透明な貴方

ねこまんまときみどりのことり

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後編

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「ま、まさか、父上なんですか? だってずっと仮死状態の装置に入っている筈では? それに俺より若いなんて……。どうなっているんですか?」

 祖母ラセリンが戻って来るようにと連絡していたのに、結局いつも通り3日後の仕事終わりに帰宅した父ダントス。

「お、お疲れ~。元気そうじゃないか?」
「手紙に書いたでしょ、ダントス。お父様の病気が治ったから、魔棟から戻って来ると。まさか読んでないの?」

 ラセリンの呆れた声に途端に焦るダントス。
「読んだような、読んでないような」と、明らかに読んでいないことが露呈した。
 だからこその、今の帰宅。

 折角の親子水入らずと思っていたのに、連絡がつかないままだったので、友人達と宴会をしていたのだ。

 以前の邸とは打って代わり、静かな公爵邸が賑やかだ。現在は祖父ロッキーの友人達が集まり、昔話に花が咲く。


「何だよ、お前。暫く見ないと思ったら、若いまんまじゃないか? 髪ふっさふさで羨ましいなぁ」

「そう言うなって。ずっと眠ってたから腰が痛いんだよ。なんてったって、20年だからな。ワハハッ」

「そりゃあ、つれえな。やっぱこのままで良いや」

「健康第一だ。でも今日は飲もうぜ!」

「「「「「さんせ~い!!!!!」」」」」

 おう、飲もう、飲もうと、楽しい酒盛りが始まる。
 口は悪いがみんな心配していた。
 だから全員が唐揚げをツマミに、大きいジョッキでエールをグビグビと呑んで満面の笑みを浮かべている。

 
 ロッキーの友人の妻達は、ラセリンと旧知の仲だ。夫組とは少し離れ、妻組はワインとチョコレートやケーキの甘味で乾杯する。

 ラセリンの献身を知っているから、泣きだす者も数人いた。

「うっ、よく頑張ったわね。先が見えない治療だったのに」

「本当よ。貴女は偉いわ。私なら諦めていたかも」

「ず~っと、働き詰めだったものね。ぐすっ、貴女の頑張りを神様が見てたんだわ。私も願いを捨てないことにするわ」

「それにしてもロッキーは、若いままね。時間が止まったみたいに」


「来てくれてありがとうね、みんな。……私ね、彼に聞いたの。私だけ年をとってしまって、嫌じゃないかって。そしたらそこまで頑張ってくれた私だから、大好きだって言ってくれたの。……それにね、眠っていた筈なのに、何となく今までのことを知っているのよ。
 私が話かけていたことを聞いていたみたいに。姿は昔のままだけど、ちゃんと一緒の時間を生きてこられたんだなぁって、勝手に思ってるのよ」

「そうね、そう思うわ」
「私もよ。愛する人の意識がなくなっても、生きていてくれるだけで良い、ありがたいと思うのに、記憶が共有できていたなんて、奇跡だわ」

「カトレア……ありがとう。本当に私は恵まれているわ。姿なんて関係ないわよね」

 ラセリンは涙ぐみ、病で夫を亡くしたカトレアは、自分のことのように喜んでくれていた。



◇◇◇
 そんなテンションに、途中参加のダントスが加わることも出来ず、食堂で静かな晩餐を摂る。
 夫人達に可愛がられていたマーシャも、夕げを食べて眠る為、共に食堂の席に着いていた。

 たとえ二人でも、席はいつもと同じで少し離れていた。ダントスが上座に座り、祖母の席、マーシャの席と指定の場所があるからだ。

 既にダントスから気持ちの離れている彼女は、無言のままで食事を口に運ぶ。ロッキーが帰ってからずっと楽しい気分のマーシャは、この時間もいろんなことを思い出しながら笑顔で食事をしていた。
 見切りを付けた父親のことなど、透明人間のように気にしていない。何か言われても、きっと聞き流せるだろう。

