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居座るクリム一家
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クリム一家は追い出されないのを良いことに、子爵家には帰らないままだった。
父セサミからは、
「ワッサンモフ公爵家のことは、政略結婚を無視して婿入りしたお前には関係のないことだ。訪問くらいは構わないが、余計な真似はするな」と言われていたのに。
彼は次男として厳しくされなかった為、セサミの性格をあまり分かっていなかった。その辺のことは、多くの時間を過ごしたスライストの方が、余程熟知していた。
(いつも微笑んでいる父だが、普通家族にまでそうはならないぞ。いわゆる偽りの微笑みなんて……。
あのクールに見える細いつり目なのに、相手の懐に瞬時に入り警戒心を解いてしまうのは異常なスキルだ。絶対に敵に回したくない)とスライストは思っており、公爵家の権限はセサミが亡くなるまで当然その父が握ると考えていた。
才ある者が担当するならそれに越したことはないと、逆らう気持ちも持てなかった。
彼が唯一反抗したのはミカヌレとの結婚、そして失踪した彼女の捜索のことだけだった。
スライストは怪物のような父を敵にまわすくらい、心から彼女を愛していた。
◇◇◇
「お父様。私、この邸に似合うドレスが欲しいわ。ねえ、良いでしょ?」
「私は女主人として、安物の真鍮よりルビーが欲しいわ。勿論良いわよね?」
「良いぞ、良いぞ。いくらでも買うと良い。この公爵家には俺の力が必要なのだから。文句は言わせんぞ。ワッハハハ」
「素敵よ、お父様♡」
「頼りになるわ~。さすが愛する旦那様ね♡」
「そうだろう、そうだろう。ここは俺の家だからな。遠慮なんてするな」
物欲が止まらず、弛み切った頬のまま散財を繰り返すクリム一家。止める者がいない為、やりたい放題だ。
セサミに止められていたにも拘わらず、逆らったクリム。昔からいつも微笑んで優しそうなので、簡単に御せると侮ってさえいた。既に前公爵となり、隠居した身分なのだからと。
クリムは父の言葉を曲解したことを、何れ心底後悔することになる。
ワッサンモフ公爵家で過ごす(長期宿泊して滞在をする)ことを、セサミは許していない。けれどコロネはクリムはセサミの息子だからと、特に指示も出さず様子を見ている。
誰も何も決めないままでいる状態だった。
ただセサミはワッサンモフ公爵家の使用人には、ある指示を出していた。
「息子の言質は記録に残し、お前達の過失にならぬように対応せよ。給金は今までと同様に至急するし、息子への対応分は遅れて配分する予定だから」
そんな短い指示だった。
それでも今までと同様で、心得たとばかりに粛々とそれに従う優秀な使用人達。
◇◇◇
既に1か月の滞在ですっかりクリムは増長し、子爵家で彼の当主補佐をしていた者(実はクロダイン家の手下)を引っ張り込んで来た。そしてワッサンモフの帳簿から、クリム達が使える金銭を絞り出せと脅すのだ。
セサミが公爵家におらず、当主である兄が不在な今なら、自分でも公爵家を御せると考えてしまったクリム。
その当主補佐クリムゾンは、ワッサンモフ公爵家の帳簿を一目で見抜く。これは裏帳簿だと。
(この帳簿の数値は絶対に可笑しい。一部の収入額だけ見ても、この3倍強はあるだろう。まあチェロスト子爵家はもともとこいつらの贅沢のせいで赤字続きだから、クリムが見たところで何も気付きはしないだろうがな。フフン♪ 脱税なんてこの家を失脚させる、良い足掛かりになるぞ!)
なんてほくそ笑むクリムゾンだが、本帳簿は健全そのものなので付け入る隙はない。
この帳簿を見た愚かな息子が、足元を見ながら散財するのを、(セサミが)眺める為のただの小道具にすぎないのだから。
この偽情報をクロダイン公爵に流して怒りを買い、国を追われることになるクリムゾンは後にこう語る。
「世の中には、関わっちゃいけない人間もいる」のだと。
『馬鹿と鋏は使いよう』
セサミにその言葉は通用しない。
他人が馬鹿に関わると、怪我をするだけなのだ。
◇◇◇
※スキルとは訓練や学習、経験を通じて後天的に身につける技能や技術のこと。生まれつきの才能(能力)とは異なり、後天的な努力で身に付くと言わている。
父セサミからは、
「ワッサンモフ公爵家のことは、政略結婚を無視して婿入りしたお前には関係のないことだ。訪問くらいは構わないが、余計な真似はするな」と言われていたのに。
彼は次男として厳しくされなかった為、セサミの性格をあまり分かっていなかった。その辺のことは、多くの時間を過ごしたスライストの方が、余程熟知していた。
(いつも微笑んでいる父だが、普通家族にまでそうはならないぞ。いわゆる偽りの微笑みなんて……。
あのクールに見える細いつり目なのに、相手の懐に瞬時に入り警戒心を解いてしまうのは異常なスキルだ。絶対に敵に回したくない)とスライストは思っており、公爵家の権限はセサミが亡くなるまで当然その父が握ると考えていた。
才ある者が担当するならそれに越したことはないと、逆らう気持ちも持てなかった。
彼が唯一反抗したのはミカヌレとの結婚、そして失踪した彼女の捜索のことだけだった。
スライストは怪物のような父を敵にまわすくらい、心から彼女を愛していた。
◇◇◇
「お父様。私、この邸に似合うドレスが欲しいわ。ねえ、良いでしょ?」
「私は女主人として、安物の真鍮よりルビーが欲しいわ。勿論良いわよね?」
「良いぞ、良いぞ。いくらでも買うと良い。この公爵家には俺の力が必要なのだから。文句は言わせんぞ。ワッハハハ」
「素敵よ、お父様♡」
「頼りになるわ~。さすが愛する旦那様ね♡」
「そうだろう、そうだろう。ここは俺の家だからな。遠慮なんてするな」
物欲が止まらず、弛み切った頬のまま散財を繰り返すクリム一家。止める者がいない為、やりたい放題だ。
セサミに止められていたにも拘わらず、逆らったクリム。昔からいつも微笑んで優しそうなので、簡単に御せると侮ってさえいた。既に前公爵となり、隠居した身分なのだからと。
クリムは父の言葉を曲解したことを、何れ心底後悔することになる。
ワッサンモフ公爵家で過ごす(長期宿泊して滞在をする)ことを、セサミは許していない。けれどコロネはクリムはセサミの息子だからと、特に指示も出さず様子を見ている。
誰も何も決めないままでいる状態だった。
ただセサミはワッサンモフ公爵家の使用人には、ある指示を出していた。
「息子の言質は記録に残し、お前達の過失にならぬように対応せよ。給金は今までと同様に至急するし、息子への対応分は遅れて配分する予定だから」
そんな短い指示だった。
それでも今までと同様で、心得たとばかりに粛々とそれに従う優秀な使用人達。
◇◇◇
既に1か月の滞在ですっかりクリムは増長し、子爵家で彼の当主補佐をしていた者(実はクロダイン家の手下)を引っ張り込んで来た。そしてワッサンモフの帳簿から、クリム達が使える金銭を絞り出せと脅すのだ。
セサミが公爵家におらず、当主である兄が不在な今なら、自分でも公爵家を御せると考えてしまったクリム。
その当主補佐クリムゾンは、ワッサンモフ公爵家の帳簿を一目で見抜く。これは裏帳簿だと。
(この帳簿の数値は絶対に可笑しい。一部の収入額だけ見ても、この3倍強はあるだろう。まあチェロスト子爵家はもともとこいつらの贅沢のせいで赤字続きだから、クリムが見たところで何も気付きはしないだろうがな。フフン♪ 脱税なんてこの家を失脚させる、良い足掛かりになるぞ!)
なんてほくそ笑むクリムゾンだが、本帳簿は健全そのものなので付け入る隙はない。
この帳簿を見た愚かな息子が、足元を見ながら散財するのを、(セサミが)眺める為のただの小道具にすぎないのだから。
この偽情報をクロダイン公爵に流して怒りを買い、国を追われることになるクリムゾンは後にこう語る。
「世の中には、関わっちゃいけない人間もいる」のだと。
『馬鹿と鋏は使いよう』
セサミにその言葉は通用しない。
他人が馬鹿に関わると、怪我をするだけなのだ。
◇◇◇
※スキルとは訓練や学習、経験を通じて後天的に身につける技能や技術のこと。生まれつきの才能(能力)とは異なり、後天的な努力で身に付くと言わている。
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