異界の錬金術士

ヘロー天気

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帰還編

第十話:ツヅキサクヤ

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 希美香が、『富国の彷徨い人・ラコエル』の呪いと祝福の魔力を一点に集めて建てた宝石の巨塔。あれが出現した頃から、自分の計画は破綻していたというクルサーゼ伯爵。

 そのクルサーゼ伯爵から、達観とも忌々し気ともとれる何とも複雑な視線を向けられた希美香が、どういう事だろうかと考えていた時、会議室の奥に鎮座するトレク王が、おもむろに口を開いた。

「クルサーゼよ……今の発言、此度の騒動に自身が関わっている事を認めると、いう意味で良いのか?」

 ゆっくりと確認するような問いに対して、クルサーゼ伯爵はほぼ認めるような言葉で答えた。

「全てではありませんが。彼の者の介入を阻むべく、暗殺者を雇い入れたのは確かです」

 途端に騒がしくなる会議室。壁際に立っていた騎士達が顔を見合わせ、颯爽とクルサーゼ伯爵に向かって歩き出す。
 伯爵の周りに座っていた融和派の代表達が、慌てて脇に避けようとする。ルタシュも未だ困惑の表情を浮かべているが、騎士達に場所を空けるべく席を立とうとしていた、のだが――

 その騎士達はクルサーゼ伯爵のもとに辿り着く事なく、閃光に包まれて倒れた。

「「は!?」」

 ツヅキサクヤに電撃を食らったらしい。カフネス侯爵やクルサーゼ伯爵も思わず疑問の声を漏らした。他の者達も皆、突然の事態に意味が分からず、ポカンとしている。

 カフネス侯爵から、騎士達を昏倒させた理由を問う視線を向けられたツヅキサクヤ曰く――

「あたしに対する敵意はなかったんですけどね。クルサーゼさんを隣国に逃がす作戦に入るって意識が浮かんだから制圧しました」

 皆の視線が倒れた騎士達に注がれ、それからクルサーゼ伯爵に移る。伯爵は、溜め息を吐きだしながら呟く。

「そんな事まで分かるのか……」

 ツヅキサクヤの説明によると、件の騎士達はクルサーゼ伯爵の身柄を確保する体を装って彼の護りを固め、この場に居る他の代表達を人質に取って城からのがれようとしていたらしい。

 クルサーゼ伯爵が破綻したという自身の計画を語る事も、時間稼ぎをしながら油断を誘うという作戦の一環だったようだ。

 トレク王が伯爵に問い質し、それにほぼ肯定が返された時に、騎士達はあらかじめ決めておいた段取りに沿って動き出していた。

 彼らの具体的な計画内容を明かしたツヅキサクヤは、追加でこんな情報もあげる。

「なんか、『出来ればキミカの転移門で支分国まで一気に』とか考えてたみたいですけど……」
「なるほど……初めから逃げる準備を整えたうえでこの会議に臨んでいたのだな」

 カフネス侯爵がうなずいて納得している。例の暗殺騒ぎの顛末を把握していたなら、自分達の仕業である事が暴かれて糾弾される可能性も考えていたというわけか、と。

 無力化された騎士達も隠れ融和派だったらしい。控え室での騒動の後、城の衛兵隊や騎士隊には強制捜査が入っていたのだが、この騎士達はその取り調べをくぐり抜けて来ていたようだ。


 その後、別の騎士達がやって来てクルサーゼ伯爵と問題の騎士達を連行していった。こちらは強制捜査でしっかり取り調べを受けて、潔白が証明されている騎士達である。

 各派閥の代表が何度も呼び出しを受けた今日の異例の会議は、融和派のトップであるクルサーゼ伯爵の逮捕に、多数の裏切り者の存在が発覚するという何とも不穏な結末となった。

 そして、本題はまだ終わっていない。

 ツヅキサクヤは、引き続きトレクルカーム国内の内通者探しに協力する事を告げると、ひとまず錬金術士キミカ目的の人物との会談をカフネス侯爵に要求した。
 彼女が来訪した元々の目的は、キミカに会うことにあったようだ。

「聞かれて困る事でなければ、この場でも良いかね?」

 カフネス侯爵は、今この会議室に残っている各派閥の代表達にも彼女の事を周知しておきたいという思惑もあるようで、ここで会談をおこなってもらいたいと提案した。

「あたしは別に構わないですけど」
「あ、私も大丈夫です」

 両者の承諾により、急遽この場に異世界人同士の会談の席が設けられた。と言っても、会議テーブルの端に陣取っての対話だが。


 給仕さん達に用意されたお茶をかたわらに、向かい合った二人はとりあえず挨拶を交わす。

「えーそういうわけで、あらためまして都築つづき 朔耶さくやといいます」
「あ、初めまして南田みなみだ 希美香きみかと申します」

 やや緊張気味に応える希美香に、朔耶は早速色々質問して来た。

「希美香さんは、日本人ですよね? こっちにはやっぱり不測の事態で?」
「そうです。えっと、こっちに来た原因は私もよく分からないんですけど……」

 自販機までジュースを買いに行って、気が付いたら山の中に居る状態だった。その時に通りかかった親切な行商人のおかげで、なんとか生き延びる事ができた。

 こちらの人達に聞いた話では、大昔の戦争で使われた大魔術による空間の歪みが未だ各地に残っていて、そこから何かが召喚されて来る事があり、稀に異界の人間が現れるという。
 異界から召喚された人間の事を、こちらの人々は『彷徨い人』と呼ぶのだ。

