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残念な国王(ラブロギ王国)
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「恐れながら、国王様に報告致します。元キュナント侯爵家領地ですが、跡形もなく更地となっておりました。
さらに河川には、近くの森林地帯から移動してきたと思われる猛獣が巣を作り、調査隊数名が襲われました!」
「何だと、それは真か? 今まで猛獣の被害など、聞いたことがないぞ。それに更地だと?
あそこは豊かな作物も、広範囲で実っておっただろう。全て持ち出すのは不可能だろうに。それもないと言うのか?」
ボルケは今年度領地の税金は、既に払い済みである。
残された収穫物についても、国王にどうこうする権限はない。
それなのに、さらに収穫物も搾取しようと考えていた。何と言っても食料庫と言われている、栄養価が高く貴重な品種が栽培されていた地であったから。
その状態にするまでに、ボルケも領民達も研究を重ね、時に魔法の力を借りながら品種の改良を行ってきたのだ。
甘くて栄養価のあるものは、猛獣や魔獣達も大好物だ。襲い来るそれらと戦いながら試行錯誤を重ね、その間に若かり日のボルケと共闘したことがあった聖女に、領地の結界を張って貰っていた。
ボルケが『煌めきのななつ星』として各国で魔獣を倒していた時、聖女であるアップルパルもそこで戦っていた。
たまたま同郷であり、話も弾んだ経緯もあった。
ボルケからすると20歳は年上の、姉のような存在だった。現実の兄があれだったから、余計に親近感を感じたものだ。
現国王のスユラナと彼女は、当時婚約者同士だった。
だが圧倒的に気が合わなかった彼女は、神殿と相談して神託を捏造。
『民を助ける為に、世界を旅しなさい』との神託を国王に告げ、婚約白紙を勝ち取った。
旅の従者は神官の息子ジューシー、聖女の女友達で魔導師ソワレ、騎士団勤務のショートルニン。
ジューシーはアップルパルと、ソワレとショートルニンは、人知れずずっと思い合っていたカップル。
そのどさくさで、神託に巻き込んで旅に出たのである。身分や家の敵対とか、いろいろあって結ばれない彼らは、後に無事結婚することが出来た。
ちなみにドルジェ・デンジャル公爵は、王妃側から見るとアップルパルの義甥となる。王妃はアップルパルの異母妹で、略奪モドキを仕掛けてきた女であるが、ジューシーが好きなアップルパルには天使に見えたそう。
そんな姉のようなアップルパルが、施してくれた結界なのである。
その事を国王は知らない。
ボルケが当主になっていた時は、アップルパル達の育てた弟子や子供達が世界に飛んで、現地の冒険者で太刀打ちできない魔獣を屠る活動をしていた。
50歳を越えたアップルパルは、孫もいるお婆さんとなり、南の島で果物売りの店を経営していた。その隣には彼女の夫の営む道場が立っている。
ボルケが大変な目に合っている(爵位を継いだ)と聞いて、連絡をして来た彼女はキュナント侯爵領地に訪れ、軽々と結界を張ってくれたのである。
移動は勿論、リキューである。
彼女は、かなり怒っていた。
「あいつから逃げた私が言えないけど、本当にクソだね。スユラナの奴は変わらないよ。今の私は孫に静かにしてろと大事にされて、魔獣狩りとかに行けないの。
でもボルケのとこに行くのは大歓迎だったから、何かあったら連絡してよ。会えて良かった。元気でね」
「ああ、また頼むよ。アップルパルも元気でな。あ、あと、領地で取れた作物を持っていってくれ。お礼が現物で悪いな」
「な~に言ってんのよ。お礼なんていらないわよ、この弟は! でもすごく美味しいから、この作物を観光客に試食させて、売ったり宣伝してあげるわ。
南の島は金持ちがたくさん集まるわよ。売れた分の資金も送ってあげるから、姉さんに任せといて!」
「いや、食べて良いんだぞ。でもありがとうな。頼もしいぜ!」
そんなやり取りがあり、付いて来た彼女の孫が空間魔法を持っているので、大量の作物を譲渡したのだ。
時間停止機能があるそうで、いつまでも新鮮さを保てるらしいレアスキルだった。
さすが元公爵令嬢、アップルパルの孫だと褒めたら、その孫であるクリスピーが、「ボルケさんに褒められて嬉しいです。今後も連絡下さい、お力になります!」と、握手を求めて来た。どうやら、煌めきのななつ星のファンらしい。
戦闘のスキルじゃなくて、ずっと辛い思いをしていたらしいが、ボルケに褒められて吹っ切れたらしい。
周囲からも「すごいスキルじゃないか」と、言われていたそうだが、受け入れられなかったらしい。
