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帰還編
第二話:割と平穏な裏方の日々
しおりを挟む転移収納宝石棒の研究で作り出された試作転移装置が、額縁型転移門であっという間にお払い箱となり、量産計画も見直しで外務や軍部、財務担当がてんやわんやになっている頃。
希美香は王都のサータス魔導具総合本店に顔を出していた。
「あっはっはっ いやぁ~面白かったわぁ。だから私はもう少し待てって言ったのに……ぷぷぷ」
「ご機嫌ですね、サータスさん」
このところサータスは、本業である王都で稼働している各種魔導具の管理の他、支分国に供給される魔導具類の制作納品。
それらを通じて各国の状勢を把握するという裏業務に加え、転移装置の研究支援もやっていて大忙しだった。
彼女は、御前会議で提案された転移装置の量産計画に対し、時期尚早であると反対していた。
あの宝石棒を創り出した希美香なら、少し待てばもっと完成度の高い、それこそ古代の文献にあるような転移門を創り出すに違いない。
研究解析して魔導具に落とし込むなら、そのレベルのものが提出されるまで待ったほうが良い。量産する転移装置はそのくらい完成度の高いものに絞るべきだ、と。
しかし、早急に国体の立て直しを図りたい外務と財務、対ドルメア軍で前線維持に難儀している軍部が、とにかく転移の仕組みを解明したい魔術士達を味方につけて開発を推した。
結果、結構な予算をつぎ込んで件の試作転移装置が造られたわけだが、この装置の量産と優先利用権で軍の補給に使うか、支分国との交流に使うかで外務と軍部が揉めに揉めた。
支分国との交流には、増えた王女達の婚約を始め多くの案件が控えており、少しでも優位に進めるべく今までの魔導具とは一線を画す転移装置の威光に頼りたい外務。
その支分国をドルメア軍の脅威から護る為にも、戦力を護衛や運搬に割く事なく、道中の襲撃で奪われるリスクもなく、確実に補給物資を最前線に届けられる転移装置を常時利用したい軍部。
まだ一機しかない試作転移装置を取り合っていた外務と軍部だが、生物も運べる額縁型転移門が上がって来ると一転、装置の押し付け合いが始まった。
試作転移装置の優先利用権は譲るから額縁型転移門を優先的に使わせろという、身も蓋もない望みに忠実な手の平返しである。
研究所の魔導具職人と魔術士達は、一刻も早く額縁型転移門の研究に着手するべく、現行の転移装置量産計画は直ちに白紙へ。
納品された希少鉱石はそのまま次の研究に使えるが、残りの注文は一旦全てキャンセル。研究予算の組み直しに財務担当からは悲鳴が上がったそうな。
今は額縁型転移門の研究解析を進めつつ、外務が転移収納宝石棒を使って支分国の一つと手紙の速達で交渉事を進め、軍部は試作転移装置を前線に送って補給物資の転送を試みている。
手の空いた希美香は、同じく一息吐ける状態になったサータスの店まで顔を出しに来たのだ。
「それで? これが転移門の宝石ね?」
「はい。ひとつながりになった枠になら何にでも使える筈です」
額縁にくっつけたモノより一回り大きい長方形の宝石。これを窓でも門でも扉でも、枠部分に押し付ける事で魔力が浸透し、そこに転移門が形成される。
「うん、やっぱりとんでもないわね、キミカちゃん」
確かに期待はしていたが、こんなにも早く実現させるとは思わなかったと、サータスは感嘆するやら呆れるやら。
「イメージの仕方にコツを掴めたのと、向こうの創作物で予習が出来てたからかな」
「高度に発展した文明の娯楽って凄そうね。私も観て見たいわぁ」
希美香の元居た世界の話に聞く、様々な施設や技術、娯楽作品に興味を示すサータスは、ひとしきり雑談と休憩を楽しんだ後、お仕事モードに入る。
「キミカちゃんの創作鉱石に、量産の依頼が出たわ」
「……遂に解禁ですか」
希美香の特殊効果付き創作鉱石は、便利だが強力過ぎるという事で、何か一つ作ればそれを基にした魔導具を開発するという、ある種の制限が設けられていた。
先日ユニに説明した通り、魔導具職人の技術レベルを上げる目的もある。
「支分国との交渉が始まったんだけどね、早急にやりとりしなくちゃならない国が複数あるのよ」
当初は特に優先的に交流したい支分国に件の転移収納宝石棒を持たせた使者を送り、迅速な文書のやり取りで交渉を進めていたのだが、後回しにした幾つかの支分国に問題が出た。
「さっそく隣国から農業支援を受けてて、上手くいってるみたいなのよね」
「支分国から外れそうって事ですか?」
トレクルカーム王国が多くの支分国を従えられているのは、ひとえに食糧支援と魔導技術支援によるところが大きい――というか全てだったと言える。
この広大な領土で一切の農作物が育たない特殊な環境故に成り立っていた。
以前から切り崩し策として、食糧の支援を対価にトレクルカーム国から離反させようとする工作はあった。現在は農業が可能になった事で、より一層離反工作が活発化している状況だ。
「食糧支援の効果は時間の経過と共に消えちゃう。頼みの綱は魔導技術なわけよ」
その魔導技術の優位性もいつまで持つか分からない。周辺国にも優秀な魔術士は居るし、外から入って来る魔導具類もある。
そんな現状で、かつての環境下での『実りの大地』に匹敵する飛び抜けた要素。希美香の創作鉱石は、今のトレクルカーム王国にとって切り札となっていた。
「いずれ全て魔導具で再現するとして、今すぐ必要なものがこれね」
「ふむふむ、宝石棒くらいの転移量で二十個製作ですか。あとは共鳴石が五十個と」
希美香は、サータスが出した納品依頼書に目を通す。支分国との交渉計画についてもさらっと概要が併記されている。
(これって私も関わらせる気満々って事?)
ちらりと視線を上げると、サータスはニッコリ微笑んだ。肩を竦める希美香。
額縁型転移門はまだ表に出さず、試作転移装置もサンプルとして見学を許可する程度に隠しつつ、各支分国に出向く使者達には転移収納宝石棒と共鳴石を持たせる。
共鳴石を使った長距離通信により、国政を担う両国の重鎮同士が、直接対話をしながら文書のやり取りもできる環境を作る。
二国間で会談をおこなっているのと変わりない高度な交渉が可能になり、他国による離反工作の付け入る隙も潰せるというわけだ。
遠距離通信用の魔導具はまだまだ希少で、数も多く出回っていない。
そんな中で希美香の共鳴石を使った遠距離会談や、即座に手紙が届く転移装置の便利さは、各支分国の行く末を担う統治者達の心情に大きな影響を与えるだろう。
「じゃあこれ、宝石棒のシンプル版と共鳴石」
「早いわ、キミカちゃん」
その場で依頼の品を出してみせる希美香に、サータスは苦笑しながら受け取りのサインを用意するのだった。
こんな調子で、元の世界への帰還に向けて研究と開発を続ける希美香の平穏な日々は、前線からもたらされた一報によって、少し騒がしくなり始める――
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