 ラセリンの気持ちは分かったし、ロッキーは思いの外彼女を可愛がってくれるから、追い出される心配もしなくなった。
 すっかり元気に回復したロッキーは、ダントスが多忙で領地の仕事が出来ないなら、自分に当主を戻そうかとも話していた。
 実質の仕事はラセリンが行っていた為、周囲も反対しないだろう。普通は年齢的に息子に爵位を譲るが、肉体年齢が若く人望があるロッキーなら、戻した方が良いとさえ思えた。


 いろんなことが、うまく行かなくなっていくダントス。

 この邸では彼だけが孤立していた。
 たった3日で。

 暴言は言った方はノリや勢いだが、言われた方は忘れない。だからまあ、父子の会話なんて始まることもなく。いくら俺様のダントスでも、それくらいは察していた。

(まあ、あの時は少し言い過ぎたけれど……。確かにこいつは挨拶もするし、嫌悪する顔も向けては来ないけれど、何か変な感じがするんだ。うまく表現が出来ないけど)

 僅かな違和感だけは感じていたようだ。

「ご馳走さまでした。お先に失礼いたします」
 綺麗な礼をして立ち去るマーシャ。

 一人残され、さらに静寂が部屋を支配していく。
 愛人に逃げられ、心もとない日々が続いていた。

 娼館で欲を発散しても、気持ちは満たされない。

「それにしても母上の笑顔、久し振りに見たな……」

 
 彼は暫くぶりに、家族のことを考えていた。



◇◇◇
 その後に、落ち着いた日々が戻って来た。

 今までの執務室はラセリンのいる場所だったが、今はロッキーが彼女に教えを乞うていた。

「ほお。公爵領の収入は、俺がいた時よりかなり増えているな。頑張ってくれたんだね」

「頑張ると言うか……ガムシャラでした。こちらとは別に商会のこともあるので、寝る間もないくらい。でも魔棟と共闘した商会は、貴方のお陰で大繁盛ですから、人も雇えるようになりました。若返りカプセルが大人気なんですよ。
 高額魔導具だから個人では持てなくとも、商会で時間いくらで使用できるようになっているのです。老けない=若返りと言っても良いでしょ。今一番の関心事ですわ。

 お金持ちには、魔導師込みでレンタルもしているんです。魔棟の魔導師じゃないと扱えないし、類似品も作るのは困難ですわ。まあ私はいつもマイナス覚悟で投資してきたので、彼らからの信用度が違うのです。
 言いなりにしようと彼らに戦いを挑んだとしても、魔法でのされるのが分かっているから、王族だって手出ししませんわ。レンタルはしているようですがね」

 ラセリンは笑顔でロッキーを見つめる。
「ご苦労様。今後は俺が仕事を引き継ぐよ。別に金はいらないから、お前が自由に使うと良い。恩返しさせてくれ」

 優しく肩を付けて寄り添い囁くロッキーに、「じゃあ一緒にしましょう。急に暇になるとボケちゃうから」と笑う。

「そうだね。いつも一緒にいよう。たくさん旅行もしよう。俺はずっとお前に夢中だ。また会えて良かった」

  抱きしめられて体温を感じるラセリンから、涙が一筋流れた。
「それは私の台詞よ。お帰りなさい、ロッキー」

 何度でもこの奇跡に感謝し、強く抱き合う。
 夢に消えてしまわないように。



 そしてぽつり……と、ラセリンが呟く。
 本当は隠しておきたい事実を、今日は聞いて貰おうと決心し。

「実はね、ダントスは子供の時に流行り病で高熱が出て、子種がなくなったの。貴方が魔棟で装置に入ってからのことよ。
 私はあの子と仕事を抱えて余裕もなくて、つい可哀想で甘やかしてしまった。結果的にそれが、あの子を不幸にしてしまったわ」