父母や祖父母のように戦闘をしないことで、仲間はずれ感があったようだ。
「このスキルがあれば、天災や貧困地区にダイレクトに援助ができる。素晴らしいものだ」
再びそう言われ泣いたクリスピーは、アップルパルに優しく肩を擦られていた。
思うようなスキルが手に入らないのは、仕方がないことだ。スキルなんてない者の方が多いのに、アップルパル達の血筋が高位貴族で、授かる率が多い故の悩みなのだろう。
その後は蟠りなく、活動しているそうだ。
そんな奇跡の結界があったのは、キュナント侯爵領地だけだったのだ。
キュナント侯爵領地だとて、遠い昔に森林を切り崩して田畑を作った地である為、常に魔獣や猛獣とは隣り合わせで生きてきた。
前侯爵は領地を放置気味だったので、犠牲になった民も多くいたことだろう。
いろんな意味で前侯爵は、領民達から見放されていた。
ボルケがいない場所にいたい訳がない。
残りたい領民がいれば、この侯爵領はそのままにしていくつもりだったボルケだが、結果は皆無だった。
アップルパルの宣伝により、キュナント侯爵領の作物の認知度は急上昇し、ありがたい資金源となったのだ。
◇◇◇
その後。
国王は美味しい作物や果物の産地を失い、食べたい時は高額でジルパークン王国から輸入することになった。
何故か南の島でも、同じ物が売っていると言う報告もあったが真偽は不明。
キュナント侯爵領地からの供給がなくなったことで、小麦や野菜類の値段が上がった。
広い荒野は土地が荒れている為、大量の肥料を混入して土壌作りが必要とされ、国の介入が必要と判断された。
さらに魔獣や猛獣が常時闊歩している為、騎士や冒険者の投入が多く必要とされ、国の予算は減り続けていく。
当然の如く国王の支持率は下降の一途で、頭を抱えている。当初は皮算用していた国王スユラナは、「蓄えが、予算がぁ」と唸る日々だ。
王妃も賢くないので、宰相から無駄遣いを止められてストレスがたまり、国王に不満をぶつける日々だ。
「王妃様は着飾らなくても十分にお美しいので、今回のドレスは見送りましょう (この金のない時に、ババアが着飾ってるんじゃない。何着ても同じなんだよ。それより国政が分かって遠慮している、息子と娘に予算を回してやれよ)」
「そんなぁ。でも貴方に美しいと言われれば、しょうがないわね。我慢するわ。うふっ」
うふっじゃない。本当にない。
宰相はロマンスグレー(昔から凛々しかった)で、昔は王妃も彼を狙っていたが、素早く最愛の奥様と結婚し事なきを得ていた。
子供達は宰相に国政を教育されており、ボルケに対し畏敬の念と申し訳なさを抱いていた。
「あんなに頑張った方に、嫌がらせをしたツケですね」
「私も何度も諫言したのですが、残念です。父上は私達より、ドルフェナおじ様の方がお好きなようですから」
幸いなことに国王夫妻とデンジャル公爵以外は、わりと普通の感性を持っており、子供達は聖女のアップルパルのことも大好きである。彼女と母親が血縁であることが、母親を見捨てない理由になっていた。
国家予算の方も歴代の国王が蓄えたものがあるので、一気に落ち込むものではない為、王族予算の削減をすれば乗り越えられるだろう。
現王政で使い切る真似は、周囲の側近貴族が許さないので一先ず安心である。場合によっては王太子の譲位も検討されるはずだ。
ドルフェナ・デンジャル公爵も、周囲からの批判に晒されていた。
「あんまりしつこくするから、逃げられたのよ」「キュナント侯爵領地の果物が手に入りづらくて、ケーキの値段が上がったわ」「野菜自体が高くなって、家計が大変よ。美味しくなった訳でもないのに」「逃げたくもなるわよね。20年の嫌がらせって、ちょっと異常よね。私達も気をつけましょ」
公爵に表立って不満を言う者はいない。けれど噂と言うか、そう言う平民達の話は伝わって来るものなのだ。
「俺がやり過ぎたのか? でも……今さら逃げるとは、根性がないだろ!」
それには妻も、息子も、嫁いだ娘であるレモアンも「だから、言ったのに!」である。
普段批判を受けないデンジャル公爵は存外に打たれ弱く、息子に爵位を譲ることになった。
◇◇◇
蓋を開けて見れば、国益の上昇率はジルパークン王国国王、マルコディーニの一人勝ちであった。
「やあやあ、ラブロギ王国の国王よ。こんな結果になって、ごめんね、ごめんねー」と言ったとか、言わないとか。
さらに河川には、近くの森林地帯から移動してきたと思われる猛獣が巣を作り、調査隊数名が襲われました!」
「何だと、それは真か? 今まで猛獣の被害など、聞いたことがないぞ。それに更地だと?
