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コウテイペンギンの刺青
しおりを挟む彼等には刻まれていたという。
おぞましい魔獣の刺青が…。
コウテイペンギンの刺青
ひび割れの氷像
―極寒の地・吹雪流れ―
地吹雪が冷酷に吹き荒れる
その極寒の地では、「吹雪流れ」というものが行われていた。
夫となった男が、妻と子を「氷上の主」に奪われないようにと、自身の「身体」を「生き餌」とし、よその地へ逃がすのである。
だが、ほとんどの妻と子が吹雪流れも出来ずに生き絶える者ばかりで、
その吹雪流れで、生き餌となった男たちの行いは、ただ、哀れだった。
そして、ある男の旅も、のちに「冷たい旅」と語られ、分厚い本に残るだけだった。
―蝋燭(ろうそく)の民家―
最期の蝋燭が消えかける民家の中、白銀の髪をした若い男は、我が子を抱き抱える若い妻に、吹雪が止む日を再会の日として、「その日まで生きる」ことを誓った。
その直後だった。
民家の外から拷問官の脅しの声が聞こえてきた。
「誰一人として、この極寒の地からは逃れられない、それは、死を避けれぬ罪人と同じである」と。
男は、民家から飛び出すと、憎しみの眼で拷問官を睨み付け、拷問官の脚に噛みついた。
その凍える背中が、何度、冷血な棒で打たれようとも、妻と、我が子を逃がそうと必死だった。
男は、拷問官から鉄の棒を奪い取ると、その棒で拷問官の両足の骨を叩き折り、絶叫する拷問官の頭部を叩き潰した。
「追うな、追うな」と呪文のように唱えながら。
何度も、何度も、叩き潰した。
その凍える背中に、「コウテイペンギンの刺青」を、浮かび上がらせながら…。
―残された者―
男は、拷問官の死体を民家へ運び終えると、その死体を毛布で覆い隠し、妻が歩いたであろう雪の道を、足跡を辿るように歩いた。
しばらくすると、雪の赤い絨毯の上に、何かが転がっているのが見えた。
我が子だ。
男は、急いで我が子を抱き抱えると、民家へと連れ帰った。
そして、その冷たい身体を毛布で包み、まだ呼び慣れない我が子の名を呼び続けた。
男が、我が子をしばらく抱きしめていると、天使が微笑んだかのように、その身体があたたかくなり、男の腕の中でかすかに動いてくれた。
「良かった、生きていた」
男は、安堵の表情を浮かべていた。
―妻の行方―
我が子は、ここにいる。
だが、妻の行方が気になった。
妻を責める気はない。
妻も生き延びようと必死だったに違いない。
あの拷問官は、もう動かないからいいとして、他の拷問官は、いまだに獲物を求めている。
男は、妻の行方が心配だった。
―待つ人―
男は待つことにした。
地吹雪が止む、遠い日を。
男は、いつになっても父親の名を呼べない、未熟な我が子を必死に育て、いつの日か、我が子を抱き抱えて、妻との再会を夢見ていた。
だが、その間にも、たくさんの人が雪のように消え、無意味な吹雪流れは続いた。
男は、虚ろな闇の中、願いを呟いた。
「我が子をみせたい」と。
―吹雪の訪問者―
しばらく眠っていると、眠っている内に誰かが民家を訪問したのか、テーブルの上に三日分の食料と、「分厚い本」が置かれていた。
男は、三日分の食料を、神からの授け物として食うと、我が子の口にもそれを優しく当て、最後にその分厚い本の、しおりの挟まれたページを開いた。
そこには、「コウテイペンギンの刺青」と、黒文字で書かれていた。
―冷たい旅へ―
それは、冷たい旅をする、ある父親の物語だった。
男は、読み上げる。
「父親は、妻子を吹雪から守り、最期には太陽に抱かれる 強く儚き者」と。
男は、頬に涙を伝わせながら、その全てを読み解いた。
そして、後ろから近付いてくる「黒いローブの男」の声に耳を傾けた。
【見捨てられた、ひび割れの氷像よ、待つ者として、たった一人でその儚い生涯を終えるか、儚い時を信じ、太陽を目指すかを選べ、太陽をめざせば、お前の望みは見えてくる、だが忘れるな、見えてくるだけだけで、お前からは触れられない、
氷像は動けない】
男は、涙の絶叫をあげた。
そして、我が子を抱き抱えて、旅立った。
黒いローブの男は、男に捨てられた分厚い本を拾い上げ、無表情で呟いた。
「気付かぬのも幸福か」と。
―行方―
我が子を抱き抱えた男は、冷たい旅へと旅立ったが、その旅の結末は、決して「幸福」などではない。
ある詩人もどきは、男が氷像となった後に、妻がその身体をあたためて奇跡が起きたと歌うが、
真実を眼にした詩人は、その妻の絶叫する姿を見て、「真実は、いつも残酷だ」と、頬に涙を伝わせたという。
吹雪流れで、妻子を失った男、
その男の、「我が子」を抱き抱える両腕には、
氷像の父鳥(ちちどり)
「コウテイペンギンの刺青」が、冷たく刻まれているという…。
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