Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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フォレスタニア調査隊

継承1

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夕食まで時間があるとあって、嫁会議もそこそこにユキは前世の記憶を噛みしめるように語った。誰かに頼まれた訳でもなく、ごくごく自然に自らの意思で。これにも当然の如く意図はある。

語られる内容に特別な物など一切無い。とりとめのない日常生活の事ばかり。だが聞かされる嫁達は穏やかではない。何故なら、雪と秀一の幸せな夫婦生活の記憶なのだ。自分達がどれだけ出遅れているのかを、これでもかと言う程に思い知らされる。

危機感を煽り、これまで以上に積極性を持たせようとしていたのだが、ユキの狙いなどわかるはずがない。スフィアでさえも、深く考えるのをやめて聞き入る事となった。


やがて食事の時間となり、浮かれるユキ。対象的に、他の嫁達は浮かない表情であった。だがそれも料理を口にするまでの僅かな時間。シュウ渾身の力作に、誰もが舌鼓をうつ。特製ハンバーガーを堪能し、かなり満足した嫁達。現在は1人の例外も無く横になっていた。


「く、苦しい・・・」
「もうダメ。」
「幸せだけどツライ・・・」

ハッキリ言って食べすぎである。日頃から体を使っているカレン達であれば多少は理解出来る。しかし今回はスフィアでさえ5個食べたのだ。当然フライドポテトもしっかりと。これにはシュウも呆然と眺める事となった。

「美味そうに食べて貰えたのは嬉しいんだけど、ちょっと行儀悪くないか?」
「胃を休ませる意味では、横になった方がいいのはわかるでしょ?」

皇族としてどうなのかと苦言を呈するシュウ。そんな嫁達を援護したのはユキであった。

「いや、それはわかるんだけど・・・何でユキは平気なんだよ。」
「え?だって100個しか食べてないもん。」
「「「「「・・・・・。」」」」」

まだまだ余裕だと告げるユキに、全員が言葉を失う。シュウは数を確保するのが難しいと考え、1つ1つの量を増やしていた。体を使う成人男性でも5個食べられれば良い方だ。そんなハンバーガーを100個”も”食べたのだ。”しか”とは一体どの口が言うのか。

しかしユキに余裕があるのもまた事実。何故なら、ハンバーガーを食べたのが嫁達だけではなかったから。エレナ達に転移組、果ては使用人達にも振る舞われた事で、ユキの口に運ばれる量が減っていたのだ。だがユキから不満は出なかった。そもそも、満腹になるまで食べるつもりが無かったのである。それは食後を考えてのこと。

「みんなが休んでる間に、ちょっとだけ付き合ってくれる?」
「ん?」
「私もシュウ君も体型が変わったでしょ?早めに感覚を修正しておきたいの。」
「あぁ、そういう事か。わかった。・・・悪いけど後片付けを頼むよ。ゆっくりしてからでいいからさ。」
「「「「「かしこまりました。」」」」」


みんなが寝静まった頃に1人で運動しようと思っていた為、あっさりと了承するシュウ。同じ事を考えていたと知り、ユキと共に部屋を出る前に後片付けを頼んでおく。当然使用人達も苦しんでいたのだが、雇い主に命じられては動かない訳にもいかない。決して表情を崩す事なく了承するのだった。



ユキと共にやって来たのはやはりエリド村。実は食後の運動が目的ではない。人目につかない場所で行いたい事があってのもの。

「ここなら誰にも見られる事は無いだろ。」
「そうだね。」
「で?一応聞くけど、感覚の修正が目的じゃないよね?」
「うん。・・・技の確認をお願いします。」
「本格的に神崎流剣術を継ぐつもりなんだな?」

シュウの問い掛けに、ユキは無言で頷く。そんなユキの覚悟を感じ取り、シュウは大きく息を吐く。

「型や技は婆ちゃんから教わってたと思うから心配してないけど・・・覚悟は出来てる?」
「うん。」
「そっか。だったら何も言わない、と言いたいトコだけど・・・一応言わせて貰う。神崎の技は人を殺す為のもの。半端な気持ちで振るえば自分に返って来る。常勝不敗、故に決して躊躇う事は許されない。それは誰が相手であってもだ。もしそんな愚かな真似をするようなら、当然ユキには刀を置いて貰う。それを拒むのであれば、2度と刀を持つ事が出来ないようオレが手を下さなきゃならない。それを理解した上で・・・本当にいいんだな?」
「はい!」


シュウが言った事は全て、神崎の技を継ぐ者のしきたりのようなもの。無闇に人を傷つけないよう、しかし必要とあらば迷う事なく相手を両断する覚悟があるかを問うものであった。

神崎を継ぐには、ティナは優し過ぎた。だからこそルークはティナに神崎流剣術を一切教えなかったのだ。だが基本的な剣術は教えていた。ティナに刀を持たせたのも、ひょっとしたらという想いがあったのも事実。

もしもティナがユキだった場合を考慮し、扱いに慣れていた方が良いだろうと考えての事。もしユキでなかったとしても、刀を扱えた方が何かと都合が良いのも事実。これはティナが女性だという事が大きかった。


日本刀と西洋剣を比較した場合、どちらが優れているとは一概に言えない。それは用途が異なるからだ。西洋剣、いわゆるロングソード等は押し切るのが一般的な扱い方。驚異的な身体能力ではあるが、突き詰めればティナは女性なのだ。力で考えた場合、どうしても男性には劣る。