あそこは豊かな作物も、広範囲で実っておっただろう。全て持ち出すのは不可能だろうに。それもないと言うのか?」
ボルケは今年度領地の税金は、既に払い済みである。
残された収穫物についても、国王にどうこうする権限はない。
それなのに、さらに収穫物も搾取しようと考えていた。何と言っても食料庫と言われている、栄養価が高く貴重な品種が栽培されていた地であったから。
その状態にするまでに、ボルケも領民達も研究を重ね、時に魔法の力を借りながら品種の改良を行ってきたのだ。
甘くて栄養価のあるものは、猛獣や魔獣達も大好物だ。襲い来るそれらと戦いながら試行錯誤を重ね、その間に若かり日のボルケと共闘したことがあった聖女に、領地の結界を張って貰っていた。
ボルケが『煌めきのななつ星』として各国で魔獣を倒していた時、聖女であるアップルパルもそこで戦っていた。
たまたま同郷であり、話も弾んだ経緯もあった。
ボルケからすると20歳は年上の、姉のような存在だった。現実の兄があれだったから、余計に親近感を感じたものだ。
現国王のスユラナと彼女は、当時婚約者同士だった。
だが圧倒的に気が合わなかった彼女は、神殿と相談して神託を捏造。
『民を助ける為に、世界を旅しなさい』との神託を国王に告げ、婚約白紙を勝ち取った。
旅の従者は神官の息子ジューシー、聖女の女友達で魔導師ソワレ、騎士団勤務のショートルニン。
ジューシーはアップルパルと、ソワレとショートルニンは、人知れずずっと思い合っていたカップル。
そのどさくさで、神託に巻き込んで旅に出たのである。身分や家の敵対とか、いろいろあって結ばれない彼らは、後に無事結婚することが出来た。
ちなみにドルジェ・デンジャル公爵は、王妃側から見るとアップルパルの義甥となる。王妃はアップルパルの異母妹で、略奪モドキを仕掛けてきた女であるが、ジューシーが好きなアップルパルには天使に見えたそう。
そんな姉のようなアップルパルが、施してくれた結界なのである。
その事を国王は知らない。
ボルケが当主になっていた時は、アップルパル達の育てた弟子や子供達が世界に飛んで、現地の冒険者で太刀打ちできない魔獣を屠る活動をしていた。
50歳を越えたアップルパルは、孫もいるお婆さんとなり、南の島で果物売りの店を経営していた。その隣には彼女の夫の営む道場が立っている。
ボルケが大変な目に合っている(爵位を継いだ)と聞いて、連絡をして来た彼女はキュナント侯爵領地に訪れ、軽々と結界を張ってくれたのである。
移動は勿論、リキューである。
彼女は、かなり怒っていた。
「あいつから逃げた私が言えないけど、本当にクソだね。スユラナの奴は変わらないよ。今の私は孫に静かにしてろと大事にされて、魔獣狩りとかに行けないの。
でもボルケのとこに行くのは大歓迎だったから、何かあったら連絡してよ。会えて良かった。元気でね」
「ああ、また頼むよ。アップルパルも元気でな。あ、あと、領地で取れた作物を持っていってくれ。お礼が現物で悪いな」
「な~に言ってんのよ。お礼なんていらないわよ、この弟は! でもすごく美味しいから、この作物を観光客に試食させて、売ったり宣伝してあげるわ。
南の島は金持ちがたくさん集まるわよ。売れた分の資金も送ってあげるから、姉さんに任せといて!」
「いや、食べて良いんだぞ。でもありがとうな。頼もしいぜ!」
そんなやり取りがあり、付いて来た彼女の孫が空間魔法を持っているので、大量の作物を譲渡したのだ。
時間停止機能があるそうで、いつまでも新鮮さを保てるらしいレアスキルだった。
さすが元公爵令嬢、アップルパルの孫だと褒めたら、その孫であるクリスピーが、「ボルケさんに褒められて嬉しいです。今後も連絡下さい、お力になります!」と、握手を求めて来た。どうやら、煌めきのななつ星のファンらしい。
戦闘のスキルじゃなくて、ずっと辛い思いをしていたらしいが、ボルケに褒められて吹っ切れたらしい。
周囲からも「すごいスキルじゃないか」と、言われていたそうだが、受け入れられなかったらしい。
父母や祖父母のように戦闘をしないことで、仲間はずれ感があったようだ。
「このスキルがあれば、天災や貧困地区にダイレクトに援助ができる。素晴らしいものだ」
