46 / 62
歓喜 雑音 秋
しおりを挟むスゥ……
微かに聞こえる寝息。
安心したからか。それとも、胸の内を吐き出したからか。玄関先で会った時とは違い、憑きものが落ちたように穏やかな顔で、眠る悠。
ベッド端に座ったまま、掛け布団を首元まで掛けた後、悠の前髪にそっと触れ、撫でる。
……ごめんね、悠……
悠は僕の事を、ずっと想い続けてくれていたのに……心の何処かで、身勝手でずるいと思ってた。
この一年、辛いのは僕だけで。僕を捨てた悠は、幸せに暮らしてるって。
だけど、悠も同じように苦しんでたんだね。
……僕に会う為に、隔離病棟を抜け出したりもして……
やっと会えたあの時──悠は一体、どんな気持ちで僕の手を掴んだんだろう……
「……」
一度は、悠とやり直す決心をしたのに。結局僕は、悠の籠に……戻れずにいる……
「……」
……ずるいのは、僕の方だ。
どっちにも揺れて、どっちも諦められない……
眠る悠からそっと離れる。
厚手のカーディガンを羽織り、マフラーを手に取ると、急いで外へと飛び出した。
マフラーをしっかり巻くものの、流石に夜はまだ寒い。
駅前までの寂しい道を、一人歩く。外灯の殆どない細い道から駅前のちょっとした繁華街に出ると、いつもホッとする。
街に溢れる雑音。ここに居るのは僕だけじゃないんだって、安心感させてくれる。
裏通りにある、小さなスナック。『fall in love』──昭和の匂いがするような外観に、煌めく電光板。
入口に立ち、大きく深呼吸をしてから、ドアに手を掛ける。……と、そのドアが突然開いた。
外まで響く店内の雑音。わぁっと湧き上がる、歓喜の声。
ドアの向こうに立っているのは、年季の入ったホステス嬢。
「……あら、いらっしゃーい! 随分と若くて可愛い子ねぇ!」
酷く酒焼けした声。女豹の如く、僕を上から下から舐めるように見る。
濃い化粧。強い香水。胸元の大きく開いた派手なドレス……
「……あの。大輝、居ませんか?」
ここは大輝の母親が経営する店であり、大輝の実家でもある。
「………ん、双葉じゃん!」
店のカウンター奥にいた大輝が、僕に気付いて声を掛けた。
店を抜け出した大輝と、近くの公園へ向かう。
まるでホストの様な風貌の大輝は、長めの髪を後ろに束ね、黒いスーツを着熟し、表情も引き締まり、格好いい印象を与える。……普段の大輝とは大違い。
ブランコと滑り台、砂場しかない小さな公園。繁華街の中にひっそりと佇み、静かなその空間は、まるで別世界に迷い込んだかのよう。
園内にひとつしかない外灯。その光が届くベンチに並んで座る。
「……どうだった? 渡瀬とのデート」
そう言って大輝は、僕の顔を下から覗き込む。
「……うん……、楽しかったよ……」
「そ。よかったね」
「……」
「んで。今度は何があったのかな?」
視線を逸らす僕に、大輝が容赦なく踏み込んでくる。僕の様子がおかしい事に、最初から気付いていたみたいに。
「……」
「隠さずに言ってごらん」
チラリと隣を見れば、じっと僕の様子を覗う大輝と目が合った。
0
あなたにおすすめの小説
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
悋気応変!
七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。
厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。
──────────
クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。
◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。
◇プロローグ漫画も公開中です。
表紙:七賀ごふん
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる