弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

文字の大きさ
7 / 17

《過去》 コロネへの気持ち(ミカヌレ) その2

しおりを挟む
 ミカヌレは、このまま無事に過ごせると思うほど、楽観的に考えてはいなかった。

(何れ私は、ミズレーン伯爵から役立たずで用なしと判断されるだろう。幸いにしてコロネはスライストの子供だから、きっと守られるはずだ。私が傍にいない方が良い時期が、近々来る。今のままスライストが私にベタ惚れなら、私の身柄を人質のようにして、要求をのませようとする可能性は十分にあるのだから。

 そんなことになるくらいなら、私から身を隠そう。コロネにはその前に、できるだけ生きる術を伝えなければ)



 ミカヌレ以外はこの結婚自体が、ワッサンモフ公爵家にダメージを負わせるものだと分かっていた。それなのに彼女だけがそれを知らず、いつも怯えて暮らしていた。

 いつまでも幸せ過ぎる環境は、彼女に不安を与えたのだ。

「もしコロネやこの公爵家が、私のせいで不幸になるようなことがあれば自分を許せない。そして最悪の場合、私のせいでコロネがここを追われることも考えて行動しよう。一人でも生きていけるように」


 一度懐に入れた者を理不尽に手放すことは、ワッサンモフ公爵家の家訓には存在しない。昔から、そんな団結の元に生きてきたからだ。

 若いメイドや侍従達は遠縁に当たる者が集められており、家令や侍女長に認められて徐々に側近になる。

 だからこそ上が認めたことに逆らうことはない。また許されないことも理解している。



 スライストの子であるコロネは害されないし、スライストの妻であるミカヌレも守られる対象である。

 側近達は何もかも理解した上で母子に接することになり、彼らを害そうとした使用人は他家の諜報だと疑い、泳がせて処すことになるだろう。


 ワッサンモフ公爵家は、そんな家だった。




◇◇◇
「何も悪くないのに、私のせいで生まれる前からその存在を疑われた可哀想なコロネ。でも貴女には何があっても生き抜いて欲しいの。たとえここを悲しく追い出されても、誇りを捨てない方法で生きて欲しい。身分に拘らなければ、教育を受けた貴女なら、きっとどこででも生きていけるはずだから」


 そう願うミカヌレは、子を愛す母であった。

 彼女は隠密の経験とこの公爵家で学んだことを、娘に伝え残そうと頑張った。

 最初にしたことは、まだ幼くて字も理解できないコロネに、手書きで絵にした食べられる植物と食べられない植物を教えることだった。
 
 それは自らが体験した、教育と言う名の餓死対策だった。
 満足に食事が与えられない幼少期は、いつも空腹を抱えていた。伯爵家に引き取られた(本当は買われた)彼らは、思えばそこから洗脳されていたのかもしれない。

「生きたければ、食べたければ、逆らわずに言うことを聞くように」と。

 言うことを聞いても空腹は辛く、生き残れない者も多かった。裕福な大人達は命を使い捨てることに躊躇がない。時に面白がってさえいた。


 そんな子供達に手を差し伸べるのは、同じ境遇で生き延びた孤児の先輩達だけだ。
 自らが食して大丈夫だった木の実やきのこと草、木や花の甘い樹液、美味しそうな果物に見える山の果物も毒を含むものがあることを、教えてくれたのだ。

 何の知識もない幼子にとって、彼ら先輩こそ兄や姉、親代わりだった。そんな彼らでさえ、任務により命を落として帰らなくなるのだ。そんな日々をミカヌレを何度も体験した。

 決して甘いだけではないが、親身になってくれる大人は先輩だけ。幼い仲間達は、まだ泣くことしか出来なかった。明日生きているのかもしれない、凍えるほどの薄氷の上に存在していた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使い捨て聖女の反乱

あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

私の愛しいアンジュ

毒島醜女
ファンタジー
横暴でメンヘラなアンジュ。 でも唯一の妹だと思って耐え、支えてきた。 そんな時、妹が取り換えられた子だと判明した。 本物の私の妹はとてもいい子でこれからも上手くやっていけそう。 一方で、もう片方は……

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

魔女見習いの義妹が、私の婚約者に魅了の魔法をかけてしまいました。

星空 金平糖
恋愛
「……お姉様、ごめんなさい。間違えて……ジル様に魅了の魔法をかけてしまいました」 涙を流す魔女見習いの義妹─ミラ。 だけど私は知っている。ミラは私の婚約者のことが好きだから、わざと魅了の魔法をかけたのだと。 それからというものジルはミラに夢中になり、私には見向きもしない。 「愛しているよ、ミラ。君だけだ。君だけを永遠に愛すると誓うよ」 「ジル様、本当に?魅了の魔法を掛けられたからそんなことを言っているのではない?」 「違うよ、ミラ。例え魅了の魔法が解けたとしても君を愛することを誓うよ」 毎日、毎日飽きもせずに愛を囁き、むつみ合う2人。それでも私は耐えていた。魅了の魔法は2年すればいずれ解ける。その日まで、絶対に愛する人を諦めたくない。 必死に耐え続けて、2年。 魅了の魔法がついに解けた。やっと苦痛から解放される。そう安堵したのも束の間、涙を流すミラを抱きしめたジルに「すまない。本当にミラのことが好きになってしまったんだ」と告げられる。 「ごめんなさい、お姉様。本当にごめんなさい」 涙を流すミラ。しかしその瞳には隠しきれない愉悦が滲んでいた──……。

逆行転生って胎児から!?

章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。 そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。 そう、胎児にまで。 別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。 長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

【完結】私は、幸せ者ね

蛇姫
ファンタジー
奇病を患った少女は笑う。誰よりも幸せそうに。 ショートショートは完結ですが、恐らく短編になる同作品を執筆中です

処理中です...