29 / 30
帰還編
第十一話:帰還の道筋
しおりを挟む『都築朔耶』に地球世界への帰還の意思を確認された希美香は、話の流れで自身に宿る特殊能力の仕様を明かして『転移門作り』の概要を説明したのだが、朔耶はその内容に唖然としていた。
どうやら希美香の『創造精製能力』は、自力で異世界間移動をする朔耶からしても破格のポテンシャルを持っているようだった。
それはさておき、帰還の意思ありとして手順を説明される。
「まず、世界の壁を越える時に身体と精神と魂が一旦バラバラになるから、それぞれが迷子にならないように保護する必要があるの」
「ば、バラバラになるんですか?」
なかなかショッキングな内容にぞっとした希美香が、思わず聞き返す。後ろの護衛組やユニからも息を呑む雰囲気が伝わって来る。
「まあそこだけ聞くとビックリするわよね」
朔耶曰く、安全に渡る方法は確立されているので心配ないという。
「あたし自身もそうだけど、もう何度も家族とか友人とか知り合いの人を運んでるから」
今も定期的に異世界と地球世界を行き来している親しい友人や家族が、少なくとも三人以上は居るのだと。
「え! それって、またこっちに来られるんですか?」
「今のところ、あたしが送り迎えしてる状態なんだけどね」
希美香は、世界を行き来できるのは朔耶氏本人だけかと思っていた。地球世界に還ってもまたこちらに来られるのなら、憂いと悩みの大半は解消される。
二人の会話に注目していた、この会議室に居る他の面々が朗報を耳にしたような反応を示す。今のトレクルカーム王国にとって、希美香は手放しがたい存在だ。
そんな外野の空気を気に留めず朔耶は続ける。
「もしかしたら、希美香さんの転移門でもっと気軽に行き来できるようになるかも」
一度能動的な世界移動を体験すれば、そのイメージを能力に反映できるかもしれないという主張には、希美香もうなずけた。
こちらの世界に来た時は、本当になんの前触れもなく、気が付いたら景色が一変していたので、世界を超えるイメージも浮かべようがなかったが、前もって準備してからの転移ならば――
「できそうな気がします」
「じゃあその方向で調整しましょっか」
ただ、上手く行ったとしても、世界を繋ぐ事にどんな弊害があるか分からないので、そこは慎重に考えなければならない。
その後、カフネス侯爵達に色々報告をして、希美香の地球世界帰還に向けてのスケジュールが組まれていく。
まずはフラキウル大陸という、ここからだと遙か北西の方角にある大陸に渡る必要がある。
朔耶が所属している国、フレグンス王国がある北方のオルドリア大陸よりも更に距離が遠いが、そこは希美香の転移門を活用する。
一対の転移門を創り出し、その片方を持って朔耶がフラキウル大陸に渡り、目的地に設置するという流れ。
「希美香さんの道具が、世界を渡る時に影響が出ないかどうかも確かめてからになるけど」
朔耶の説明によると、彼女はこちらの世界で長大な距離を移動する際、一度地球世界に戻ってから目的の場所に再び世界移動で転移する事で、時間と距離を大幅に短縮しているらしい。
なので、転移門の片方をフラキウル大陸に運ぶ場合、一度地球世界に持っていく事になる。
これまで魔道具や電化製品を他の世界に移動させても、ちゃんと動いていたので問題はないと思われるが、一応検証をしてから使おうという話になった。
それで万が一、希美香の転移門が使えなかった場合は、十日以上の旅路を行く事になる。航路は危険なうえに時間がかかり過ぎるので、空路を使うのだと。
「空飛んでいくんですか?」
「目指すのはフラキウル大陸にあるグランダールっていう国なんだけどね、そこの魔導船を出してもらう事になると思うわ」
グランダールという国は、魔導文明が非常に進んでいるそうで、魔導船という空飛ぶ船が普通に国内の空を飛び交っているのだとか。
「一応、フラキウル大陸とオルドリア大陸間の往復を、あの国の王子様が冒険飛行で成功させてるから、ここまで飛んで来られるはずよ」
「お、王子様が……」
一体どんな国なんだろうかと、魔導文明大国グランダールの姿を想像している希美香に、朔耶が思い出したように付け加えた。
「あ、それともうひとつ重要な事」
「はい?」
「希美香さんの向こうでの住所とか」
「あ」
確かに重要なことだと納得する希美香。最近あまり考えなくなっていたが、こちらで過ごしていた期間、向こうでは行方不明状態なのだ。
「行政手続きとかご家族への連絡とか、あたしの方で大体処理できるんで、そこは任せて?」
「よ、よろしくお願いします……」
勤め先なり通っている学校があったなら、現状を確認して適切に対処するという朔耶に、希美香は急に帰還の現実感が伴ってきた気がした。
とりあえず、通っていた大学と勤めていたアルバイト先を伝えておく。もしかしたら、実家にも連絡が行っているかもしれない。
