそれで充分だよ」

 うるうるしている雪乃に、おれたちは祝福の言葉を投げかけるのみだ。

 そうして式は、つつがなく終わった。

 あとの二次会や三次会は任意参加だ。

 そちらへ顔を出す前に、おれは最後に春樹に挨拶だ。そこで言われてしまう。

『モンスレさんは、フィリアさんと結婚しないの?』

 こんなことを言われてしまったら、意識せずにはいられない。春樹との通話を終えてから、おれは、ひとり穏やかに微笑んでいるフィリアの隣に腰掛ける。

 まるで、幸せな空気に酔っているかのように、ふわふわした様子だ。

「フィリアさん……」

「はい」

「おれたちは、いつ結婚しようか?」

 フィリアはほのかに頬を染めつつ、上品な笑顔をこちらに向けてくれる。ただ、思案しているのか、返事をなかなかしてくれない。

「……やっぱり、フィリアさんのご両親に挨拶してからかな」

「……はい。できればそうしたいのですが……」

 異世界リンガブルームに戻れる保証などない。

 戻れないなら戻れないで、自分の裁量でこちらで身を固めるのもありだろう。けれど、それを口にできずにいる。それは、戻れないと諦めてしまうことだ。

「ごめん、答えづらいこと聞いちゃったね」

「いえ……」

「でも、悩んでくれたってことは、おれと気持ちはおんなじなんだね」

「それは、もちろん。ずっと前から――タクト様にパーティに誘っていただいたときから、ずっとです」

「嬉しいよ、フィリアさん。なら、フィリアさんのご両親に会いに行けるかどうか、はっきりさせるためにも、この迷宮ダンジョンを完全攻略しなきゃ……だね。なんて、結局やることは最初から変わってないんだけどさ」

「はい、これからも頑張っていきましょう」

「うん、差し当たっては第5階層だね。丈二さんの仕事の進捗も気になるけど……」

「それに、第4階層にも、拠点があったほうが攻略の助けになると思うのです。そちらも考えませんか?」

「いいね、やろう」

 先のことを考えると、だんだん楽しくなってくる。

 幸福な式典の余韻の中、おれたちはふたりの未来について思いを馳せるのだった。
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