「ちょっと待て。じゃあマーシャは、誰の子だ。母親のケリーはダントスを裏切ったのか?」

 さすがのロッキーも驚愕し、おずおずと尋ねた。

「違うわ。私が彼女に頼んだのよ。ダントスと結婚して、恋人との子を産んで欲しいと。公爵家を存続させる為にお願いしたの。
 当時の私はいかにして、公爵家を維持しようか悩んだわ。それと同時にあの子ダントスに子種がないことも話せずにいたの。
 窶れていく私にケリーが声をかけてくれた。そして打ち明けると、ダントスと結婚することを承諾してくれたの。そして……今の夫であり、当時の恋人である伯爵との子を私に託してくれた。恋人とも別れてくれたの」

「どうして……そこまで。ケリーは最初から離縁を予定していたのか? それならあまりに酷いことだ」

「いいえ、それは違う。彼女は生まれた子と、ダントスとで生きていくつもりだったの。その決意で嫁いでくれたわ。
 当時王妹のケリーと、伯爵令息であるカロンの結婚は身分違いで国王に認められなかったの。条件の合う令息が少なくて、国外も視野に入れていたそうよ。
 その条件の合う令息の1人がダントスだっただけ。もっとも子種のことが知れれば、除外されたでしょうけれどね。
 彼女は尽くしてくれたのだけど、内弁慶のダントスは酷く彼女に我が儘だったわ。外面は良いのに、家族になった途端、自分の方が偉いと威張って。そして王妹を娶った自分は優秀なんだと、浮気まで繰り返すようになって。
 だから私もケリーも、諭したり諌めたり努力したのだけど、反発して暴力を振るうようになって。
 結局その後は妊娠した体を労り、当たり障りない対応をすることになって、出産後に離縁になったの。
 最後までマーシャを連れて行きたいと泣かれたわ。でも私も絶対マーシャを守るから、立派な淑女にするからと譲らなかったの。
 それからはマーシャに暴力がいかないように、そっけない振りをしたり、目立つことを避けてきたわ。あの子はずっとケリーの悪口を言うから心配で。
 本当は可愛がってあげたかったし、誕生会もしたかった。けれど私も仕事に忙殺されて構えなくて。ケリーと約束したのに、う…うっ、ぐすっ」

「そうか……俺がいない時に、たくさんの決断をさせてしまったんだな。すまない……」
 
 苦渋に満ちた表情の彼から、掠れた声が紡がれる。
 それが苦しくて、ラセリンは「私のせいなの。私の……」と、庇い合う。

「前王弟である貴方の、王族の血筋はケリーが補ってくれたから、公爵家の血筋としてマーシャは正統だわ。この家を継ぐ資格は十分あるの。
 本当はケリーとダントスと、マーシャの3人で幸せに暮らして欲しかったのに。
 けれどケリーの恋人だったカロンは、ずっと独身でいたの。何れ優秀な養子でも引き取るから、このままでいさせてくれと両親を説得して。そこにケリーが離縁したから、国王も折れて2人は結ばれたのよ。カロンは全て知っていて、彼女を受け入れてくれたの。マーシャのことも何かあれば、いつでも引き取ると言ってくれているわ」

「そうだったのか。疑ってしまい、ケリーには悪いことをしたな。……ダントスは自分で幸せを逃がしたのか。ケリー達を大事にすれば、人並み以上に暮らせたものを。だが、さすがにマーシャには話してないのだろう?」

「ええ、まだですわ。ですが聡い子です。何か感じ取っているかもしれません。逆に冷遇されてきたせいで、自分には価値がないと思っているかもしれません」

「それはいかんな。明日からは、もっと爺が甘やかしてやろう!」

「程ほどでお願いします。ダントスは私のせいなのですが、同じになってしまうかもしれませんから」

 苦い顔のラセリンをワハハッと笑い、大丈夫だと優しく肩に手を置くロッキー。
「叱る時はしっかりやるよ。それにもう、マーシャは芯が出来ているから、可愛がって問題ないと思うぞ」