「あー、それは十中八九いってるでしょうね」
「ですよねー」
高校卒業と同時に田舎から都心に出て一人暮らしをしていた。
学業とアルバイトが忙しくて実家にはあまり電話する機会もなかったが、流石に半年以上も学校に通わずアルバイト先にも顔を出さず、アパートにも帰らずの状況では――
「事件と事故の両面で捜査されてるかも。あたしもそうだったし」
「うへぁ~……」
すごく面倒な事になっていそうな予感に、希美香は思わず乙女にあるまじき声で呻いたのだった。
グランダール国側との調整などで準備に数日は掛かるとの事で、今日はひとまず引き揚げるという朔耶には、急遽創り上げたドア枠サイズの転移門の片方を預けた。
「それじゃあ、準備を進めつつ毎日顔出すようにしますね」
「よろしくお願いします」
朔耶には、トレクルカーム国内の内通者探しにも協力してもらう事になっているので、希美香の帰還とは別件で連日ここを訪れる予定なのだそうだ。
カフネス侯爵達を振り返った朔耶は、話は付いたという意味でうなずいて見せると、カフネス侯爵達からもうなずきを返された。
それから希美香に向き直り、「じゃあまた明日」と最後にウインクをして唐突に消えた。
「…………え、あっ、世界移動したのね」
何の予兆もなく突然ふっと姿が消えたので、一瞬リアクションが取れなかった。来るときもこんな風に唐突に現れるのだろうかなどと考えながら、肩の力を抜いた希美香はゆっくり息を吐いた。
思ったより緊張していたらしい。それを合図に、会議室の張り詰めていた空気がほぐれる。
「キミカ様!」
傍に駆け寄って来たユニが希美香を気遣う。
「大丈夫ですか? キミカ様」
「大丈夫よ。ありがとね、ユニ」
護衛の三人もやって来て、各々先ほどの会談と朔耶について感想を述べた。
「にしても、何か得体のしれない奴だったな」
「確かに、一見普通の女性に見えましたが、纏う魔力が尋常ではありませんでしたね」
「しかし、誠実さは見て取れた」
ルインは、朔耶の在り方が未知の存在すぎて、あれだけ目立つ気配を振りまいているのに掴みどころが無い雰囲気に、不気味さを感じているようだ。
多少魔力を扱えるアクサスは、朔耶から発せられている魔力の大きさに圧倒されたらしい。あれは完全に人間の枠を超えている、と。
そして、朔耶の事をじっくり観察していたブラムエルは、彼女から実に真っすぐな献身と奉仕の精神を感じ取ったそうな。
「そう言えば、三人ともずっと静かだったわね。ルインとか何か言いそうだったのに」
「いや、口挟める空気でもなかっただろ」
「キミカ様にとって、大事なお話でしたからね」
「この件に関しては、我々は見守る事しかできないが――」
助けが必要な時は必ず協力すると告げるブラムエルに、ルインとアクサスも揃って同意した。
「それにしても、何だか一気に話が進んじゃったわね。魔導文明大国ってどんな所なんだろう」
「フラキウル大陸、グランダール国ですか……」
希美香は朔耶に預けたドア枠型転移門の片方を見る。転移効果発動中は枠内に斑模様の膜が蠢いているのだが、今は膜が消えていて向こうの景色が見える。
ドア枠越しに、カフネス侯爵達が今後の各派閥の方針について話し合っている様子がうかがえた。
40
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
兄貴のお嫁さんは異世界のセクシー・エルフ! 巨乳の兄嫁にひと目惚れ!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
ファンタジー
夏休み前、友朗は祖父の屋敷の留守を預かっていた。
その屋敷に兄貴と共に兄嫁が現れた。シェリーと言う名の巨乳の美少女エルフだった。
友朗はシェリーにひと目惚れしたが、もちろん兄嫁だ。好きだと告白する事は出来ない。
兄貴とシェリーが仲良くしているのを見ると友朗は嫉妬心が芽生えた。
そして兄貴が事故に遭い、両足を骨折し入院してしまった。
当分の間、友朗はセクシー・エルフのシェリーとふたりっきりで暮らすことになった。
異界の魔術士
ヘロー天気
ファンタジー
精霊によって異世界に召喚されてから、既に二年以上の月日が流れた。沢山の出会いと別れ。様々な経験と紆余曲折を経て成長していった朔耶は、精霊の力を宿した異界の魔術士『戦女神サクヤ』と呼ばれ、今もオルドリアの地にその名を轟かせ続けていた。
無属性魔法しか使えない少年冒険者!!
藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。
不定期投稿作品です。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。