「なるほど。あたしが調べた情報と変わりないみたいですね」
「朔耶さんは、ここよりかなり遠いところから来たと聞きましたが」

 召喚現象を起こす空間の歪みは、この地方が特に多いのだと聞いていたが、もしや世界規模でそういう歪みが点在しているのだろうかと希美香は疑問に思う。
 その呟きを拾った朔耶は、自分は少し事情が異なるのだと、経緯を説明してくれた。

「あたしの場合は、最初は現地の精霊に緊急手段で喚ばれたんですよ」
「緊急手段?」

「その精霊が護ってる王族のお姫様を助ける為に、偶々近くの別世界に居たあたしを呼んだらしいです」
「ほえ~」


 有無を言わさず喚ばれて救出を手伝わされた彼女は、色々あって保護された国で現代知識を利用した発明品を作ったり、それで街の環境を改善したり。
 それらが原因で敵対国に攫われたりと、なかなか波乱万丈な異世界生活を送っていた。

 攫われた先の国でも順応して自分の足場を確立していったのだが、込み入った事情により意図せず地球世界に帰還する事となった。
 が、精神の一部が向こうの世界との繋がりを残しており、明晰夢のような形で異世界の様子を見て回るうちに、向こうで親しくなった人々の危機を知った。

 自分の中に残っていた精霊に呼びかける事で自ら世界を渡った朔耶は、自身と重なった精霊の力を解放して異世界の友人達を救ったのだそうな。

 この時の働きで精霊の力をある程度まで使いこなせるようになったという。そうして今度は自分の意思とタイミングで地球世界に帰還した。

 その後は、地球世界側にいた強力な精霊と出会う機会があり、その精霊と契約した事で異世界と地球世界を自由に行き来できるようになったのだと。


「えっ、向こうに精霊とかいるんですか!?」
「意外と色々いるみたいです」

 魔法が実在するこちらの世界に慣れてきた希美香にとって、地球世界側にもそういう存在が実在していたという事実に衝撃を覚えた。

 そんなこんなと会話を通じて、お互いの事情を把握し打ち解け合ったところで、表情をすっと引き締めた朔耶は、おもむろに尋ねる。

「希美香さんに会いに来たのは、要救助者か確かめる為でした。向こうに、帰りたいですか?」
「それは、もちろん……」

 希美香は、その問いには迷いなく肯定を口にしたつもりだったが、微妙に歯切れが悪くなった。理由は分かっている。
 今も後ろに立ち、自分を護ってくれている彼らの事を考えてしまうのだ。

(なんだろう? 少しずつ手がかりを得て実現させていくつもりだったのが、一気に解決しちゃうとなると……)

 いずれ考えなければならない事ではあったが、もっと先の話だと思っていた。元の世界に帰還するチャンスが突然現れた事で、動揺しているのだろうと自己分析する。

「私も、元の世界に還る方法を研究はしてたんですけどね……」

 なんだかこれまでの手探りの頑張りが無駄な努力のように感じられてモヤモヤする。

「それが、額縁型転移門?」
「あ、額縁は偶々で、今は普通の門とか扉の枠に付けられますよ。本体は宝石なんです」

 余計な事を考えて変な呟きを零してしまったと内心慌てた希美香は、懐から最新版の『空間接続膜付与石』を取り出して披露した。

 長方形で手の平を覆うほどの大きな石。この前サータスにも見せた、転移門を作り出す宝石だ。

「でっか」

 思わずといった様子でそんな感想を口にした朔耶に、希美香は苦笑を返しながらこの宝石二つで一セットの転移門を作り出せると説明する。

「何か今とんでもない事を聞いた気がするんだけど。転移門を作る?」
「はい。作るって言っても、基本は能力に丸投げなんですけどね」

 希美香に宿る『創造クリエーティブ精製能力プリフィケーション』は、明確なイメージを持って願えば、イメージ通りの効果を持つ鉱石を精製するというもの。
 宝石なのは偶々で、普通の石ころでイメージすればそういう形に精製される。特殊効果の付いた石をイメージする時に、一番楽なのが宝石だったのだ。

 最初は願った宝石類を引き寄せる能力と誤認していたが、サータスが検証してくれた結果、既に存在する物を引き寄せていたのではなく、イメージに近い物を創り出していた事が分かった。

 そして、その精製の際に付与される特殊効果で『空間を繋ぐ効果』の実現に成功しており、生きた人間の移動実験も済ませてある。

 希美香のそんな説明に、朔耶は目を瞠って驚き、尋ねる。

「その能力って、作るのに必要な素材とか、制限とかは……」
「実はまだハッキリした事は分かってなくて、今のところほぼ無尽蔵に生み出せてますけど」

 精製の際に大地や周囲の魔力など、何かしら材料にしている部分は間違いなくあると思うので、どこから何をどれだけ消費しているのか等を把握するには、また検証が必要だろう。

「空間の接続はできたから、次はどうやって元の世界に繋げるか。次元の壁を超える方法が課題になってました」

 ここまでの一連の話に、朔耶は感嘆した様子で息を吐くと、何事か考え込み始めた。しばらくして考えがまとまったのか、うなずいて顔をあげた朔耶は、希美香に向き直ってこう告げた。

「とりあえず、帰還の手順について説明しておきますね」




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