「そう、ですか? でも……まだ会って数日ですし」

「あの子とは開かず部屋で会っているんだ。俺の姿がバッチリ見えてたようだ。霊媒の素質がありそうだぞ。その時に爺ちゃんだと自己紹介して、いろんなお喋りをしたんだ。受け答えがしっかりしとった」

「まあ、そんなことが! あの日は外出中に、ダントスの愛人が妊娠していると耳にしたんです。それで気分が不安定なところに、執事からダントスとその愛人が邸に入って来たと耳打ちされて。さすがにマーシャには会わせたくなくて、無理矢理怒って開かずの部屋に入れたんです。可哀想なことをしました。
 あの愛人はなかなか帰らなくて、結局迎えに行くのが夜中になって。
 それなのに夕食の席で愛人が妊娠したから結婚するとか、マーシャはいらないとか言いたい放題で。さすがに切れて、いろいろやりましたよ。言うに事欠いて妊娠だなんて宣うジーニルア伯爵家には、タップリ脅しをかけときましたわ。
『ダントスに子種がないのに、どうやって妊娠したのか』とね? でも最初からないのか、病気でなくなったのか、マーシャがいるから他に庶子ができないように薬を盛ったのかは、分からないでしょ?
 だから詳細は伝えずに、今のダントスを診察させてなければ託卵と見なし、簒奪として国王に訴えると脅したの。実際ないのだから検査されてもこちらは困らないし、ダントスもそろそろ真実を知る機会になるから良いかと思って。……こんな怖い女嫌いになった?」

 上目遣いのラセリンが可愛らしくて、また抱きしめてしまうロッキー。
「嫌いになる訳ない。貴族然としたとこ見たかったなぁ、もう大好き」


 何があっても愛しさしかない2人は、いつまでも語り合うのだった。
 



 ちなみにラセリンは、マーシャがロッキーと話したと言っていたことを、夢でも見たのだろうと思っていた。可愛い孫のことだから、否定しないで聞き入れていたのだ。
 それは妻の自分でさえ、彼の霊体を見たことがなかったからだ。
 なのでラセリンは孫の潜在能力に、今さらながら驚くことになる。

『家のマーシャ、スゴいわ!』と。





◇◇◇
 それから2か月してロッキーが仕事を覚えた頃、国王と王妃からの推薦により、当主がロッキーへと変更された。

 王宮の執務室にロッキー、ラセリン、ダントスが呼び出され、国王夫妻から内々に話をされたのだ。

「今までの領地経営はラセリン夫人が行っていたと、茶会の時に聞いたわ。貴方は宰相補佐で多忙だそうじゃない」
「そうだぞ、ダントス。今まで背負っていた荷物を少し降ろして、婚活でもすると良い。なに、次期公爵の地位は変わらないのだ。大して身分は変わらんじゃろ。ロッキーよ、またよろしくな。夫人も若返りカプセルの値段をもう少し下げておくれ。国が傾くから」

「おう。よろしくな、親友。薄くなったな……苦労したんだな」
 しんみりしてふざけるロッキーに、全力で笑う国王。人目の少ない執務室で正解だったと王妃も微笑んだ。

「若返りカプセルは本来、医療用なので。でも生産には力を入れますわ」

「お願いね、ラセリン夫人。やっぱりカプセルで寝ると、調子が良いみたいなのよ。気の持ちようもあるとは思うのだけど……ロッキーを見ると期待しちゃうわ。ふふっ」


 機嫌の良い国王夫妻に、宮仕え中のダントスが逆らえる筈もなく、あっさりロッキーが公爵に返り咲いた。

「こんなことって……。まあ、父上がいてくれるなら良いか」



 その後ダントスは愛人も作らず、宰相補佐を懸命に取り組んだ。
 「父上に褒められたいから張り切った」と、後から恥ずかしそうに言うダントスは、「そうか。偉いなぁ、よくやったぞ!」と、ロッキーに思いきり抱きしめられて苦しそうに呻きながらも、すごく嬉しそうだった。



