Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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フォレスタニア調査隊

SSS級クエスト1

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「ごめんね、シュウ君?今・・・包丁って言わなかった?」
「言ったよ。」
「神崎流は?」
「え?・・・あぁ、剣術じゃなくて体術の方?使わないよ。」
「な、何で!?」

最も得意とする、古武術と呼ぶべき体術。それを使わないとあっさり告げるシュウに、当然ユキの理解は及ばない。

「何でって、魔物相手に素手で立ち向かうのは馬鹿のする事だろ?」
「・・・・・。」

シュウの言い分はもっともである。例えるなら、素手で戦車に殴り込むようなもの。現実的とは言えない。厳密には余裕で勝てる以上、気分的な問題なのは明らかだが。


そしてユキが言葉を失ったのには、他にも理由がある。父であるアスコットが、シュウの言う馬鹿にあたるのだ。ショートソードを使うのは本気になった時のみ。

さらには包丁という、到底武器とは呼べない代物。何処からツッコんで良いのか、すぐには答えが浮かばない。むしろツッコミどころしか無い返答に、思考がフリーズしたのだが。

そういう意味では刀も包丁も大差ないのだが、これはユキの気分的な問題。普通に考えて、ライオン相手に包丁を持とうが日本刀を持とうが大差ないのだ。本当の強者であれば大抵の攻撃は躱せるし、どんな武器でも勝てる。精々1メートルの差だろう。まぁ、その1メートルが命取りになりかねないが。


「とは言っても今の所、生きた魔物を切り刻めるだけの包丁が無いんだよな。暫くは刀を使うから安心して欲しい。」
「切り刻むって・・・わかったわ。」

改めて本気なのだとわかり、ユキは説得を諦めた。大型の魔物相手ならばマグロ包丁サイズになりそうなのだから、日本刀でも変わらないだろうと思ったのは秘密である。


「じゃあ、そろそろ戻ろうか?」
「あ、待って!その前にお願いがあるの。」
「お願い?」
「みんなの親族への挨拶回りなんだけど、少し待って貰えないかな?」
「いいけど・・・何で?」
「それぞれの国が抱える問題を洗い出して、解決策持参で伺った方がいいと思うの。」
「あぁ・・・。」

ユキが言いたいのは、土産にに持って行く物を揃えようという事であった。これが平時なら、金やら美術品が好まれる。シュウはそんな物には無関心な為、それで済むなら楽だと考えていた。

だが現状を鑑みると、支援物資の類が好まれるのは確か。深刻な食料や調味料の不足は、王族にとっても例外ではない。ただでさえ、苦しんでいる民衆からは誤解を受けている。金持ちは贅の限りを尽くしているのだろう、と。まぁ、中には誤解でない者達もいるのだが。

「感覚を掴む為にも討伐、つまりは食料確保のペースを上げようと思ってるの。」
「ユキ1人で?」
「うん。でも明日は一緒にアストリア王国へ行くつもり。」
「そうなの?・・・わかった。詳しい事はスフィア達と相談してくれればいいよ。」
「ありがと。じゃあ、帰ろっか!」


城へと転移しようとしたシュウの腕に抱き着くユキ。今回の行動、嫁達を煽る意図はない。単純に秀一とスキンシップをする為のものであった。しかし、転移先に居た嫁達は穏やかでいられない。

「「ただいま。」」
「「「「「っ!?」」」」」

突然目の前に現れたシュウとユキに、嫁達が息を呑む。だがそれは、転移に驚いたからではない。幸せそうな笑顔のユキに対し、思うところがあったのだ。

「「「「「くっつき過ぎ(です)!!」」」」」
「え?あ~、ごめんね?嬉しくてつい。」

(((((怪しい・・・)))))

本心から告げたユキの言葉だったが、素直に信じられないのは若さ故だろうか。

「まぁ、ルークとティナが戻って来た事だし、話し合いを再開するわよ!」
「ごめん、ナディア。シュウとユキだから。」
「あっ・・・」
「まぁ、今はどっちでもいいんだけどな。」
「そんな事より、シュウ君は村のみんなと話し合ってくれる?」
「別にいいけど・・・ユキ達はどうするのさ?」
「私はみんなに、色々と話しておきたい事があるの。」
「・・・わかった。」

秀一の前世は話した事があったが、ユキに関しては一切触れていない。だからこそ説明しておこうと考えていたシュウの予定は、ユキによって軌道修正を余儀なくされた。しかし逆らう事も出来ず、シュウはエリド村の面々と向かい合う。そんなシュウ達を横目に、嫁達はユキの部屋へと移動するのであった。




「それじゃあ、方向性の摺り合わせといこうか。」
「えぇ。」
「摺り合わせって言っても、一体どうするんだ?嫁さん達の手伝いをさせたいんだろ?」

摺り合わせも何も、シュウの妻達の仕事を手伝って欲しい。そう聞いていただけに、アスコットが疑問を投げ掛ける。

「そうだな・・・まずは大まかに説明するけど、神器は放置しておけない。エリド達の動向もわからない以上、急いで対処すべきだろう。だからこそ、オレが全面的に協力する。それは変わらないんだが、少し事情が変わった。」
「「「「「?」」」」」
「嫁さん達の親への挨拶は延期になった。だから、確定してる問題は明日の1つだけだ。」
「本当か!?」
「あぁ。けど、アストリア王国を片付けない事には手が離せないとも言える。」
「ならば、2日後という事じゃな?」

