Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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動乱の幕開け

接近

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人影もまばらな早朝から商人達の妻に指導した事もあって、昼前には一通りの予定を消化する事が出来た。全員を見送ったルークは、店舗を訪れた際に考えた行動に移る。改装して貰った店舗の一部を撤去するのだ。

それはこの世界では珍しい外装部分。つまりはガラス部分の撤去である。主に防犯目的なのだが、それ意外にも理由があった。それは物珍しい店舗の外装を目にした嫁達が、この建物をルークに結び付ける可能性があるのだ。

しかし幸いな事に、当日ルークの目の前で披露する目的から、外装部分は未だ覆われたままとなっている。ルーク自ら職人に依頼していたのであれば、道行く人々の目についていただろう。これは職人達が自らの仕事を自慢する意味で、衆人環視に晒された状態で作業を行っただろうという予測である。この世界では誰しも、珍しい仕事を任されれれば自慢したくなるからだった。

しかし今回依頼した商人達は、自分達の利益となる調理器具の作製にも携わっていた。物珍しい外装工事を請け負ったと知られれば、余計な詮索をされる恐れがあると判断して他者に悟られないように行動した。当然ルークは深く考えていなかった為、これも嬉しい誤算となったのであった。

(ガラスは全部アイテムボックスに入れるから一瞬で終わるとして、空いた部分は板で適当に塞いでおくかな。あとは調理器具や設備も収納するとして・・・オレ1人だから、ざっと1時間って所か。)

作業時間を見積もって呟く。いつかはこの拠点を利用するかもしれない。そう考えて簡単に塞ぐ事にした。建物の外側と内側の両側から、適当な板で塞ぐのである。これは前日から考えていた為、事前に大量の板を用意して来た。

ただ穴を塞ぐだけであれば、あっという間に終わりそうなもの。しかしルークは凝り性である。ただ穴を塞ぐだけでは満足出来なかったのだ。非常に丁寧な作業によって綺麗に外壁を修理して行った。まぁ、元の外壁に使われている板とは色も素材も異なるので、何とも言えない微妙な仕上がりではあるのだが。


見た目のちぐはぐさはともかく、仕上がりに満足したルークは急いでシノンとカノンが待つ家へと戻る。今日は休業日と言う事で、2人は家でのんびりしているはず。ルークの部屋に立ち入らないよう言明していた為、ルークは転移魔法で拠点から家へと帰宅したのだった。

自室を出て2人の部屋の前まで進むと、中から声が聞こえて来る。休日にも関わらず、どうやら勉強しているようだ。約1週間、ひたすら店の手伝いを学び続けた2人は既に学ぶ事が無くなっていた。正確には、学ぶ事はまだまだ沢山ある。しかしこれ以上は本職がするような仕事になるのだ。

ルークとしては助かるのだが、未来ある若者には好きな事を学んで欲しい。そういう想いがある以上、ルークとしては教えるべきではないと考えていたのだ。

話が逸れたが、要は2人が今勉強しているのは店の手伝い以外の事。つまりは店のメニュー以外の読み書きである。将来何を目指すにせよ、読み書き計算は出来た方が良い。2人には気が向いた時に勉強するよう伝えてあったのだ。

(本来なら1日中遊んでてもおかしくない年齢なんだけどな・・・。)

苦笑しつつもそんな事を考えながら、2人の部屋をノックする。

ーーコンコン

「はいなのです!」

元気の良い返事をシノンが返し、やがて扉が開かれる。シノンとカノンが声を発する前に、ルークは2人に声を掛けた。

「折角の休みだし、何処かに出掛けようか?」
「お出掛けなの!?」
「お姉ちゃん!早く着替えるの!!」

シノンが驚きで硬直する中、カノンは興奮しながら着替えを促す。どうやら部屋着のままだったようだ。と言うか、2人はまだ部屋着と仕事着以外の服を着ていない。可愛い服が勿体なかったらしく、何度言っても着替えなかったのだ。1着しか用意していなかったルークも悪いが、そもそも着る機会が無い。獣人差別の根強いラミス神国は、獣人の子供が気軽に出歩けるような環境ではないのだから。

今回はルークが一緒という事もあり、ついにお出掛けデビューと相成った。好奇心旺盛なカノンにとって、勉強どころの騒ぎではない。

(この子達が外出しても安心出来るように、何か考えないとな。鍛えるのが1番だけど、店番を任せられるように誰かを雇うのもアリか。でもなぁ・・・。)

そう考えながら、ルークは裏口に向かう。大人の女性と違って、幼い子供は準備に時間が掛からない。ルークの予想通り、あっという間に準備を終えた2人がやって来た。戸締まりをして、仲良く手を繋ぎながら街へと繰り出した。


丁度お昼だった事もあって適当な食堂で昼食を摂り、その後は色々な小物やら服を買い与えて夕暮れ間近。あまり連れ回すと疲れるだろうと、家路に着いて数分後。通りの先に見覚えのある顔を見つけて立ち止まった。

「お兄ちゃん?」
「どうしたの?」

突然立ち止まったルークに、手を引かれていたシノンとカノンが戸惑いながらも声を掛ける。

「あ、いや、何でもないよ。それよりも、少しだけ遠回りしていいかな?オレも王都は初めてだから、少しだけ探検してみたくて。」
「探検なの!?」
「・・・そう言う事なら仕方ないの。」

キラキラと目を輝かせたカノンに、シノンは渋々了承する。何度も休憩を挟み、移動距離自体も僅かだった為、2人はほとんど疲れていないはず。まだ連れ回しても問題は無いだろうと判断したルークは、見知った姿を追う事にした。

適度に距離を保ちつつ、2人の相手をしながら追跡を続ける。後を追う者は2人。遠目に見えたその顔に確証を持てずにいたのだが、ついに2人の顔を確認する事に成功する。

(やっぱり隣に住んでたリューさんとサラさんだ。けど、どうしてラミスに・・・?)

