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帰還編
第八話:不穏な城内
しおりを挟む元贄の王女達に特別な宝飾品魔道具を贈呈して、そのままお茶会を楽しんでいるところに王室からの緊急の呼び出し。
急いで着替えを済ませた希美香は、従者ユニと護衛三人衆を連れて王宮の廊下を行く。
「王女様達の宝飾品の事じゃないわよね?」
「違うようです。どうも昼の会議に関係しているらしいとしか……」
希美香が部屋に戻っている間、護衛の三人がそれぞれ動ける範囲で情報収集を行ったのだが、他にも呼び出しを受けた者が複数人居ると判明。
そこから、『昼の会議の参加者が呼ばれている』という情報をアクサスが掴んできた。
「何か、まずいことが起きているようだ」
「衛兵と騎士隊の伝令まで走り回ってたからな。ドルメアの密偵にでも侵入されたか?」
ブラムエルとルインは城内に勤務している知り合いの衛兵や使用人から話を聞いてきたようで、『毒物が使われた』とか『裏切り者が拘束された』などの噂が飛び交っているらしい。
「え、なにそれ。ほんとに緊急事態?」
「なんだか物騒ですね……」
どうにも只事ではなさそうな様子に、希美香とユニも不安気な表情を浮かべてみせた。
そうして何度目かの廊下の角を曲がったところで、先頭を行くブラムエルがさっと腕を横に翳して希美香達の動きを止める。
「どうした?」
希美香が何事か訊ねる前に、ルインがブラムエルに並び立ちながら問う。じっと廊下の先に視線を向けているブラムエルは、警戒した様子で言った。
「衛兵がいる」
「あん? ……どっかおかしな所があるか?」
特に変哲もない、城に勤務している一般的な衛兵じゃないのか? と困惑気味に返すルインに、ブラムエルは現在地が城の奥に当たる区画である事を告げた。
「ここは既に上流層だ。通常は上級貴族しか入れない。一般の衛兵が居るのはおかしい」
「――ああ、言われてみりゃそうだな。この辺りは騎士隊が担当する区画になるのか」
城の中がバタバタしていたので意識が逸れていたが、城の外回りや城内でも一般クラスの控室周辺や通路の警備を担当する衛兵が、こんな奥の区画に居るのは確かに変だと納得する。
「どうする? 誰何するか?」
「いや……キミカ殿の安全を優先しよう」
ブラムエルとルインは、件の衛兵の様子を観察しながら、別のルートに迂回しようと相談し合う。そんな二人の後方では、アクサスが希美香にその辺りの説明をしていた。
「ああ、そうなんだ?」
「落ち着いていますね?」
「みんなが一緒だからね」
護衛三人衆の事は信頼しているし、常に傍で支えてくれるユニも居るので、それほど心配はしていないと希美香は告げる。
「き、キミカ様……」
「ふふ、必ずお守りしますよ」
後ろからぬいぐるみ抱っこされて照れているユニと、こんな時でも希美香の好印象稼ぎに余念の無いアクサス。
降って湧いたような緊迫した場面ながら、割と普段通りのやり取りをしつつ、ブラムエルとルインの先導で別ルートの廊下を進んでいく希美香達。
その最中も、遠くから怒声が聞こえたり、剣戟らしき金属音が響いたりと中々物々しい雰囲気での移動となった。
「いや~、お城の中でこの状況って色々不味いんじゃないの?」
「不味いですね」
「ヤバいな」
「問題はありますが、まあ何とかなるでしょう。もうすぐ会議室です」
珍しく楽観的ともとれる発言をするブラムエルが、周囲への警戒は怠らず先頭を行く。やがて、騎士隊が警備する開けたロビーに到着。希美香にも見覚えのある扉の前までやって来た。
「キミカ殿をお連れした。緊急招集を受けている」
「伺っています。どうぞこちらへ」
会議室の中へ案内される間、城の現状についてそれとなく探りを入れる。
「城内が随分騒がしい上に、途中の廊下で衛兵の姿を見たが、何か聞いてるか?」
「あー……騎士隊に裏切り者が居たらしくて、信頼できる者を臨時で警備に就かせてるんですよ」
「今、騎士隊の宿舎に強制捜査が入ってまして、騒がしいのはそれでしょうね」
「何だって?」
それっぽい噂を事前に聞いてはいたが、まさか城に勤務する騎士隊に裏切り者が出ていたとは思わなかったと驚くブラムエル。
ここを警備している騎士達も、取り調べを受けて来たらしい。
「大きな声じゃ言えませんが、どうもドルメアの工作員を引き入れていたらしくて」
「衛兵隊の隊長クラスにも裏切り者が居たって事で、身内の貴族の中に手引きしてる輩が居るんじゃないかって話になってますね」
「それは……」
「随分とヤベェ事になってんな」
「キミカ様の警護に見直しも必要ですか」
騎士達の暴露と噂話に、ブラムエルとルインは深刻な表情を浮かべた。アクサスも城内の安全が予想以上に脅かされているなら、希美香の護衛体制をもっと厳重にすべきかと検討している。
そんなこんなと話しているうちに、希美香と同じく緊急の呼び出しを受けた昼の会議の参加者達がちらほらと現れるようになった。
「みんな、とりあえず中で待とう?」
希美香は、警備の騎士達と真剣な表情でまだ話し合っている護衛三人衆にそう促すと、ユニを連れて一足先に会議室へと踏み入れたのだった。
ラコエル宮殿を内在する宝石塔に、やや赤み掛かった城壁が映り込む。王都ハルージケープが夕刻の時を迎えようとする頃、再び集まった昼の会議のメンバー達。
皆、帰路に就いたところを急遽呼び戻されたようだ。
侵入者騒動の事もあり、若干空気がピリピリしている。
最大派閥カムレイゼ派の強硬派に穏健派、中立派の幹部達。そして融和派の幹部達も並んでいるが、ルタシュの姿が見えない。
希美香の視線から疑問を汲み取ったカフネス侯爵が、ルタシュの到着が遅れる事を告げた。
「此度の急な呼び戻しには、彼の事情が関わっていてな」
「え、ルタシュさん何かやらかしたんですか?」
「いや――やらかすというか、巻き込まれたというか……」
希美香の質問に、カフネス侯爵は珍しく言い淀むような様子で額に手を当て難しい顔をしている。その時、会議室の扉がバーンと開かれた。
皆が注目する中、現れた道化師がにこやかに手を振りながら、颯爽と会議室のテーブルの間を駆け抜けると、奥に居るトレク王の隣にスザーッと正座姿勢で滑り込み鎮座した。
それから姿勢を崩して『あっつ、あっつ』と熱そうに膝をさすっている。
ピリついていた会議室の空気が、皆の溜め息と共に少し緩む。
やがて、入り口から今度こそルタシュ本人が入って来た。何だか昼に見た時よりもさらに疲れているように感じる希美香。
そんな彼の後に続いて入って来た人物を見て、希美香は思わず息を呑んだ。
長い黒髪に、堀の浅い顔立ちは希美香と同じ人種的な類似性を感じさせる。羽織っている赤いロングコートなど、地球世界の現代デザインそのもの。
(もしかして、あの人が他国から来た異世界人?)
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