◇◇◇
 思えば5歳でロッキーと別れていたダントス。
 ラセリンと魔棟に訪れ、眠るロッキーが死んでいるように思えて、恐怖で会いに行けなくなった。

 それからは回復することはないと割りきり、彼なりに頑張って来たのだ。まあ空回りも多分にあったが。


 その後あっさり、ロッキーに「ああ、お前は子種ないからな」と告げられるのだ。ちょっとだけ改竄して。

 マーシャが生まれた時は普通だったが、不摂生のせいで減退したようで、もう子は作れるような精子はなく、ブレンダの妊娠はあり得ないと説明したのだ。

 ダントスは以前に飲み過ぎて頭を打ち、気絶して医師の診察を受けたことがある。その時に全身の検査をして発覚したのだと言う。

「そ、そんな、じゃあ俺は、たった1人の子供に酷いことを言ったのか? あぁ、許して貰えるだろうか?」
「まあ、謝れ。それしかないだろ? 俺から見ても、引く態度だぜ。酷いなぁ、俺の息子ぉ♪」

「あぁ、何でそんな他人事なんですか? 一緒に考えて下さいよ」
「俺ならぜっっっったい、言わないから。分かんないよ」

「そんなぁ。どうしよう~」



 オロオロするダントスだが、真実を知る者は静かに見守ることにした。マーシャの思うようにと、手助けはせず。

 まあ、その後5年は冷戦が続き、次第に軟化する未来。
 もし一人娘じゃなくても、あれは下衆の極みだと思うから丁度良いのかも。

 

◇◇◇
 マーシャは成人後本当のことを聞かされ、母ケリーと異父妹(本当は実妹)マリアと交流を持ち、超仲良しになった。生物上の父、カロンとも、伯爵邸で会話をする機会にも恵まれている。その優しい眼差しは、愛されている気分になる。

 けれど本当の父親は、ダントスだと決めているマーシャ。
 ずっと一緒で、近くにいたのは彼だからだ。

(嫌だったり、憎らしかったり、イライラすることもあったけど、今は祖父といるせいか、少し成長している気がする。
 人の気持ちを考えてくれるようになったしね。的外れのこともままあるけれど)

 それでも子供に戻ったように、たくさんのことをロッキーと話すダントスが、最近可愛く見えてきたマーシャ。見た目ならマーシャとロッキーが、兄妹のようなのに。明らかにダントスよりロッキーが年下に見える。

 それでもラセリンとロッキーの年の差があるように見える2人は、いつでも仲良くしている。周りがなんと言おうが、本人達が良ければそれで良いのだ。


「お父様。今日はローザナ様が来るのでしょ? 仕度は出来たの?」
「ああ、今終わる。でも何でお前が張り切ってるんだよ?」

 眠れなくてぼーっとしていたダントスは、憧れの女性ローザナを公爵邸に招待することに成功したのだ。それには改心したダントスと、ロッキーとラセリンの人脈の力があった。
 夫と死に別れ生家に戻っていた方で、女児(7歳)の連れ子がいる。何度か彼女の生家でも会い、その女児とも仲良くなれたと言う。

(うまくいけば良いわね。お父様)


 もうすぐ婿を取り結婚するマーシャは、心からエールを送る。





◇◇◇
『トランスペアレント』
 物理的に光を通す「透明な」という意味。
比喩的に「隠し事のない」「明確な」という意味でも使われる。

 
 マーシャにとってあの時(昔)の父親ダントスは、少し透けていた祖父ロッキーよりも存在感のないモノだった。
 明け透けで陽気なロッキーは、彼女の心を楽しませ癒した。

 人が本当に求めるものとは、見た目や身分なんかではなく、寄り添う心なのかもしれない。

 それが親子でも、恋人でも、ペットでもその心がなければ、どんなに豪勢であったり見た目が良くても価値はないのかもしれない。


 少なくともマーシャは、そう思うのだった。



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