明日中には片付くとばかりに、ランドルフが声を上げる。しかしそう簡単な事でもないと、シュウは静止するのだった。

「少し落ち着いてくれ。喫緊の課題は、あの国の事だけじゃないんだ。」
「他に何があるの?」
「ユキの事かな。」
「「「「「?」」」」」

特に急ぐような問題が思いつかなかったエレナの問い掛けに、シュウは予想外の答えを返す。当然意味のわからなかった全員が、揃って首を傾げる。

「みんなにはわからないだろうけど・・・それはオレもか。まぁ、早い話が総力を挙げてユキを抑えて欲しいんだ。」
「どういう事?」
「具体的にどうなるのかは説明出来ないんだけど、とにかく今のユキは行動が読めない。わかりやすく例えるなら、記憶を失ったカレンだと思ってくれればいい。」
「「「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」」」

シュウの例えを一瞬で理解したのだろう。全員が揃って大声を上げた。何処で何を仕出かすのか、全く予想出来ない。大きな問題を起こすと言っているのだ。

「それは幾らなんでも誇張し過ぎじゃないか?」
「大半はティナでしょ?」
「父さんと母さんの言いたい事はわかるんだが、ティナは居なくなったと考えた方がいい。ユキは完全に別人だ。」
「どういう人なの?」
「オレが知ってるのは、深窓の令嬢かな。人生の大半を室内で過ごす・・・病弱な囚われのお姫様と言った方が適切かもしれない。」
「なら大丈夫じゃないか?」

想像した姿に、問題点が見られなかったのだろう。リューが呟く。だがそれは、シュウによって簡単に覆される。

「そのままならば、って話だ。仮に、お姫様が囚われの身となった理由が病気だとしよう。それが完治したらどうなる?」
「そりゃあ・・・逃げ出そうとするかもな。」
「そのお姫様がカレンだったら?」
「「「「「っ!?」」」」」

想像するまでもない。言われた瞬間に理解した為、やはり息を呑むエリド村の者達。

「今のユキはそんな状態なんだ。いや、今の例えだと、囚えた者達に反撃して終わりだろう。その方がよっぽどマシだ。・・・国が1つ無くなるかもしれないけど。」
「それでもマシだって言うのか!?」
「あぁ、マシだ。何しろ、健康なユキなんてオレにも想像がつかないんだ。どんな問題を起こすかわかったもんじゃない。詠唱を終えた禁呪が、勝手に歩き回ってるようなもんだぞ?」
「「「「「・・・・・。」」」」」

この世界に合わせた例えに、色々と思う所があったのだろう。開いた口が塞がらないエレナ達であった。何故爆弾を用いなかったのかと言うと、この世界には国を滅ぼすだけの威力を備えた爆弾が無いからである。言われた所でピンと来ないのだ。

「悪いけど、これは比喩じゃなくて事実だ。だから総力を挙げてユキを押さえ込んで欲しい。」
「それはル・・・シュウがすべきじゃないかしら?」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、オレは準備をしなくちゃならない。ほとんどがユキの料理なんだけどな・・・。」

詳しく説明すると、神器を破壊する為には何日も掛かる。その間のユキの食事を準備しておく必要があるのだ。総勢20名のエレナ達の分だってある。調理に掛かる時間もそれなりである以上、シュウは数日間調理し続けなければならないだろう。

ユキは行動が読めない為、カレン達に食材調達を頼まなければならない。つまりストッパーが不在なのだ。

「みんなには明日1日休養をとって貰って、明後日から全力でユキを抑えて欲しいんだ。」
「そういう事なら・・・」
「別にいいわよ。」
「みんなには悪いけど、よろしく頼むよ。」

不安が見え隠れしつつ了承するエレナとアスコットに、シュウは深く頭を下げる。

「ちょっと待って!本当に私達で抑えられるのよね?」
「サラは心配し過ぎじゃねぇか?見た目は違っても、所詮はティナだろ?ならアスコットだけでも余裕じゃねぇか。」
「あ、それもそうね・・・。」
「いいや、アレン。さっきも言ったが、ユキはティナじゃない。むしろカレンが相手だと思って行動して欲しい。」
「「「「「・・・え?」」」」」

信じられなかったのか、それとも信じたくなかったのか。少しの沈黙の後、思わず聞き返すエレナ達。

「さっきも言ったけど、健康なユキはオレにも想像がつかない。ただ言えるのは、間違いなく強いって事だ。剣術だけで言えばオレ以上だろう。ユキは優しい女性なんだけど、その分冷酷にもなれる。対処を間違えば、気付いた時には全員あの世逝きって可能性もあるんだ。危険度で言えばSSSランクのクエストなのは間違いないだろうな。」
「「「「「それはちょっと・・・」」」」」
「まぁ、いきなり全滅になる事はないだろうから。安心して頑張ってくれ!」
「「「「「・・・・・。」」」」」



完全に他人事なシュウに、言い返す事も出来ないエレナ達。とてもじゃないが安心なんて出来ないのだが、自分達の願いを叶える為にも渋々引き受けるしかないのであった。
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