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帰還編
第四話:トレクルカーム国の現状
しおりを挟む「キミカ殿。挨拶が前後したが、お初にお目にかかる。ユースアリ家の当主リンベリオだ」
「初めまして。彷徨い人の希美香と申します。ブラムエルさんにはいつもお世話になってます」
無難に挨拶を交わし、軽く雑談に興じる。視界の端で、アクサスがやや強張った顔をしていた。ディースプリネ家のアクサスは、カムレイゼ派の強硬派に属する。
同じカムレイゼ派の中でも穏健派のユースアリ家とは対立関係にあるのだ。
様々な思惑の下に組まれた希美香の護衛という役割が、派閥の垣根を越えてブラムエルや中立派コンステード家のルインと交流を図れているが、本来なら立場上この三人が接点を持つ機会は無かった。
希美香は派閥間の対立や内紛には無縁でいられるよう立ち回っているので、リンベリオとの雑談も本当に近況を少し話題にするくらいで、特に突っ込んだ話はしなかった。
具体的には、何処の誰を後ろ盾にするつもりかだとか、婚姻を見据えるほど関心を持てる特定の異性が居るか否か等の話題には極力触れないよう、ドルメア軍について質問したり。
「結局、今攻めて来てる国って、退きそうにないんですか?」
「いや、この前の騒ぎで様子見に転じたところが増えているな」
トレクルカーム王国に仕掛けて来る隣国は、ほぼその土地にある鉱脈が目当てであり、主だった鉱脈を持つ支分国が狙われては、本国から派遣した軍部隊によって退けている。
もっとも、いくら価値ある鉱石が採れるからといって、作物が育たない呪われた土地だ。無理に攻めて占領したところで、駐留する兵士を維持する為の食糧が直ぐに尽きる。
腰を据えた採掘ができなければ、戦費が嵩むばかりで割りに合わない。
そんな厳しい環境下にありながらも侵略を試みる国が絶えないのは、傭兵国家ドルメアの存在が大きかったという。
ドルメアが戦闘全般を引き受け、侵略した街の統治と採掘は同盟を結んだ国が担う。
やっている事は傭兵団と同じだが、ドルメアは国家を名乗って活動しており、共闘する国には対等な同盟国としての立場を求めている。
実際、ドルメアの戦力規模は大手の傭兵団程度におさまらない。
共闘国から十分な補給を得て戦場を駆けまわるドルメア軍は、トレクルカームの領土を切り取りたい周辺国全ての尖兵となりながら、正規軍並みの働きをしていた。
しかし、希美香が呪いを解除して『作物が育たない呪われた土地』という前提が覆った。
狙われた各支分国が独自に食糧を用意できるようになると、本国から派遣される兵力に加えて支分国の防衛戦力も今までより多く置ける。
これまでトレクルカーム側は、兵糧と戦力の問題から攻められれば防衛に徹する事しかできなかったが、これからは反撃で相手国に対して攻め返す事も視野に入れられるようになった。
侵略してくる隣国群の中でも、この変化に逸早く気付いて退く準備をしている国もあるそうだ。
「それに加えて、キミカ殿が作り出した転移門関連の道具が大きい」
あれが軍に限らず国内で本格的に運用されるようになれば、これまでとは全く違った戦略が立てられる。トレクルカーム国にとって大いに有利に働くとの事だった。
戦事情は今のところ優位に傾いているが、その戦況を維持する為には、各支分国との結びつきをこれまで通り保てなければならない。
今現在、特に重要な支分国との交渉を担っている外務の使者達に、転移収納宝石棒と共鳴石を優先的に持たせたのはそういう事情らしい。
「軍部としては、件の額縁型転移門を卸して欲しいところだが……」
「上に掛け合って下さいね」
「父上……」
駄目元で製造元から直接寄贈を狙うリンベリオに、苦笑を返しながらお断りする希美香と、困った表情を浮かべて父を見やるブラムエル。
本当に言うだけ言ってみた感のあるリンベリオは、なるべく早い転移門の利用解禁を願いながらこの場を去っていった。
希美香に要望を伝えておけただけでも、よしとしたようだ。
「さて、私たちも戻りましょっか」
「朝食もまだでしたね」
一息吐いて希美香たちも会議室を後にする。ユニの一言で朝食前だった事を思い出した希美香は、意識した途端にお腹が空いてくる。
「このまま食堂に行っちゃダメかな?」
「一応、着替えて下さいね」
その後、朝食を済ませて自室を後にした希美香は、日課である『転移門創り』でラコエル宮殿の宮廷魔術研究所に向かう。
宝石塔を訪れ、何時ものように宮殿の入り口を護る騎士と挨拶を交わして中に入ったところで、元気な声が希美香の名前を呼んだ。
「キミカー!」
「あれ、サリィスちゃん」
軽くウェーブした明るいブロンドの髪をなびかせながら、パタパタと廊下を駆けて来るサリィス姫。トレクルカーム王国の第三王女で、最後の『贄の王女』となった十三歳の姫君である。
謁見の間で初めて会った時から天真爛漫さを発揮していて、夜中に城を抜け出そうとした事があるなど、中々のお転婆姫。
好奇心旺盛で珍しいもの好きな気質もあって彷徨い人の希美香に懐いていたが、生け贄の運命から救われた事でより一層、希美香を信頼するようになった。
今日は後ろに同じくらいの歳の少女を数人連れている。彼女達はサリィス姫と同じく、トレクルカーム国の王女達だ。そして、歴代の『贄の王女』でもある。
希美香がこの国を覆っていたラコエルの『呪いと祝福』を打ち消した日、過去の時代から蘇った贄の王女達。
いずれも十三歳だが、それぞれ生まれた年代が十三年ずつ違っているので、皆サリィス姫と同年代ながら十三歳ずつ年上というややこしい事になっていた。
何せ最古参である最初の『贄の王女』は、三六四年前に十三歳だった王女なのだ。
「こんにちは、お姫様達」
「ごきげんようですわ」
「こんにちはキミカ様」
「ひさしいの、キミカ嬢」
希美香が挨拶すると、各々の個性が感じられる挨拶が返って来る。
あの解放の日の混乱の中で、王女達とは一通り顔を合わせているので、一応皆顔見知りであり、彼女達にとって希美香は命の恩人でもあった。
「今日はみんなでどうしたの?」
「うむ、実は希美香に相談があってな」
蘇った王女達の半数以上がラコエル宮殿に住んでいるのだが、彼女達の何人かは政略結婚で重要な支分国に嫁ぐ事が決まっている。
サリィス姫は、自身もいずれどこかの支分国に嫁ぐのであろう事を察しながら、何か自分達の証を残したいと考えたらしい。
「せっかく珍しい経験をしたのだ。私たちにはもっと特別感があっても良い筈だ!」
そう力説するサリィス姫は、自分達が贄の王女だった事を示す特別な宝飾品が欲しいと訴えた。
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