ルークが見つけた2人とは、エリド村でお隣さんだった夫のリューとその妻サラであった。嫁達と相談した際、恐らくはライム魔導大国に潜伏していると考えていた。しかし、その予想に反して2人の姿はラミス神国にある。その事に疑問を抱きつつ、ルークは警戒を最大まで引き上げる。

(見失うのは避けたいけど、見つかるのはマズイだろうな。シノンとカノンを連れて来たのが裏目に出たか・・・いや、これは想定外の事態だ。欲張るのは良くない。・・・やっぱり誰か雇うかぁ。)

本来であれば緊張感漂う現場なのだが、誰よりも肝が座っているルークには無関係だった。微妙に話が逸れた事も気にせず追跡を続ける。

やがて自然と人影も疎らな裏通りへと進む2人に、最大限警戒していたルークが気付く。

(2人の動き・・・村で教わった狩りの仕方に似てる?だとすると、追跡はここまでか。)

これ以上は危険だと判断したルークの行動は早い。すぐ様両手の華に声を掛ける。

「今日はここまでにして帰ろうか?」
「はいなの!」
「また今度なの!」

シノンとカノンが満足した様子に微笑みを浮かべ、家の方角へと向きを変えその場を後にするのであった。



「結局は気のせいか?」
「わからないわ。誘いに気付かれたとは思えないし・・・」

後ろを振り返って問い掛けるリューに、サラは首を横に振りながら答える。この2人、途中から尾行されているように感じた為、誘い出そうとしていたのである。だが微かに捉えた気配が消えた事で、相手が尾行をやめた気がして立ち止まったのだった。事情を知る者は当然、2人に何かあったと悟る。

「どうかしたの?」

2人の様子がおかしかった事で、遠くにいた者達が駆け寄って声を掛ける。

「誰かに尾行されてると思ったんだけどな。」
「途中で気配が消えたのよ。」

訝しげに答える2人の様子に、駆け寄ったもう1人が苦笑混じりに疑問を呈す。

「気のせいじゃないのか?」
「いいえアスコット。流石にリューとサラ2人同時となると考え難いわ。」

リューとサラの勘違いだと思っているアスコットに対し、エレナがすぐさま否定する。

「なら、誰かが居たのは確実か・・・。」
「オレ達の誘いに気付いたとは思えないだけに気になるな。」

エレナに逆らえないアスコットは、一瞬で手の平を返す。それに慣れているリューは一切ツッコまずに自らの考えを口にする。その言葉に、ふとサラがエレナとアスコットへ問い掛ける。

「2人は気付かなかったの?」
「残念だけど、私達が尾行された訳じゃないもの。この通りに入ってくれたら視認出来たのだけれどね。」
「一先ず戻ってみんなに報告しよう。」

首を横に振るエレナと同じ考えだったのか、アスコットは問題の棚上げを提案する。3人が無言で頷いたのを確認し、4人の姿は人気の無い通りの奥へと消えるのだった。


エリド村の4人の狙いは2重尾行であった。常に最低2人1組での行動を義務付け、もう1組がフォローするという徹底ぶりである。エリド村の住人達は例外無く、この行動パターンに従っている。ティナと2人で村を出たルークが同じ行動をする事は無いが、可能な限り2人1組を崩す事は無い。

非常に危険なエリド村の狩りにおいて、単独行動は避けるべきと教えられて来たからである。仮に単独で狩りを行う場合でも、離れた場所には必ず誰かが居た。ルークが狩りの最中こっそりお菓子を食べてもバレたのはその為である。


話が逸れたついでに仮定の話をしておこう。もしもルークが単独でリューとサラを尾行していた場合、確実にエレナとアスコットによって補足されていた。魔道具によって姿を偽っているが、所詮は髪と瞳が黒くなった程度である。育ての親が、子供を見間違う事など有り得ないのだ。オマケに2人と遭遇すれば、少なからず動揺しただろうという予想も出来る。

そうなれば4対1である。お互いの実力は不明だが、如何にルークが強くなっていても多勢に無勢。実力者揃いのエリド村の住人を相手にして、逃げ切る事など叶わなかっただろう。これはカレンも同様である。但し共通して言えるのは、相手を傷付けずに、という前提がつく。

まぁ、最悪転移魔法を使用すれば逃げ切れるのだが、そうなれば2度と接触する機会は訪れないだろう。そういった意味でも、ルークはシノンとカノンに感謝しなければならなかったのだ。その事に本人が気付くかどうかは別として。



嫁達、特にスフィアとカレンに対して思う所のあったルークは、自らの胸に仕舞い込むという選択を取る。これが取り返しのつかない事に繋がるのを知る者はいない。
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