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《過去》 ミカヌレの立場
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「私は未だ、クルル・ミズレーン様の手下の一人に過ぎない。だからこそワッサンモフ公爵家の様子を手紙で送れと言われているけれど、何も有益な情報は掴めないままだ。このままでは、コロネの身まで危なくなるかもしれないわ」
ミズレーン伯爵家は、クロダイン公爵の配下である為、指示がなくなるまでは諜報活動を続ける必要がある。
以前の彼女ならしくじって逃走に失敗しても、己の命一つで済んだが、今はコロネがいる。
愛されずに生きてきた自分が、10か月を共に過ごしたことで愛おしい存在になった我が子。
「この子だけは守りたい。その為なら何でもしよう」と強く思っていた。
けれどスライストの執務室には長く勤める家令が常に睨みを利かせているし、持ち前の愛嬌で仲良くなったメイド達からでは何も情報は得られない。
侍女は丁寧に自分を扱ってくれるが、気の置けない仲にはなれないでいた。
日記のような情報しか送れない現状でも、幸いにして特に不満の手紙は送られて来なかった。
下手に情報を隠しだてて、ミカヌレが裏切ったとは思われていないようだ。
丁度その頃。
クロダイン公爵家はベグルの嫁選定の真っ最中で、ミカヌレのことなど思い出しもしていなかった。
彼女はハニートラップ要員として育成されていた為、普通の隠密のような教育からは少しずれていた。
対象の相手を鋭い目で観察することで警戒されることがないように、そこら辺の教育(相手の動きや殺気から、力量を図る訓練など)を受けていない為、この公爵家の異常さに気付かない(気付けない)。
クロダイン公爵はミズレーン伯爵家を手足として使い、護衛だけは彼らに依頼して公爵邸で暢気に過ごしていたが、ワッサンモフ公爵家では常に主人の傍には最高の守護者となる使用人が配置されている。
スライストはそれが当たり前だと思って暮らしていた為、他所でも同じだと思い過ごしていた。
今ミカヌレが、最もホットな敵認定されていることなんて、気付くこともなく。
彼にしてみれば大好きな妻と可愛い娘に囲まれた、幸福な家庭としか思えていない現状だった。
腹黒いセサミは、その様子を楽しげに観察している最中だ。爵位はスライストに譲っても、実権は彼が握ったまま。使用人達の特殊性や彼らにどの程度の命令ができるのかも、知らされていない。
当たり前のことだが、ミカヌレの出す手紙も受け取る手紙も使用人のチェックが入っている。クロダイン公爵家やミズレーン伯爵家、その他の主要な貴族家の蝋印など、とっくの昔に作成済みである為、再印などお手のもの。たとえ当主であっても、蝋印の区別はつかないような精巧さで。
常に監視下に置かれ愚かな女だと認定されながらも、我が子への愛だけは周囲にも伝わっていた。
幼い時から日陰の身で生き、生に執着もなかったと詳しい調査をされた彼女が守る唯一。
夫への愛情は薄いが、コロネへの気持ちだけは偽りではないと、日に日に確信は深められていく。いつの間にかそれは、使用人達への同情にも繋がっていた。
(女としてどんなに辛い気持ちだったのか、私には想像しかできない。でも……コロネに向けるあの眼差しは、とても優しい。誰かを憎むこともなく、いつも慈愛に満ちているし……。)
子を守りたい母親の気持ちに打たれ、ワッサンモフ公爵家の者達は次第に心を許していくのだった。
ミズレーン伯爵家は、クロダイン公爵の配下である為、指示がなくなるまでは諜報活動を続ける必要がある。
以前の彼女ならしくじって逃走に失敗しても、己の命一つで済んだが、今はコロネがいる。
愛されずに生きてきた自分が、10か月を共に過ごしたことで愛おしい存在になった我が子。
「この子だけは守りたい。その為なら何でもしよう」と強く思っていた。
けれどスライストの執務室には長く勤める家令が常に睨みを利かせているし、持ち前の愛嬌で仲良くなったメイド達からでは何も情報は得られない。
侍女は丁寧に自分を扱ってくれるが、気の置けない仲にはなれないでいた。
日記のような情報しか送れない現状でも、幸いにして特に不満の手紙は送られて来なかった。
下手に情報を隠しだてて、ミカヌレが裏切ったとは思われていないようだ。
丁度その頃。
クロダイン公爵家はベグルの嫁選定の真っ最中で、ミカヌレのことなど思い出しもしていなかった。
彼女はハニートラップ要員として育成されていた為、普通の隠密のような教育からは少しずれていた。
対象の相手を鋭い目で観察することで警戒されることがないように、そこら辺の教育(相手の動きや殺気から、力量を図る訓練など)を受けていない為、この公爵家の異常さに気付かない(気付けない)。
クロダイン公爵はミズレーン伯爵家を手足として使い、護衛だけは彼らに依頼して公爵邸で暢気に過ごしていたが、ワッサンモフ公爵家では常に主人の傍には最高の守護者となる使用人が配置されている。
スライストはそれが当たり前だと思って暮らしていた為、他所でも同じだと思い過ごしていた。
今ミカヌレが、最もホットな敵認定されていることなんて、気付くこともなく。
彼にしてみれば大好きな妻と可愛い娘に囲まれた、幸福な家庭としか思えていない現状だった。
腹黒いセサミは、その様子を楽しげに観察している最中だ。爵位はスライストに譲っても、実権は彼が握ったまま。使用人達の特殊性や彼らにどの程度の命令ができるのかも、知らされていない。
当たり前のことだが、ミカヌレの出す手紙も受け取る手紙も使用人のチェックが入っている。クロダイン公爵家やミズレーン伯爵家、その他の主要な貴族家の蝋印など、とっくの昔に作成済みである為、再印などお手のもの。たとえ当主であっても、蝋印の区別はつかないような精巧さで。
常に監視下に置かれ愚かな女だと認定されながらも、我が子への愛だけは周囲にも伝わっていた。
幼い時から日陰の身で生き、生に執着もなかったと詳しい調査をされた彼女が守る唯一。
夫への愛情は薄いが、コロネへの気持ちだけは偽りではないと、日に日に確信は深められていく。いつの間にかそれは、使用人達への同情にも繋がっていた。
(女としてどんなに辛い気持ちだったのか、私には想像しかできない。でも……コロネに向けるあの眼差しは、とても優しい。誰かを憎むこともなく、いつも慈愛に満ちているし……。)
子を守りたい母親の気持ちに打たれ、ワッサンモフ公爵家の者達は次第に心を許していくのだった。
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