再びそう言われ泣いたクリスピーは、アップルパルに優しく肩を擦られていた。
思うようなスキルが手に入らないのは、仕方がないことだ。スキルなんてない者の方が多いのに、アップルパル達の血筋が高位貴族で、授かる率が多い故の悩みなのだろう。
その後は蟠りなく、活動しているそうだ。
そんな奇跡の結界があったのは、キュナント侯爵領地だけだったのだ。
キュナント侯爵領地だとて、遠い昔に森林を切り崩して田畑を作った地である為、常に魔獣や猛獣とは隣り合わせで生きてきた。
前侯爵は領地を放置気味だったので、犠牲になった民も多くいたことだろう。
いろんな意味で前侯爵は、領民達から見放されていた。
ボルケがいない場所にいたい訳がない。
残りたい領民がいれば、この侯爵領はそのままにしていくつもりだったボルケだが、結果は皆無だった。
アップルパルの宣伝により、キュナント侯爵領の作物の認知度は急上昇し、ありがたい資金源となったのだ。
◇◇◇
その後。
国王は美味しい作物や果物の産地を失い、食べたい時は高額でジルパークン王国から輸入することになった。
何故か南の島でも、同じ物が売っていると言う報告もあったが真偽は不明。
キュナント侯爵領地からの供給がなくなったことで、小麦や野菜類の値段が上がった。
広い荒野は土地が荒れている為、大量の肥料を混入して土壌作りが必要とされ、国の介入が必要と判断された。
さらに魔獣や猛獣が常時闊歩している為、騎士や冒険者の投入が多く必要とされ、国の予算は減り続けていく。
当然の如く国王の支持率は下降の一途で、頭を抱えている。当初は皮算用していた国王スユラナは、「蓄えが、予算がぁ」と唸る日々だ。
王妃も賢くないので、宰相から無駄遣いを止められてストレスがたまり、国王に不満をぶつける日々だ。
「王妃様は着飾らなくても十分にお美しいので、今回のドレスは見送りましょう (この金のない時に、ババアが着飾ってるんじゃない。何着ても同じなんだよ。それより国政が分かって遠慮している、息子と娘に予算を回してやれよ)」
「そんなぁ。でも貴方に美しいと言われれば、しょうがないわね。我慢するわ。うふっ」
うふっじゃない。本当にない。
宰相はロマンスグレー(昔から凛々しかった)で、昔は王妃も彼を狙っていたが、素早く最愛の奥様と結婚し事なきを得ていた。
子供達は宰相に国政を教育されており、ボルケに対し畏敬の念と申し訳なさを抱いていた。
「あんなに頑張った方に、嫌がらせをしたツケですね」
「私も何度も諫言したのですが、残念です。父上は私達より、ドルフェナおじ様の方がお好きなようですから」
幸いなことに国王夫妻とデンジャル公爵以外は、わりと普通の感性を持っており、子供達は聖女のアップルパルのことも大好きである。彼女と母親が血縁であることが、母親を見捨てない理由になっていた。
国家予算の方も歴代の国王が蓄えたものがあるので、一気に落ち込むものではない為、王族予算の削減をすれば乗り越えられるだろう。
現王政で使い切る真似は、周囲の側近貴族が許さないので一先ず安心である。場合によっては王太子の譲位も検討されるはずだ。
ドルフェナ・デンジャル公爵も、周囲からの批判に晒されていた。
「あんまりしつこくするから、逃げられたのよ」「キュナント侯爵領地の果物が手に入りづらくて、ケーキの値段が上がったわ」「野菜自体が高くなって、家計が大変よ。美味しくなった訳でもないのに」「逃げたくもなるわよね。20年の嫌がらせって、ちょっと異常よね。私達も気をつけましょ」
公爵に表立って不満を言う者はいない。けれど噂と言うか、そう言う平民達の話は伝わって来るものなのだ。
「俺がやり過ぎたのか? でも……今さら逃げるとは、根性がないだろ!」
それには妻も、息子も、嫁いだ娘であるレモアンも「だから、言ったのに!」である。
普段批判を受けないデンジャル公爵は存外に打たれ弱く、息子に爵位を譲ることになった。
◇◇◇
蓋を開けて見れば、国益の上昇率はジルパークン王国国王、マルコディーニの一人勝ちであった。
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