一方、刀は引き切るもの。力はあった方が良いが、どちらかと言えば刀自体の切れ味で勝負する事となる。扱いは難しいが、使いこなせれば女性向きと言えなくもない。

多少刃が潰れても戦える剣は確かに強いが、刀の切れ味であればその剣すら両断し得るだろう。当然かなりの技術を要する事にはなるが。


こういった観点から、神崎流剣術は代々女性に受け継がれて来た。当然当主となる男性も修める事にはなるが、それは万が一の場合に後継者がいなくなるのを防ぐ為である。それはシュウにおいても例外ではない。


話を戻そう。ユキの覚悟を確認し、シュウはアイテムボックスから木刀を2本取り出す。片方をユキに手渡し、自分も木刀を構える。本来であればここから様々な型や技を教えて行くのだが、ユキには必要無い。故に今回行われるのは単なる確認。卒業試験のようなものだ。


「壱の太刀から順に、1回ずつ見せてくれ。」
「・・・行きます!」

シュウに言われた通り、ユキは次々と技を繰り出して行く。ユキと同じ技を使い、確実に受け切るシュウ。一通り確認し終え、実際に技を見せながら修正点を告げる。それを何度か繰り返し、及第点に達した段階でシュウが合格を出す。

「これだけ出来れば合格だろう。一先ずは問題無いかな。」
「一先ず?」

合格を出したにも関わらず、随分と含みのある言い方をされてユキが思わず首を傾げる。

「あぁ。婆ちゃんは幼い頃からオレと雪を結婚させるつもりだったんだろうね。だからこそ雪は早い段階で神崎の技を習得した。だけど・・・やっぱり雪が病弱だった事に変わりはないんだよ。」
「どういう事?」
「ほぼ全てを継承したけど、実は全部じゃないんだ。」
「え?」
「雪が自分の身を守れるようにって目的で教えたのもあって、全てを教える必要は無いって判断したんだ。雪の体が耐えられないのもあったらしいけどさ。」

命を奪う為の技を、自分の身を守る為に使えるように。人によっては屈辱とも言える内容に、雪は思わず思考に耽る。しかし納得がいかなかったのか、すぐさまシュウを問い質す。

「10年も努力したのに、全部じゃなかったの!?」
「残念だけど、雪の10年は健康な人の3年に過ぎなかったよ。」
「そんな・・・」
「それでも驚異的な速さだと思う。普通なら雪のレベルに至るまで10年は掛かるんだから。それも休む事なく10年、地獄のような修練をしての話。」
「全て覚えるまでに、あと何年必要なの?」
「う~ん、覚えるだけならすぐだと思う。問題なのはその後。完璧に使いこなせるようになるまで何年掛かるかは人それぞれ。ちなみに婆ちゃんは20年掛かったらしい。」
「にじゅ・・・はぁ。」

気が遠くなるような話に、ユキが溜息を吐く。そんなユキの姿に苦笑しつつ、シュウは木刀を構え直す。

「別に今すぐ全部使いこなせるようになる必要は無いでしょ?オレだって咄嗟には使えないんだし。構えなおして今から使う、って準備しないと無理かな。実戦じゃ使い物にならないけどね。」
「それでも使えるんだよね?」
「あぁ。でもそれならユキにも出来るよ。今から見せるから、ゆっくりモノにして行けばいいと思う。」
「・・・わかった。」
「これから見せるのは4つの奥義に・・・終の太刀と呼ばれる秘剣。最終奥義みたいな技だ。当てないようにするだけでも一苦労だから、絶対に動かないで欲しい。」

いつになく真剣な表情のシュウに、ユキはゴクリと唾を飲み込みながら頷いた。ユキの心の準備が整った事を感じ取り、心を落ち着けたシュウが動く。


順番に繰り出される奥義を見逃さぬよう、ユキはシュウの一挙手一投足を注視する。3つの奥義は全てユキに当たらぬように一定の距離を保って繰り出された。しかしユキの心中は穏やかではない。

(確かに威力は申し分ない。でも・・・)

最強を謳う神崎流にあって、今目にした奥義は欠陥だらけに思えたのだ。当然シュウも同じ想いを抱いている。

「わかったと思うけど、実戦じゃ使えないだろ?」
「うん。何と言うか・・・どう繋げればいいのか思いつかない感じ?」
「そうだな。他の技とは毛色が違い過ぎてて、正直オレもどう使ったらいいのか教えられない。多分女性同士、ユキの場合は婆ちゃんから教わるべきだったんだと思う。」
「それって、男性当主が理解出来ないようになってるって事?」
「あぁ。神崎の当主も人間だ。聖人君子とは限らないだろ?暴君の抑止力って意味があるんじゃないかな?」
「なるほどね。そう考えると、病弱だったのが悔やまれるかな・・・。」
「そんなのはユキのせいじゃないんだから、考えるべきじゃないよ。ユキが奥義へと昇華していけばいいんだし。」
「そう、だね・・・。ところで、もう1つの奥義はどうしたの?」

まだ3つしか見ていない事を思い出し、ユキが首を傾げる。

「もう1つの奥義は守りの技なんだよ。」
「防御?」


攻撃は最大の防御、という訳でもないが、攻めの技が主体の神崎流には珍しい響きに、ユキは思わず聞き返したのだった。
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